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第67話:魔界への越境、独り秘めたる真実との葛藤なんですけどぉ!

 魔界ゲートへと続く、歪んだ魔力が渦巻く街道。

 見送りの喧騒が遠ざかった静寂の中で、凛愛は不意に、髪の中に潜む相棒へ、その核心を突くような問いを投げかけた。


「ね、チュンペーはさ、五百年前に、もしも雀にされてなかったら……セリアと和解してた?」


 その問いを聞いた瞬間、チュンペーの小さな身体が強張った。

 凛愛は、軽い気持ちで聞いたわけではない。

 みんなの期待を背負い、平和を願う勇者として、500年前の結末の「もしも」を知りたかったのだ。


 だが、チュンペーの脳裏には、誰にも……それこそ凛愛にすら、今この瞬間まで明かしたことのない、あの日のマヌケで悲劇的な光景が鮮明に蘇っていた。

 五百年前の最終決戦。


 魔王としての罵声を浴びせた瞬間、あろうことか勇者セリアの心の奥底に眠っていた「M気質」が目覚めてしまった、あの光景を。


 頬を赤らめ、悦びに身を震わせて攻撃の手を緩めたセリア。

 それを見て、己の威圧感で彼女を屈服させたのだと勘違いし、思わず手を止めてしまった自分の「隙」。


 そして、その「隙」こそが、物陰から見ていた弟アザエルには、二人が魂を通わせ、和解に至った決定的な瞬間に見えてしまったのだ。


 あのアザエルの暴走と、その後五百年に渡る魔王の悲劇の引き金は、そんなあまりにも救いようのない、マヌケなボタンの掛け違い。


「……あたしの目的は契約を終わらせることだけど、出来ることなら平和が良いに決まってるじゃん? みんな良い人だし、守りたいし、ね?」


 何も知らない凛愛の真っ直ぐな言葉が、チュンペーの胸を刺す。


 もし、あの時、セリアがあんな気質に目覚めなければ。

 もし、自分が一瞬でも手を止めなければ。

 アザエルへの憎しみも、セリアと分かり合えたかもしれないという淡い期待も、全てはあの「マヌケな真実」という巨大な影に飲み込まれていく。


 雀として過ごしてきた屈辱の日々。


 その果てに、かつての因縁の相手の生まれ変わりである、このバカ人間と共に過ごす短いが充実した毎日。

 魔王の中では、すでに答えは出ていたのかも知れない。


 だが、チュンペーは、その真実を口にすることはなかった。


 それを言えば、凛愛までもが、あの日の救いようのない滑稽さに巻き込まれてしまうからだ。


『……フン。仮定の話など、我には無意味だ』


 チュンペーは、突き放すような、けれどどこか寂しげな声を絞り出した。


『五百年前の因縁も、アザエルの絶望も、貴様が背負う必要はない。貴様はただ、貴様の望むように、魔界の頂点を獲りに行けばよいのだ、バカ人間』


「えー、またそれ! チュンペーって、ホント素直じゃないんだからぁ!」


 凛愛はぷくっと頬を膨らませたが、チュンペーがそっぽを向いたまま、二度と口を開かないことで、その話題が彼にとって触れられたくない聖域であることを察した。


「……ま、いいけど。あたしが全部、丸く収めてあげるから見てなよ」


 凛愛は聖光剣を強く握り直し、目の前に現れた、魔界への境界線……漆黒のゲートへと足を踏み入れた。

 真実を知る者は、今も髪の中で沈黙を守り続けている。


 街道を進むにつれ、周囲の空気は重く、ねっとりとした禍々しい雰囲気を纏い始めた。


 人の出入りが途絶えて久しいその場所は、陽の光さえも拒絶するかのように、どんよりとした薄暗さに包まれている。


「前方に魔界ゲートの座標を確認。空間の歪みが臨界点に達しています」


 メモリエルの淡々とした報告と同時に、凛愛の魔力探知も、その異質な波動を捉え始めていた。


 これまでの人界とは明らかに異なる、トゲトゲしくて冷たい魔力の流れ。

 すると、凛愛の腰元で、聖光剣アルスカイゼリオンがガタガタと激しく震え出した。


『……ククク、懐かしいのう! この肌を刺すような空気感、これこそ魔界よ! のう、勇者よ! 我の武者震いが止まらぬわ!ほれっほれっ!』


「ちょっ、振動いらないってば! 腰に響くから、マジで静かにして!」


 感極まって振動し続けるエロ剣を、凛愛は必死に押さえつける。


 そんな喧騒を余所に、髪の中にいたチュンペーが、鋭い声で警告を発した。


『気を引き締めろ、バカ人間! 魔界の瘴気は毒と同じだ。耐性のない者が吸えば、並大抵では呼吸困難に陥るぞ』

「マジ? 呼吸困難とか、デバフどころの騒ぎじゃないじゃん……」


 凛愛は鼻と口を手で覆いながら、目の前に広がる景色を眺めた。

 歪んだ大樹が黒く立ち枯れ、紫色の霧が地面を這うように流れている。

 空は毒々しい赤紫に染まり、遠くからは正体不明の獣の咆哮が聞こえてきた。


「うぁ~……見るからに『魔界』って感じのデザインだよねー。こういう毒沼ステージみたいなの、あんま好きくないなぁ……」


 ゲーム脳の凛愛にとって、それは視覚的にも精神的にも、好みのグラフィックではなかった。

 けれど、もう引き返すことはできない。

 凛愛は大きく一つ深呼吸……をしかけて、慌てて止めた。


 代わりに、メモリエルが即座に展開した薄い障壁を纏い、一歩、また一歩と、異界の入り口へと足を踏み出していく。


「……行くよ、チュンペー。テッペン獲るまで、帰りたくても帰れないんだから」


 勇者の靴が、魔界の乾いた土を初めて踏みしめた。

 現在のステータス


 • 名前:星凛愛ホシ・リア

 • レベル:17

 • 力:4

 • 体力:4

 • 素早さ:18

 • 知力:12

 • 魔力:13

 • 運:10

 • スキル:魔力感知、逃走の極意

 • 状態:魔界侵入開始、瘴気警戒

 • 状況:魔界ゲートを越え、未知の領域へ。エロ剣は興奮、凛愛はデザインに不満。

 • 精神状態:毒々しいのヤダ!

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