第49話:宝珠の正体!?500年の孤独と、刻まれる名!その名はメモリエルなんですけどぉ!
エルドリンの魔導アームを電撃で焼き、なおも空中に浮遊して威嚇を続ける凛愛のスマホ。
その異様な拒絶反応を目の当たりにして、エルドリンは痺れた腕を振りながらも、狂喜に満ちた表情で思考を巡らせた。
「……素晴らしい。単なる魔力の触媒じゃない。明確な意志、それも極めて強固な個体識別能力……。リアちゃん、これまでの経緯を詳しく教えておくれ!」
凛愛は困惑しながらも、神殿でこの宝珠に出会ったこと、そして自分のスマホと融合して今の形になったことを手短に説明した。
エルドリンはバッキバキの目で天井からぶら下がり、唸るように仮説を唱え始める。
「……なるほど。一つの仮説が立ったよ。この宝珠の正体は、高密度の魔力が自我を持った思念体だ。こいつは時と持ち主を選び、その者に最も馴染む、あるいは最も大切にしている物体へと憑依する性質を持っているんだよ」
「……あたしの大切な物。……あ、スマホ。確かに、あたしこれがないと生きていけないレベルの重度ゲーマーだけどぉ……」
「そう! 恐らく500年前、勇者セリアの時代には、たまたま彼女が持っていた蒼い宝珠に憑依していただけなんじゃないのかい? 本体はこの実体のない意識そのもので、宝珠もスマホも、ただの容れ物に過ぎないんだ!」
エルドリンの指摘に、スマホの画面が青白く発光した。
「ご名答です」
無機質な合成音声が工房に響くと同時に、再びパチパチと激しい電撃が放たれる。
「痛ぁあっ……!な、なぜ…だぁい……」
至近距離にいたエルドリンは派手に痺れ、床に転がった。
「エルドリンさん!? 大丈夫!? ……ねぇ、じゃあ、あんたの名前は蒼の宝珠じゃないんだ? 500年も生きてるなら、本当の名前があるんでしょ?」
凛愛が浮遊するスマホを両手で包み込むようにして問いかける。電撃は止まり、画面には波打つような光の模様が映し出された。
「名前なんなの? てか、あんたって一体どんな存在なのぉ?」
沈黙が流れる。
髪の中のチュンペーも、この得体の知れない同居人の正体に興味があるのか、嘴を閉じてじっとスマホを見つめている。
やがて、画面に文字が羅列され、声が響いた。
「私は、世界を観測し、記録し、次代へ繋ぐ……名前は、まだありません。あるいは、以前セリアからは『ナビ』と呼ばれていました」
「ナビ……? え、それだけ? なんか、もっと伝説の精霊みたいなカッコいい名前ないのぉ?」
「私はただの観測者です。ですが、星凛愛。貴女が私を別名で定義してもかまいませんよ」
「定義って……うーん、あたしが名前付けていいの? センス問われるやつじゃん、これぇ!」
魔導工場の騒音の中で、凛愛と「名前のないシステム」との不思議な絆が、また一歩深まろうとしていた。
「ナビ、ねぇ……便利そうだけど、なんか味気ないっていうか、ただのアプリみたいじゃん」
凛愛は宙に浮くスマホをじっと見つめた。
500年もの間、一人で世界を見つめ、記録し、次の代を待ち続けてきた孤独なシステム。
セリアの時代には宝珠として、今は自分のスマホとして。
「……決めた。あんたの名前、メモリエルにする! 記録を司る天使みたいな名前っしょ? ね!良くない?で、あたしたちの旅を全部記録して、いつか伝説のエンディングまで連れてってよ、メモリエル!」
凛愛が宣言すると、スマホの画面が波打つように激しく明滅した。
「メモリエル。……記録を司る者」
「で、長いから略して『モリエ』ね! よろしく、モリエ!」
「個体名『メモリエル』、および識別愛称『モリエ』に再定義……承認しました。マスター・星凛愛。私はこれより、貴方の軌跡を永遠の記録として刻み続けます」
『……フン、バカ人間の分際で、大層な名だな』
髪の中のチュンペーが、どこか満足げに短く鳴いた。
「わ、なんか急に画面が綺麗になった!? 解像度上がった気がするんですけどぉ!!」
名前を得たことで、スマホ……もといメモリエルの存在が安定したのか、画面には美しい幾何学模様が舞い、情報の処理速度が目に見えて向上していく。
「素晴らしい……! 名前という定義付けによって、思念体の核が再構築されたのか! リアちゃん、キミは本当に無自覚に奇跡を起こすねぇ!」
二度の電撃で髪を逆立てたエルドリンが、フラフラと立ち上がりながら感嘆の声を上げる。
「奇跡っていうか、ただの直感だし! さ、モリエ。聖光剣の場所まで、最強のナビゲート頼んだよ!」
「了解しました。聖域までの最短ルートを再計算……これより聖光剣探索を開始します」
メモリエルが凛愛の手元にするりと戻り、画面には新たな目的地の地図が鮮明に映し出された。
新しい名前と共に、勇者一行の旅はさらなる加速を見せようとしていた。
現在のステータス
• 名前:星凛愛
• 相棒:メモリエル(愛称:モリエ)
• 状況:聖剣探索への準備完了
• 精神状態:名付け親になってちょっと誇らしい




