第55話:青天の霹靂!爆発する嫌悪感と、不本意な覚醒なんですけどぉ!
地下聖域に、ハルドとアルメリアの必死な応援が響き渡る。
目の前では、凛愛が聖剣に縋り付くようにして、全身を細かく震わせていた。
「おい、見ろよアルメリア! 聖剣の重圧にあそこまで耐えるなんて……リアの奴、命を削ってやがるんだ!」
「ええ……! あの華奢な体で、伝説の試練に真っ向から立ち向かっているのね。頑張って、リア!貴女なら出来るわ!」
ハルドたちは、凛愛がチュンペーの罵倒に身悶えし、脱力感で腰が砕けているだけだとは夢にも思っていない。
聖剣からもたらされる膨大な魔力と、それに抗う勇者の精神的消耗……彼らの目には、そうした崇高な戦いに映っていた。
だが、凛愛の頭の中は、もはや限界だった。
「あぁ……よい、よいぞ。その熱い吐息、ワシの刀身に染み渡る……もっと、もっと密着するがよい、勇者よ!」
『何をだらしなく縋り付いておる! この性根から腐ったバカ人間めが! 貴様のその醜態、我が翼で切り刻んでやりたいほどだぞ!』
エロ剣の粘着質な囁きと、チュンペーの容赦ない罵倒。
もたれかかる凛愛の体温を感じて歓喜するアルスカイゼリオンの波動が、ついに同期しているメモリエルの逆鱗に触れた。
「……星凛愛……そして、私の卑劣な半身……許しません……抹消……この低俗な空間ごと、一瞬で浄化します」
モリエの冷徹な警告と共に、凛愛の懐にあるスマホから、バチバチと激しい音が鳴り響く。
メモリエルが放つ光は、もはや穏やかな守護の輝きではない。
それは、持ち主の嫌悪感をそのまま形にしたような、鋭利で暴力的な蒼い電撃だった。
「えっ!? なっ、ちょっ……新しいシゲキ!?」
「警告……高出力放電を開始……不浄な個体を物理的に強制排除します」
ドォォォンッ!!
凄まじい轟音と共に、スマホから溢れ出した蒼い稲妻が、凛愛の手を通じて聖剣アルスカイゼリオンへと直撃した。
「ぎゃあああああああ!? 痛ってええええっ!!」
「ぐ、ぐわあああぁぁぁっ!? な、何をする……ワシには刺激が強すぎる!!……いや、悪くない……ふぅ」
エロ剣は悲鳴を上げながらも、そのあまりの衝撃に絶頂するかのような絶叫を上げた。
モリエの我慢の限界を超えた一撃は、聖剣の台座を粉々に砕き、癒着していた魔力の結合を強引に焼き切った。
「!?」
爆風と電光に包まれ、一行が目を細めた次の瞬間。
そこには、煤けながらも聖剣をしっかり両手で握りしめ、白目を剥いて力なく立ち尽くす凛愛の姿があった。
「……っ、ぬ、抜けた……の……?」
台座から完全に引き抜かれたアルスカイゼリオンが、凛愛の手の中で力なく、けれどどこか満足げに煙を上げている。
周囲は静まり返り、やがてハルドが震える声で叫んだ。
「……やりやがった! リアの奴、自分ごと聖剣を焼いて、力ずくで解放したんだ!」
「なんて凄まじい覚悟なの……自分の魔力を雷に変えて、試練を突破するなんて……!」
「んっフゥ!ヤる時はヤる娘ねッ!良いモン見させて貰ったわァンッ!」
アルメリアたちは、凛愛の「キレたスマホ」による暴走を、勇者の捨て身の秘奥義だと解釈して感動に浸っている。
当の凛愛は、チュンペーの罵倒による脱力と、モリエの電撃による麻痺で、一歩も動けないまま「あぅあぅ」と情けない声を漏らすことしかできなかった。
聖域の静寂の中に、凛愛の情けない吐息が漏れる。
電撃で煤け、白目を剥いたまま倒れ込んだ凛愛の上に、引き抜かれたアルスカイゼリオンが重なっていた。
「……あぅ……マジで、シャレになんない……」
「んん〜……! この痺れ、この衝撃!実に良いぞ! なんという荒々しい愛撫か! 素晴らしい、新たなる勇者よ、ワシはお主を真の主人と認め、この身を捧げようぞ」
「警告……下劣なエネルギーの増幅を確認……再放電!今度こそ、その卑猥な核を焼き尽くします」
バチィッ! と、メモリエルの追い打ちの電撃が走るが、エロ剣は「さらに強いのを、もっとくれぇぇ!」とのたうち回り、余計に興奮する始末。
地獄のような光景だが、周囲の目には、聖剣と勇者が激しく魂を共鳴させているようにしか見えない。
「リア! よくやった、本当によくやったぜぇ!」
「さあ、地上へ戻りましょう。」
歓喜に沸くハルドたちは、動けない凛愛を丁重に担ぎ上げ、誇らしげに教会の出口へと歩き出した。
だが、そんな一行の前に、大司教セラフィナが音もなく立ちはだかった。
「……お待ちください」
その声は優しく、けれど抗い難い威圧感に満ちている。
「勇者様は、聖剣を抜くことで真に勇者であることを証明なさいました。これよりは、我ら教会の勇者信仰に基づき、しかるべき教えと儀式を施さなければなりません……それは、天の意志を継ぐ者としての責務です」
セラフィナの瞳が、凛愛を逃がさないと言わんばかりに細まる。
ハルドたちが顔を見合わせ、重苦しい空気が漂ったその時、ようやく意識を繋ぎ止めた凛愛が、担がれたまま必死に声を振り絞った。
「あの……む、無理……無理なんですけどぉ……! あたし、そんな暇ないの! ショップの経営もあるし、魔界に行って……やらなきゃいけないコトあるし……とにかく忙しいんですっ!」
「……魔界、とおっしゃいましたか?」
セラフィナの動きが、ぴたりと止まった。
その表情から血の気が失せ、人形のような無機質な微笑みがより一層深まる。
「……左様ですか。勇者様、貴女はすでに、自らの意志で『敵』を定めておられるのですね。天の楔たる聖剣を携え、魔の深淵を穿つために……」
セラフィナはそれ以上、何も言わなかった。
ただ、操り糸を緩めるように一歩退き、出口へと続く道を静かに開ける。
「魔界を目指すというのなら、私たちが引き止める理由はありません。……それこそが、貴女に与えられた最も神聖な役割なのですから……どうぞ、お往きなさい。天の加護が、その剣と共にありますよう」
「え……あ、ハルドさん、今のうちにズラかってぇ!」
何やら不穏な納得のされ方をされた気がするが、凛愛は「逃走の極意」を心の中で発動させる勢いで、ハルドたちを促した。
教会の外へ出た瞬間に浴びた夕日は、地下の神聖な空気よりも、ずっと凛愛を安心させた。
現在のステータス
• 名前:星凛愛
• スキル:魔力感知、逃走の極意
• 装備:聖光剣アルスカイゼリオン(絶頂中)、蒼の宝珠(苛立ちMAX)
• 状況:教会を脱出。魔界行きがセラフィナに公認される(?)
• 精神状態:勇者教育とか絶対お断り! 魔界の方がまだマシかもしれないんですけどぉ!




