第59話:グランドオープン!アイドルの握手会じゃないんですけどぉ!?
グランドオープン当日。
アヴェントリアの一等地に構えた店の前は、黄金回廊を埋め尽くす長蛇の列どころではなかった。
広場から続く通りは、まるで暴動でも起こったかのような熱気と人で溢れかえっている。
「……ねぇ、ミリナちゃん。これ、あたしの見間違いかな? 人が集まりすぎて、地面が見えないんですけどぉ……!」
凛愛が窓の外を指さして震えると、隣に立つミリナも引きつった笑顔で頷いた。
「て、店長……これは見間違いじゃありません。どう見ても、在庫が、全然、これっぽっちも足りない気がします……!」
店の外では、マルコがその強烈な存在感を放ちながら、群衆に向けて怒声を浴びせていた。
「アンタたち、並べ! 行列を乱すんじゃないわよォ! ここは勇者様の御前よォ! 行儀良くしないヤツァ、アタシが容赦しねェわよッ!!」
その迫力に押され、暴徒化しかけていた群衆が慌てて列を整える。
警備には、ラグだけでなく、ハルドまでもがリアの初陣だと助っ人に加わり、鋭い視線を光らせていた。
一方、開発者のエルドリンは店にはおらず、自身の工房に籠りきりで急ピッチの量産を続けていた。
「……吾輩、もう指が動かないね。でも、みんなが待ってるんだ。頑張って作るしかないね……!偉いね!」
店の一角では、アルメリアが優雅な手つきで魔導スマホのカスタムケースデザインの受付準備しつつ嬉しい悲鳴をあげる。
「これは……マズいわ。私も人を雇わないと回らないかもね」
いつのまにか、関わった全員がこの勇者ビジネスの歯車としてフル回転していた。
凛愛の「なんとなく」から始まった店は、もはや街の経済を動かす巨大なシステムへと変貌を遂げている。
その騒動を、凛愛の髪の中から静かに見守っていたチュンペーが、感嘆したように呟いた。
『……ふん。拾った金貨3枚から始まったあの貧乏生活が、嘘のようだな。もはやアヴェントリアで一二を争う富豪になるやもしれぬ……どこまでも、運を持っているヤツだ。バカ人間め』
「……富豪とか言われても、あたし、ただ可愛い雑貨に囲まれたかっただけなんだけどぉ! なんでこんな国家プロジェクトみたいな規模になってるの!?勇者ビジネス……エグすぎ!」
押し寄せる客、鳴り止まない金貨の音。
「……やるよ、店長モード、オンっ!」
凛愛が意を決して店の扉を押し開け、客たちの前に姿を現した瞬間だった。
「「「うおおおおおおおおおおっ!!!」」」
アヴェントリアの空気を震わせ、天地を揺らすほどの凄まじい歓声が爆発した。
500年振りに現れた伝説の存在、勇者の再来。
その姿をひと目見ようと詰めかけた人々は、もはや買い物どころではない。
「勇者様! 勇者様だぁっ! 拝ませてくれぇ!」
「伝説の勇者が、こんなに可愛らしい娘だなんて……生きててよかったぁ!」
感動のあまり涙を流し、天を仰いで喜ぶ者。
少しでも近づこうと身を乗り出し、必死に握手を求める者たち。
店内は一瞬で、秩序の崩壊した混沌とした空間へと変貌した。
「……ちょっ、えっ!? なにこれ、アイドルの握手会かよぉー!? あたし、ただのショップ店長なんですけどぉ!」
押し寄せる人の波に、凛愛の細い体は今にも飲み込まれそうになる。
マルコですら熱狂する群衆を押し止めることができないほどの大賑わいだ。
さらに、凛愛の頭の上で赤いマフラーを巻いて鎮座しているチュンペーまでもが、注目の的となっていた。
「見て! 勇者様の守護聖獣様だわ! なんて神々しいスズメさんなの……!」
「ああ、あの高貴なお姿……一度でいいから触れてみたい!」
『……貴様ら、気安く触るな! 寄るな、無礼者めっ!』
チュンペーは困惑と怒りをあらわにしながら、隙あらばその小さな嘴で、伸びてくる客たちの指を猛烈な勢いで突きまくっている。
元魔王の威厳も、熱狂したファンたちの前では「可愛い仕草」に変換されてしまっていた。
そんな中、凛愛の腰元で一人、別のベクトルでテンションを上げている者がいた。
「ふもっふ! 店長、素晴らしいぞ! 左右前後、見渡す限りの人、人! そしてこの、もみくちゃにされるがゆえの密着感! これぞワシが求めていた至福の時だ!たまらん!」
「……っ! このエロ剣、こんな時に何言ってんの! モリエ、もう一発お願いっ!」
「了解しました……極限の不潔を検知……最大出力で沈黙を執行します」
パチィィィッ!! と、凛愛の腰元で本日最大の蒼い火花が散るが、アルスカイゼリオンは、もはやそれすらも快感に変えて悶えているようだった。
客にまでシゲキ的な電流が流れてしまったが、勇者に対する興奮と相まって、更に熱狂の渦になっていく。
騒乱、熱狂、そして混沌。
勇者ショップの初日は、歴史に刻まれるほどの大盛況となった。
だが、その狂騒の光景を、遠くそびえる王城のバルコニーから、冷徹な目で見下ろす姿があった。
賑わう街並みの喧騒が届かないその場所で、その人物は静かに、けれど確実に、凛愛という異分子の動向をその目に焼き付けていた。
現在のステータス
• 名前:星凛愛
• 状態:店長、アイドル並みの人気、謎の視線
• 状況:ショップ開店、大混乱のスタート。
• 精神状態:これ、あたしの店っていうか、あたしが展示物になってない!?




