第44話:聖女の象徴(アイコン)!?偽りの歴史を巡る、女たちの火花なんですけどぉ!?
港の喧騒が嘘のように静まり返る中、アルメリアが一歩前へ踏み出した。
その瞳は、旧知の仲である大神官セラフィナを真っ直ぐに射抜いている。
「……相変わらずね、セラフィナ。この娘を、またお得意の勇者信仰に利用する気かしら?」
セラフィナは長い耳を微かに動かし、慈愛に満ちた、けれど底の知れない微笑を浮かべた。
「異なことを。アルメリア、貴女もこの500年、アヴェントリアの恩恵に預かりながら暮らしてこられたのではないですか? 勇者という希望の灯火、その信仰なくして、この街の発展はありませんでした」
セラフィナの視線が、おどおどとスマホを抱える凛愛へと戻る。
「この娘は、まさに象徴に相応しい。蒼の宝珠も認めた、民が500年待ち望んだ存在。彼女を教会の中心に据えることで、この国はさらなる安寧を得るでしょう」
「……恩恵を享受したことは否定しないわ。けれど、真実は違う!」
アルメリアの声が、港の石畳に鋭く響いた。
「この発展が、魔界の者たちの犠牲の上に成り立っていたことを、貴女は隠し続けている! 魔界を一方的に悪と断じることで大義を偽り、セリアの持っていた特異性を勇者という象徴にすり替え……彼女に、ありとあらゆる汚れ仕事を押し付けてきた!」
アルメリアの告発に、周囲の教会の騎士たちがざわめきだす。
「その偽りは、もう正さなければならないの。これ以上、何の罪もない娘を、貴女たちのプロパガンダの道具にはさせないわ!」
「……正す、ですか。」
セラフィナの微笑みから温度が消えた。
「ですが、民が求めているのは真実ではなく、安心なのです。たとえそれが、死者の流した血の上に建つ城であったとしても。……さあ、リア。貴女の意思を聞かせてもらいましょうか?」
いきなり話を振られた凛愛は、アルメリアの背後に隠れながら、涙目でスマホを握りしめた。
「……え、あたし!? あたし…象徴とか、そんな重いギルドクエスト、受注した覚え……ありませんからぁ!!」
一触即発の港。
500年分の因縁が、凛愛という一人の少女を巡って激しく火花を散らす。
大神官と錬金術師の政治的舌戦。
その板挟みになった凛愛は、ついに容量オーバーで涙目になった。
「……もう、難しいコトわかんないよぉ! 誰も悲しんでほしくないし……平和が一番じゃん!!」
ビビリ散らしながらも魂の叫びを上げ、凛愛は必死にアルメリアの背中に縋りついた。その姿に、ハルドが力強く頷く。
「……よく言った! 嬢ちゃん、教会の言いなりになる必要なんてねぇ! 騎士団の看板捨てた俺が、今度は本物の勇者を守ってやるぜ!」
ハルドが腹を括り、大剣の柄に手をかける。
呼応するように聖光教会の騎士団も抜剣し、臨戦態勢に入った。
「ハルド、早まらないで!」
アルメリアの制止も届かないほど、一触即発の空気が港に満ちたその時——。
「ちょっとォォォッ!! アンタたちぃ!!」
天地を揺るがすような怒号が響き渡り、全員の視線が一箇所に釘付けになった。
そこに立っていたのは、身の丈を超える巨大な魔導斧を軽々と肩に担いだ、筋骨隆々のオーク。
アヴェントリア随一の大豪商であり、市場区を取り仕切るドン、マルコ・グレディア。
かつて闘技場チャンプとして君臨し、「バーサーカー・マーコ」の異名で一振りごとに大地を震わせたと言われる本物の化け物だ。
「アタシが一番この娘に用があんのよォ!! 商売の邪魔すんじゃねーわよォッ!!」
あまりの圧倒的な威圧感と、ドスの効いたオネエ言葉に、港全体がシンと静まり返る。
「マルコさぁぁぁん!! 助けてぇ!!」
泣きながら叫ぶ凛愛。
セラフィナは眉をひそめ、不快感を隠さずに口を開いた。
「……なんです? 騒がしいですね。マルコ、教会の象徴が500年ぶりに現れたのですよ? 貴方に口を出される筋合いはありません」
「そりゃめでたいわね! でもね、この娘が勇者だろうが何モンだろうと、今アタシの大事な商売相手なんだわ! 教会にだって多額の寄付は欠かしてねェ! アタシの商売の邪魔したらどうなるか……アンタだって解ってるハズよ?」
魔導斧の石突きが地面を叩き、港の石畳に亀裂が入る。
セラフィナが反論しようとしたのを被せ気味に、マルコが宣言した。
「今から、凛愛を『経済統治機構』預かりとするわ! 文句あるヤツはアタシの斧に言いなさいよォ!」
アヴェントリアの経済を牛耳るマルコの発言力は、教会といえど無視できない。
セラフィナは少しの間、無表情にマルコを凝視していたが、やがて静かに背を向けた。
「……良いでしょう。今は貴方に預けます。ですが、いずれ必ず『あの子』の再来を教会に迎え入れます……行きましょう」
騎士団を引き連れ、セラフィナが去っていく。
嵐が過ぎ去ったような静寂の中、凛愛は腰を抜かしてその場にへたり込んだ。
現在のステータス
• 名前:星凛愛
• 状況:マルコ・グレディアの保護下に入る
• 精神状態:極限の脱力(救世主はオネエのオークだった)




