第43話:恐怖の帰還!口裏合わせと、騒がしい港の異変なんですけどぉ!
神殿の主である海神ウツボに見送られ、一行はついに帰路につくことになった。
蒼の宝珠が、スマホの画面から涼しい顔で提案してくる。
ワタシの力を使えば、海を割って道を作り、歩いて帰ることも可能です。
「マジ!? 十戒みたいで超映えるじゃん! やろうよ、それ!」
ですが、現在の貴女の魔力では、維持できるのは一分ほどです。
一分を過ぎれば、左右の海水が一気に押し寄せ、圧死することになります。
「即却下!! なにそのデスゲーム! 映え狙いで命落とすとか、バカの極みなんですけどぉ!!」
結局、帰りもボロ船での航海となった。
行きよりも波が高く、凛愛は再び船上で丸くなって蹲り、胃の中のものを全て捧げる勢いで海洋恐怖症と戦っていた。
そんな中、ハルドが真剣な表情で口を開く。
「……いいか、港に着いたら調査報告の改竄をやる。ギルドには『神殿はもぬけの殻で、宝珠どころか魔力の残滓すら残っていなかった』と報告するんだ。俺のこれまでの実績と信用があれば、収穫ゼロでも疑われることはねぇはずだ」
「……うぅ……わかった……口裏合わせね……あたし、嘘つくと目が泳ぐタイプだけど、頑張る……」
「大丈夫よ、リア。不自然な沈黙は、私がフォローするわ。錬金術師の調査結果としても裏付けをしておきましょう」
アルメリアの冷静な言葉に、ハルドも心強そうに頷く。
勇者の遺物である蒼の宝珠を隠し通す。
それは、聖光教会という巨大な権力に背くことを意味していた。
数日後、船はようやくアヴェントリアの港へと滑り込んだ。
ようやく地面に足をつけられる、と涙を流したのも束の間。
「……おい、なんだ? 港がやけに騒がしいな」
ハルドが眉をひそめた。
普段なら商人の活気で溢れているはずの港には、見たこともない数の聖光教会の騎士たちが並び、入港する船を一隻ずつ厳重に臨検していたのだ。
「……なになに……絶対捕まえるマンじゃん!あたしたちを待ち構えてるみたいに……!」
船酔いでフラフラの凛愛が港に降り立った瞬間、周囲の空気が凍りついた。
ガシャッと音を立てて整列する教会の重装騎士たち。その中央を割って、一人の女性がしずしずと歩み寄ってくる。
透き通るような銀髪に、天を突くほど長い耳。
見た目は20代後半の美しきエルフ。
だが、その瞳に宿る威圧感は数百年を生き抜いた強者のそれだった。
聖光教会の大神官、セラフィナ・エルディア。
実年齢604歳。
この国の信仰の頂点に立つ女が、なぜか港で待ち構えていたのだ。
「……信じられない。この目で見るまでは、ただの噂だと思っていましたけれど」
セラフィナが凛愛の目の前で足を止める。その香油の匂いと圧倒的なオーラに、凛愛は蛇に睨まれた蛙のように硬直した。
「……え、あの……あたし、何か規約違反とかしました? 課金とかチートとか使ってないです……」
「その顔……その魂の揺らぎ。500年前に失われたはずの『あの子』に、これほどまで似ている人間が存在するなんて」
セラフィナの細い指が、震える凛愛の頬に触れようとする。
「おい、アンタ。何の真似だ」
ハルドが即座に凛愛の前に割り込み、セラフィナの手を遮った。
騎士団時代に嫌というほど見てきた教会の最高幹部を前に、彼は一切の容赦なく視線をぶつける。
「貴方は……元騎士団のハルドですね。相変わらず野蛮な。私が興味があるのは、その娘……ホシリア。貴女が神殿から何を持ち帰ったのか、を確認させて頂きに参りました」
セラフィナの視線が、凛愛が抱え込んでいるスマホへと向けられる。
蒼の宝珠が宿ったデバイスが、セラフィナの魔力を感知してか、ジリジリと微かな振動を始めた。
『……マズいぞ。あの女、我の気配も、宝珠の波動も、隠し通せる相手ではない……!』
髪の中のチュンペーが、これまでにないほど怯えた声で囁く。
「う……ヤバいよね?これ、イベント戦じゃなくて、強制連行ルート!?」
絶体絶命の帰還。
口裏合わせをする隙すら与えられないまま、凛愛は600歳の審問官と対峙することになった。
誰もが息を呑み、どうやってこの場を切り抜けるか必死に脳細胞をフル回転させていた、その時だった。
凛愛のポケットから、スマホが意思を持ったようにひとりでに飛び出した。
「え……ちょっ、待って!? 勝手に浮かないで! 起動してないし!!」
焦る凛愛の制止も虚しく、スマホはセラフィナの目の前までふわふわと浮遊していく。
そして、画面に映し出された蒼い紋章が、聞き覚えのある透き通った声を発した。
「お久しぶりですね、セラフィナ」
その瞬間、ハルドもアルメリアも、そして誰より凛愛が、目玉が飛び出さんばかりに驚愕した。
「……え……はぁぁぁ!!? 」
静まり返る港。教会の騎士たちがざわめき、ハルドが額を押さえて天を仰ぐ。
口裏合わせの「収穫なし」という作戦が、開始一秒で粉々に砕け散った瞬間だった。
だが、最も動揺したのは大神官セラフィナだった。
その整った顔立ちが、驚きと懐かしさ、そして複雑な情愛で微かに震える。
「……その声……まさか、本当にあなたなのですか。500年の時を経て、再びその波動に触れることになるとは」
セラフィナは吸い込まれるように、宙に浮くスマホへと手を伸ばした。
「やはり蒼の宝珠は見つかったのですね。それも、これほど奇妙な器に宿って」
「……え、ちょっと、知り合い? セリアの友達かなんかだったの!? 600歳ってことは、当時の同僚とか!? ちょ、話が早すぎてあたしの処理速度が追いつかないんだけどっ!!」
凛愛が叫ぶ中、スマホ画面のアイコンは静かに点滅を繰り返す。
「ワタシは、セリアが遺した記憶の断片。セラフィナ、リアは、セリアの意思を継ぐ者です。貴女の成そうとしている事には賛同致しかねます」
「……成そうとしていること、ですか。ふふ、相変わらず鋭い。ですが、今は再会を喜びましょう。その娘……勇者の器と共に、教会へ来てもらいます……否応なしに、ね」
セラフィナの微笑みは、どこか冷たく、けれど確かな執念を孕んでいた。
現在のステータス
• 名前:星凛愛
• 状況:大神官セラフィナに正体がバレ、教会へ強制招待!?
• 装備:スマホ(蒼の宝珠/勝手に喋るモード)
• 精神状態:作戦崩壊による思考停止




