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第61話:開店早々の休業と、王様からの呼び出しなんですけどぉ!

 昨日の熱狂が嘘のように、勇者ショップの重厚な扉には一枚の大きな看板が掲げられていた。


「在庫無しの為、本日休業。……はぁ、まさかたった一日でこうなるとは思わなかったんですけどぉ」


 凛愛は店の前で深いため息をついた。

 看板の向こう側では、ミリナが真っ青な顔で伝票と格闘し、エルドリンは「吾輩、もう寝てないんだよぉ!」と叫びながら工房へ向かう馬車に素材を積み込んでいる。


「あんなに用意した魔導スマホが完売なんて、アヴェントリアの購買意欲、バグりすぎでしょ……」


 凛愛が店内の掃除でも始めようとしたその時だった。

 ガシャン、ガシャンと規則正しい金属音が響き、白銀の鎧に身を包んだ一団が店の前に現れた。

 その中心に立つ騎士が、仰々しく巻物を広げる。


「勇者、星凛愛殿とお見受けする。我らは王宮騎士団、レオニス・アルヴァレット王の使いである。レオニス王よりの勅命召喚である! 直ちに王城へ参内せよ!」


「……ちょくめい? しょーかん? 何それ、新しい限定ガチャの名前?」


 凛愛がポカンと口を開けて首を傾げると、髪の中に隠れていたチュンペーが、呆れたように、けれど切羽詰まった声で耳元に囁いた。


『……バカ人間。勅命というのは王の絶対的な命令、召喚というのは呼び出しだ。つまり「拒否したら反逆者として即刻処刑されても文句は言えんぞ」という、国家レベルの強制イベントだ』


「えぇっ!? 処刑!? あたし、お店開いただけっしょ! 悪いことしてないのに、いきなりBANされんのぉ!?」


『……騒ぐな、いいか、この国の最高権力者が、貴様に目を付けたということだ。昨日あれだけ騒ぎを起こせば当然だが……これはただの招待ではないぞ。おそらく、貴様の存在が平和を乱す毒だと判断された可能性がある』


「はぁ?毒とか、失礼なんですけどぉ! あたし、可愛いスマホ売っただけだし!」


 騎士は凛愛の独り言を無視し、金色の刺繍が施された書状を突きつけた。


「さあ、馬車が待っております。勇者殿、速やかに!」


「……わ、わかりました。準備するから、ちょっと待ってて……」


 凛愛は震える手で書状を受け取った。

 意味がわかればわかるほど、行きたくない場所。


 騎士たちが用意した豪華な馬車を前に、凛愛は引きつった笑顔で手を振った。


「ミリナちゃん、ちょっと行ってくるねー! 後ろの在庫整理、よろしくぅ!」


「え!?あ、あ、店長……! ご武運をーっ!」


 ミリナの悲壮な叫びを背に、馬車は走り出す。


 アヴェントリアの象徴である黄金回廊を抜けると、目の前には空を突き刺すような荘厳な城がそびえ立っていた。


「……すごっ。これ、マジでRPGの最終ステージじゃん! グラフィックの解像度高すぎなんですけどぉー!」


 さっきまでの不安はどこへやら、あまりにファンタジーすぎる絶景に凛愛のテンションは爆上がりだ。

 カメラ機能があれば動画に収めたいほどの光景に、瞳を輝かせる。


『……まったく、これだからバカ人間は。いいか、気を引き締めろ。ここから先は、貴様の不用意な一言で世界のバランスがひっくり返る場所なのだぞ』


 髪の中から聞こえるチュンペーの低い警告に、凛愛は少しだけ背筋を伸ばした。

 やがて通されたのは、天井の見えないほど広い謁見の間。


 その奥の玉座に鎮座するアヴェントリアの王、レオニス・アルヴァレット。


 彼から放たれる、凍りつくような圧倒的なプレッシャーを肌で感じた瞬間、凛愛の浮かれたテンションは一気にダダ下がりした。


「……あ、う……」

 凛愛は吸い込まれるようにその場に跪く。


「面を上げよ、星凛愛。勇者の再来と聞き及んでおる」


 レオニスの冷徹な瞳が凛愛を射抜く。

 彼は形式的な挨拶など一切省き、いきなり核心を突きつけてきた。


「……率直に申す。そなたに問いたい……そなたは、魔界を滅ぼすために現れたのか?」


 あまりに重すぎる問いに、凛愛は思わず素の声で返してしまった。


「……え? 違います……あたしは、戦うために魔界に行くわけでは、ご、ございません!」


「魔界には行くが、戦うためではない、と? では、なぜ魔界へ赴くのだ?」


 レオニスが身を乗り出す。その瞳には、勇者という存在への強い不信感が宿っていた。


「このアヴェントリアは500年の長きにわたり平和を続けてきた。その平穏を崩すことは、王として、余が断じて許さぬ。勇者が動けば魔王が動き、世界は再び火の海となるのだ」


 玉座から静かに立ち上がる王。その影が凛愛を覆う。


「……そなたの目的はなんだ? 答えよ、勇者」


 凛愛は、ここで「正義のため」なんて嘘を言っても、この賢王には一瞬で見抜かれると弾き出していた。


 けれど、正直に「チュンペーとの契約」の事を言えば、それこそ不敬罪で首が飛びかねない。


 静まり返った謁見の間。凛愛の冷や汗が、床に一滴、滴り落ちた。


 現在のステータス

 • 名前:星凛愛ホシ・リア

 • 状態:謁見中、絶体絶命の尋問

 • 状況:レオニス王から、魔界へ行く目的を問われている。

 • 精神状態:平和を壊す気なんて1ミリもないけど……魔王との契約なんて言えないよぉ!

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