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第70話 : 孤独な魔王、悲しみの執念なんですけどぉ!

 玉座の間に、静かに座る男の姿があった。


 黒髪に深紅の瞳、蒼白い肌。


 感情をほとんど表に出さない、冷たく美しい魔王——アザエル。


 アザエルはゆっくりと立ち上がり、凛愛とその頭に乗った小さな雀、そして彼女が携える二つの遺物を見た。

 瞬間、彼の瞳がわずかに揺れた。


「……兄上」


 声は低く、抑揚がほとんどない。

 そして、凛愛の顔を真正面から見つめ、息を止めた。


「……セリア?」


 その名を、ほとんど無意識に零した。

 瓜二つだった。

 顔立ちの輪郭、瞳の形、髪の流れ方さえも——

 五百年前に自分を倒し、命を奪わず去っていった勇者セリアと、目の前の少女は驚くほど似ていた。


 アザエルの胸に、複雑で苦い感情が一気に蘇る。


(……まさか。セリアに情けをかけられた屈辱を、

 今度はその瓜二つの顔をした人間が、兄上を連れて私のもとに現れるとは……)


 彼は静かに、しかし確かに声を震わせて続けた。


「……五百年前、セリアは私を行動不能にした。だが、命は奪わなかった……あの時、私はそれを『侮辱』だと思った。今も、そう思っている。」


 アザエルの視線が、凛愛の顔から離れない。


「それなのに……今、兄上はセリアと瓜二つの人間を連れてここに来た。しかも、その人間はセリアが私を倒した時に使った二つの遺物を、堂々と持っている……」


 彼はゆっくりと一歩踏み出した。


 冷たい魔力が、静かに部屋全体を満たしていく。


(……これは復讐に来たのか……セリアが私に与えた屈辱を、今度はその瓜二つの顔をしたお前が、私に返しに来たのか……)


 アザエルはそこで初めて、わずかに目を細めて凛愛を見た。


「星凛愛。お前は、本当に……セリアの意志を継いでいるつもりか?それとも、ただの……愚かな人間か」


 チュンペーは凛愛の髪の中で、ただ静かに目を閉じていた。


 弟の声に、かつての優しさと、深い苦しみが混じっていることを感じ取っていた。

 凛愛は息を飲みながら、勇気を振り絞って一歩踏み出した。


「……アザエルさん。あたし、争いはしたくない。

 セリアさんの想いも、チュンペーの想いも、ちゃんと聞いて……二人を、和解させたいん…です」


 アザエルは無言で彼女を見つめ続けた。

 五百年の孤独と、兄を慕いつつも超えようと努力し続けた執念。


 そして、セリアに命を奪われなかったという、忘れられない屈辱と……今、目の前に立つ瓜二つの顔をした少女への、複雑な感情。


 玉座の間は、再び深い静寂に包まれた。


 その静寂を破ったのは、凛愛の腰元で震えるエロ剣でも、メモリエルの電子音でもなかった。


 チュンペーが、ゆっくりと目を開き、弟を真っ直ぐに見据えて鳴いたのだ。


『……ふん。我をこのような無様な姿にしておきながら、まだ兄と呼ぶか、アザエル』


 その言葉が放たれた瞬間、玉座の間の空気が爆発しそうなほどの緊張感に包まれた。

 チュンペーの声には、かつての魔王としての威厳と、突き放すような冷たさ、そして……自分を裏切った弟への、どうしようもない愛情が混ざり合っていた。


 アザエルはその言葉を受け、わずかに眉を寄せた。

 五百年前、自らの手で放った呪い。兄の才を、誇りを、すべてを雀という小さな器に閉じ込め、歴史から消し去ったのは自分だ。


「……そうです。私は、あなたを貶めた。だが、そうせねばならなかった」


 アザエルは震える拳を隠すように、強く握りしめた。


「和解という甘い毒で、一族を、魔界を破滅させようとした兄上を止めるには、これしかなかったのです! ……だが、なぜ……なぜ、あなたは今もそんな風に、私を見下すような目をされるのですか!」


 弟の叫びは、もはや魔王の裁定ではなく、幼い頃に兄の影に隠れて泣いていた子供の訴えそのものだった。

 凛愛は胸が締め付けられるのを感じた。


(……この人、ずっと……認めてもらいたかったんだ…)


 凛愛は、その言葉の裏にある「僕を見てくれ」という切実な願いを、痛いほどに感じ取っていた。


「……ねぇ、チュンペー……」


 凛愛がそっと相棒の名前を呼ぶ。

 このままでは、二人の時間は五百年前のあの瞬間に戻ったまま、永遠に凍りついてしまう。

 チュンペーは凛愛の肩に飛び移り、アザエルとの距離を詰めた。


 その小さな翼を広げ、かつての魔王クロウヴァルドとしての気高さを、極小の体から放った。


『……アザエル。ならば見せてみろ。その五百年の努力とやらが我の選んだ、このバカ人間を前に、どれほどの価値があるのかを……な』


 それは挑発であり、同時にアザエルの「努力」を正面から受け止めようとする、兄なりの不器用な誘いだった。


 アザエルは一瞬、呆然と兄を見つめた後、その瞳に静かで苛烈な炎を灯した。


「……承知いたしました、兄上……セバス、案内を」


 彼は静かにセバスチャンデルセンに視線を移した。


「勇者様。魔界の学園に入学できるかどうかの基礎能力を見定める『魔界入学儀式』へ、ご案内いたします……特別枠とはいえ、あまりにも基礎がショボければ、話になりませんので」


 凛愛は思わず小さく叫んだ。


「ええーっ!?いきなり入学試験!?しかも基礎能力って……あたしのステータス知ってるよね、チュンペー!?試験とか……オワタ」


 現在のステータス

 • 名前:星凛愛ホシ・リア

 • レベル:17

 • 力:4

 • 体力:4

 • 素早さ:18

 • 知力:12

 • 魔力:13

 • 運:10

 • スキル:魔力感知、逃走の極意

 • 状態:アザエルと対峙中

 • 状況:兄弟の激しい愛憎の火花が散る中、ついに魔界の試練が始まる。

 • 精神状態:ええーっ!? いきなり試験!? あたしのスペックで魔界の学園に入れるわけないじゃん!!

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