第50話:脱出不可能!?マルコの鉄拳と、天才職人の飽くなき執念なんですけどぉ!
名前を得て安定したメモリエル。
その輝きを放つスマホを愛おしそうに眺める凛愛の横で、エルドリンは肩を落とし、がっくりと項垂れていた。
「……ふぅ。どうやら吾輩がこれ以上、入り込む余地はなさそうだね。あまりに完璧な再構築だ。寂しいけれど、ここでお別れかな……」
「……エルドリンさん、急にシュンとしないでよぉ。量産の方、頑張ってね?」
凛愛が同情の声をかけた、その瞬間。
「……なんて言うと思ったかい! 隙ありぃ!!」
エルドリンは一瞬で表情を豹変させ、背中の魔導アームを全開にしてメモリエルの背面カメラ付近に指先を伸ばした。
だが、それよりも早くメモリエルの画面が真っ赤に染まる。
「迎撃モード、移行。対象の執着心が危険な領域に突入しました」
バチバチィッ!!
「あ痛ぁぁっ……!!」
三度目の電撃がエルドリンの全身を駆け抜ける。
アームが火花を散らし、彼は痙攣しながら床を転がった。
「あ〜あ……学習しないね、この人……いい加減諦めてよ。あたしたち、これから聖光剣アルスカイゼリオンの探索に行くんだから!」
凛愛が呆れ顔で告げると、床で煙を上げていたエルドリンが、跳ねるように起き上がった。
「なにっ!? 聖光剣探索!? あの伝説の武器を、そのメモリエルがどう解析して、どう共鳴するのか……素晴らしい! 吾輩も行こうじゃないか! 現場でのデータ収集こそが、真の魔導工学の真髄だからねぇ!!」
バッキバキに目を輝かせ、鼻息を荒くして身支度を始めようとするエルドリン。
だが、その背後に巨大な影が音もなく忍び寄っていた。
「ちょっとォ、アンタぁ……どこに行こうってのォ?」
ドスの効いた、それでいて艶めかしい声が工房に響き渡る。
振り返ると、そこには腕組みをして仁王立ちする、怒れるオークの女帝?マルコ・グレディアの姿があった。
「アタシの工場で、これだけ魔導蒸気と資金使って、オーナーのアタシが異変に気づかないと思ってんのォン? 悪いけどエルドリン、アンタにはこの新型魔導器の機能追加の研究が山ほど残ってんのよぉ!」
「ひっ……! い、いや、しかしマルコ殿! 聖光剣のデータは、今後の商品開発にも多大な恩恵を……」
「出かけてるヒマがあると思ってんのォ!? 営業時間は24時間、不眠不休で研究おしッ!! アタシの商売の邪魔を邪魔するヤツは跡形も無く消えていったわァ……その魔導アームの制作費だって安くなかったわよォ?」
マルコが拳をポキポキと鳴らすと、工房の床がミシミシと悲鳴を上げた。
「……あ、あはは……リアちゃん、ごめんね。吾輩、やっぱり、ここでお留守番してるよ……死ぬ気で、いや、死んでも研究を完成させるからねぇ……悲しいね!吾輩」
「あ……は、はい。頑張ってね……工場長」
マルコの圧倒的な威圧感に屈し、エルドリンは幽霊のような足取りで魔導アームを動かしながら作業ラインへと戻っていった。
それを見届けたマルコは、満足げに鼻を鳴らして腕を組む。
「ッフン!よろしい! 職人は現場で汗水垂らしてナンボなのよォン!」
くるりと振り返ったマルコの鋭い視線が、今度は出口へ向かおうとしていた凛愛に突き刺さった。
「んでェ……リア! アンタ、なんか探索に行くんですってェ? 教会の連中を煙に巻いたと思ったら、今度はピクニックかしらァ?」
「ぴ、ピクニックじゃないってばぁ! 世界の運命がかかった聖光剣エルゼカイルの探索なの! モリエがそう言ってるんだからぁ!」
凛愛が必死にスマホ……もといメモリエルを掲げて主張する。
マルコはふんと鼻を鳴らし、派手な毛皮の襟巻きを整えた。
「世界の運命……ふぅン、聖光剣ねぇ……まあいいわ。でもね、アンタのショップも間もなく完成するのよ! 勇者ブランドの初売り日に、肝心の看板娘が不在なんて商売上がったりじゃろがいィ!!」
「そ、それはそうだけどぉ……でも、聖光剣がないとアザエルが……」
「つーわけでェ! サッサとその探索を終わらすために、アターシが同行してアゲルわァンッフン!」
マルコが腰に下げた、岩をも砕く巨大な魔導斧の柄をポンと叩く。
その一撃の風圧だけで、工房内の魔導蒸気が一瞬で吹き飛んだ。
「ま、マジですか!? マルコさん、お店とかいいの!? てか、商業区のドンが動いちゃって大丈夫なのぉ!?」
「アタシがいない間くらい、優秀な部下に任せとけばいいのよォ! それに、聖光剣なんてお宝、アタシの商売人の嗅覚が黙ってないわ! ほら、さっさと行くわよォッ!!」
「ちょ、ヤバ…!ガチ勝ち確じゃん!まさかの最強キャラ加入なんですけどぉ!!」
逃げ足最強の勇者、元魔王の雀、導く者メモリエル、そしてアヴェントリア最強のオネエ豪商。
もはや誰も止められない、異色すぎる聖光剣探索隊がここに結成された。
現在のステータス
• 名前:星凛愛
• 状況:マルコ・グレディアがパーティーに電撃加入
• 同行者:チュンペー、メモリエル、マルコ(護衛兼スポンサー)
• 精神状態:心強いけど、物理的な圧が強すぎて息苦しい




