第63話:勇者の肖像画と、投影される少女の才なんですけどぉ!
王との謁見から一夜明け、アヴェントリアの街には明らかな変化が起きていた。
市場のあちこちで、平民たちが「魔導スマホ」を耳に当て、独り言のように喋りながら歩いている。
「ンあぁ〜! なぁんて便利なんだァい! こんな魔導器を手にする日が来るなんてねェ!」
ショップの扉を勢いよく開けて入ってきたのは、商人のマルコだ。
彼もまた、手に入れたばかりの魔導スマホを耳に当て、興奮した様子で店内を見渡した。
「仕事が捗りすぎて怖いくらいよ! どっからでも指示できんだからァ〜! 勇者様々だねェ、ホント!」
「シーッ! 静かにしてください、マルコ様!」
慌てて駆け寄ってきたミリナが、人差し指を口に当ててマルコを制した。
「いま店長が……肖像画のモデルの、最中なんです」
ミリナが指差す先、店の一角に特設された台の上では、ど緊張した面持ちの凛愛が、聖光剣アルスカイゼリオンを天高く掲げたポーズで固まっていた。
「……きっつ……まだ、かかりそうですかね? 腕が、限界突破しそうなんですけどぉ……」
知力12の冷静さなどどこへやら、慣れない「勇者ポーズ」と、ギルド職員が連れてきた老画家の熱心な視線に、凛愛は小刻みに震えている。
事の発端は、冒険者ギルドのリリスの提案だった。
「民の希望となる勇者の姿を、ギルドや木漏れ日亭に飾るべきだ」という急な計画が、マーサの快諾もあって即実行に移されたのだ。
『……クククッ。良いぞ、そのまま腕を震わせるがよい。その無防備な脇、そして必死に耐える潤んだ瞳……実に、実に唆るではないか。そのまま我を強く握れ、もっと熱く……!』
「……っ!?マジでウザい……!」
凛愛にしか聞こえない卑猥な言葉攻めを仕掛けるエロ剣に対し、腰元のメモリエルが容赦なく青白い火花を散らす。
「……邪念の排除を開始します。不潔な意識を焼却」
「ぎゃああああ! ワシの柄が、柄が痺れるぅぅ!!」
「……あ、あの、勇者様? もう少し、凛々しい表情をいただけますか……?」
剣から火花が散り、凛愛が変な声を漏らす様子に、画家は困惑しながらも必死に筆を動かしている。
その様子を横で見ていたマルコは、完成に近づく凛愛の勇姿に目を輝かせた。
「はぁー! ちょっと! 画家! その絵、完成したら複製を大量に発注するわ! ショップのポスターにするし、なんならグッズ展開も考えようじゃないのォ!」
「えぇっ!? 複製とか、マジ勘弁なんですけどぉーーっ!!」
凛愛の絶叫が店内に響き渡る。
平穏を願う王の懸念をよそに、アヴェントリアの「勇者熱」は、魔導スマホという文明の利器と共に加速し続けていた。
プルプルと腕を震わせ、限界を迎えつつあった凛愛の聖光剣が今にも落ちそうになったその時、作業台の上のスマホから聞き慣れない着信音が鳴り響いた。
「え? 電話……!? 誰だろ、てか、いまでれない!」
凛愛が戸惑っていると、腰元のメモリエルが勝手に端末と同期し、スピーカーモードで応答してしまった。
「はい、こちらメモリエルです。現在、星凛愛は肖像画のモデル中につき、対応に制限があります」
「こら! モリエ、勝手に出ないでー! ってか誰!?」
凛愛がポーズを崩さないように必死に声を潜める中、スマホの向こうから、小さく、けれど透き通った声が聞こえてきた。
「……おねえ、ちゃん……」
「あ……フィオちゃん……!」
凛愛の瞳がぱっと輝いた。
「フィオ、アルメリアさんに、代わるね……」
カサカサという音のあと、アルメリアの興奮したような高い声がスピーカーから飛び出してきた。
「リア!? この娘、スゴイ逸材よ! エルドリンにもさっき連絡したんだけど、このフィオって子、あなたが渡したスマホの術式を眺めてたと思ったら、勝手に姿写しの機能の術式を書き出しちゃって、それが可能だってわかったの!」
「姿写しって……!? ってか、あの子が術式を直接いじったの!?」
知力12の凛愛は、その機能がもたらす技術的な衝撃を瞬時に理解した。
だが、驚きはそれだけでは終わらなかった。
「……フィオから送信された追加パッチを適用。空間情報の再構成を開始します」
メモリエルが青い光を放った瞬間、スマホから溢れ出した光の粒子が空中で渦を巻き、等身大より少し小さな、淡く光る人影を形作っていく。
そこには、アルメリアの工房にいるはずのフィオが、あたかもその場に立っているかのように立体的に投影されていた。
「ひぇっ!? フィオちゃんが、浮いてる……!? スゴくない!?マジ!?完全にホログラムじゃん! SFじゃん!」
チュンペーも驚愕し羽根をバタつかせる。
『……おいバカ人間、腰を抜かしている場合か。この小娘、一体何をした!? 通信魔導の域を完全に超え、空間そのものを無理やり引き寄せて繋ぎ合わせるような術式だぞ、これは……! これほどの構成は見たことがない。この小娘……何者!?』
「……おねえちゃん、みえる」
投影されたフィオが嬉しそうに微笑む。
5歳ほどの少女が独力で、通信の常識を数段階飛び越えた高度な投影式を完成させてしまったのだ。
「……フィオが追加した術式は、空間そのものを繋ぎ合わせる極めて高度なものです。これを使えば、遠く離れた相手とも、あたかもその場にいるように会話が可能です」
「フィオちゃん、マジで凄すぎるんですけどぉ……! お姉ちゃん、もう感動して腕のプルプル加速しちゃう!」
凛愛がポーズを固定したまま叫ぶと、背後で見ていたマルコがさらに興奮して身を乗り出した。
「はぁー! ちょっと! 画家! 今の光景、完璧に写し取りなさいよ! これこそ新時代の勇者の姿だわァー!なんなの!?魔導革命ぃい!あぁ〜ンッ!止まんないじゃないのよォー!!」
身悶え興奮するマルコの絶叫と共に、画家の筆が猛烈な勢いで走り始め、勇者ショップに新たな伝説が刻まれていく。
現在のステータス
• 名前:星凛愛
• レベル:17
• 力:4
• 体力:4
• 素早さ:18
• 知力:12
• 魔力:13
• 運:10
• スキル:魔力感知、逃走の極意
• 状態:モデル中(驚愕で硬直)、フィオの才能に圧倒
• 状況:フィオが開発した「高度な投影式」により、離れた場所との立体通信に成功。
• 精神状態:フィオちゃん、マジでチートなんですけどぉ!




