第42話:語られなかった真実……勇者の覚醒は、想定外の方向だった件!
蒼の宝珠が語った、勇者セリアと魔王クロウヴァルドの気高い和解の物語。
ハルドもアルメリアも、その高潔な魂のぶつかり合いに胸を熱くさせていたが、このシリアスな空気の裏側には、たった一つだけ誰にも語られなかった衝撃の事実があった。
凛愛の髪の中に隠れたチュンペーは、当時の光景を一人、心の中で回想していた。
(……あの時、確かに戦いは苛烈を極めていた。セリアは剣を交えながら、人族と魔族は分かり合えるはずだと熱く、必死に語りかけてきたのだ)
悪いのは、その関係を利用して利益を得ようとする者たち。
彼女は、自分が聖光教会に利用され、事実を知らぬまま魔族を悪として屠ってきた過ちを、涙ながらに悔いていた。
だが、当時のクロウヴァルドはそれを一蹴した。
(何を今さら、そんな甘い考えで魔界の者たちが納得するはずもなかろう!)
「……この、バカ人間が!!」
彼が怒りに任せてそう言い放った瞬間、運命の歯車が変な方向に回転した。
蔑まれ、罵倒されたセリアの瞳が、見たこともない色に染まったのだ。
なんと、彼女の心の奥底に眠っていた「M気質」が、魔王の罵声によって目覚めてしまったのである。
「あ……あぁっ……❤︎」
突如として頬を赤らめ、身悶え始めた勇者。
その瞬間、彼女の攻撃の手がガクンと緩んだ。
クロウヴァルドは、自分の威圧感で彼女を屈服させたのかと勘違いし、一瞬だけ攻撃の手を止めてしまった。
その「隙」こそが、物陰から見ていたアザエルの目には、二人が魂を通わせ、和解に至った決定的な瞬間に見えてしまったのだ。
それが、あのアザエルの暴走と悲劇の引き金になったという、あまりにもマヌケな顛末。
(……誰が言えるか。勇者が魔王に罵倒されて悦んでいたなどと。墓まで持っていくしかないではないか……)
チュンペーは遠い目をしながら、小さく溜息をついた。
セリアの名誉を守るため、そして自分自身のプライドを守るためにも、この真実が陽の目を見ることは決してないだろう。
今の凛愛に「バカ人間」と呼びかけるたび、チュンペーの脳裏には500年前のあの、赤面した勇者の顔がフラッシュバックして消えないのであった。
そんな事情を露ほども知らない凛愛は、急に拳を握りしめて熱く語りだした。
「……あたし、決めたよ! チュンペー、あんたの弟も、あたしが絶対説得してみせるから! 勇者の波動だかなんだか知らないけど、セリアの想いを考えると……なんだか泣けてきちゃうよ。あたしが、彼女の果たせなかった意志を、この世界で実現してやるんだからっ!」
純粋に真っ直ぐな正義感に燃え、やる気をみなぎらせる凛愛。
その瞳は、汚れなき決意でキラキラと輝いている。
(……よせ、バカ人間。そんな純粋な目で見るな……彼女の意志の半分は、間違いなく我への歪んだ悦びであったのだぞ……)
あまりの真実の間抜けさと、目の前の少女の無垢な熱意に耐えきれず、チュンペーはそっと視線を逸らした。
『……フン、勝手にするがいい……少し、風に当たりたい気分だ』
「なぁに、照れてんの〜? チュンペー、可愛いとこあるじゃん!」
『……黙れと言っておるのだ!』
自分の呪いを解くカギが、この「バカ人間」なのだとしたら、先行きはあまりに不安である。
チュンペーは、500年前の赤面した勇者の顔と、今のギャル勇者の顔を交互に思い浮かべ、再び深く溜息をつくのだった。
現在のステータス
• 名前:星凛愛
• 状況:セリアの意志(勘違い含む)を継ぐ決意を固める
• チュンペーの精神状態:賢者タイム(真実との板挟み)
• 謎:この熱い決意が、アザエルの凍てついた心を溶かすのか、それとも……?
この勇者の「癖」は、凛愛にも継承されている?




