第29話:空中分解カオスな大勝利!オークの腹の上は、意外と寝心地最高なんですけどぉ!
「ブゴォォォ……!」
オークグラップラーの巨躯が迫る。
凛愛は半泣きで砂塵を舞わせながら、必死に【逃走の心得】をフル稼働させていた。
「よっしゃー!背後……とったぁ!!」
アルメリアのアドバイス通り、タレットとして飛ばしたスマホをオークの真後ろに固定。
ネイルを激しく弾き、火と氷の連続攻撃を叩き込む!
「ひぃ〜っ!!燃えろっ! 凍れっ! これで終わりにしてよぉ!!」
だが、オークは化け物じみた反射神経で反転! 巨大な魔力反射板が術式を弾き飛ばし、そのまま凛愛を壁際まで追い詰める。
「うっそ!? ありえないっしょーー!!!」
ドォン! ドォン! と石壁を砕くオークのラッシュ。かわすたびに体力が削られ、凛愛の視界がチカチカと点滅し始めた。
(……あ〜これ、ガチで詰んだ……スタミナ切れでゲームオーバー……?)
その時、会場の空気が一変した。
「……え」
凛愛が「上空」に設置したまま忘れていた(正確には必死すぎて放置してた)雷と風の術式が、エルドリンさんの魔改造OSによって勝手に混ざり合い、闘技場の一角に局地的な雷雨を引き起こしていたのだ。
バリバリッ! と激しい雷光がオークを襲う。
盾で必死に防ぐオークだけが、吹き荒れる雨と風で完全に視界を奪われている。
「え……チャンス!?」
『……バカ人間! ボサっとするな! 今しかないぞ!』
あたしは震える膝に力を込め、オークの股下をスライディングで猛然とすり抜けた。
「リアッ!雷雨に風を重ねてっ!!」
すかさずアルメリアが指示を出した。
「オッケェェー……!!」
雷雨の中に、ありったけの魔力を込めた風の理を叩き込む。
エルドリンの「四元素リンク」が暴走し、巨大な水蒸気を孕んだトルネードが発生した!
「ブッ!ブゴォォッ!?」
オークが盾ごと、その巨体を駒のように回されながら上空へ巻き上げられる。
「やった!?…飛んでけ!……マジで!もームリ!!」
凛愛は勝利を確信し、浮遊していたスマホを「戻れっ!」と手元に呼び戻した。
……が、想定外だった。
アルメリアのブーストケースは、あたしの想像を絶する威力の竜巻を生み出していたのだ。
「……ヤバっ!ちょ、待っ……あたしまで吸い込まれてる!?」
『チュチューン!?』
チュンペーの悲鳴と共に自身の体も、ふわっと浮き上がり、オークと一緒に空高く巻き上げられていく。
会場にいたエルドリン、アルメリア、ミリナ、そしてラグまでもが口を開けて唖然とする中、凛愛は空中で回転しながら白目を剥いた。
ドゴォォォォォンッ!!
真っ先に落下してきたオークグラップラーが、地面に激突して気を失う。
そしてその数秒後……。
「……ぎゅっ」
オークのぷよぷよした巨大な腹の上に、凛愛がボヨンとソフトランディング。
衝撃でそのまま気絶している凛愛だったが、右手に握られたスマホだけは、勝利を誇示するように真っ直ぐ、天に向かって突き上げられていた。
静まり返った会場に、オークの巨体が沈む地響きと、その腹の上にボヨンと着地した間の抜けた音だけが響き渡る。
その時、貴賓席から地を震わせる凄まじい質量がフィールドに降り立った。
「あぁンッ!弱そうだったから途中で辞めたげよォと思ってたんだけど……ヤるじゃない。もォ!のびちゃってんじゃないのよ! アンタって子は、本当に予測不能だわねェ……!」
バニラの香水の匂いと共に、マルコの巨大な手が、あたしの右手を掴んで高く掲げた。
「細っこいのに身体張りすぎよォ……ンッでも、サイコーにワクワクさせてもらったわァ……っふンッ!!」
マルコの絶叫が、静まり返っていた観衆を叩き起こす。
「今回はね、勝ち負けじゃないわ! アタシが満足したかどうかよっ! この魔導器の性能……遠隔操作に多属性同時発動、十分、魅せてもらったわン!マーヴェラスだわよッ!!」
オークの腹の上でビクンと跳ねるあたし。
意識は半分飛んでいたが、マルコのテンションだけは鼓膜に刺さる。
「っうンッ、イイわ…娘ッ! アンタ認めたげるわ! 身体張った実演、見事だったわよォンッ!っはァン!」
会場は一転、地鳴りのような大歓声に包まれた。
「あのキラキラは何だ!?」
「魔法使いがステゴロのオークをハメ殺したぞ!」
「なんか勇者に似てない?」と、観客たちは見たこともない「スマホ戦術」に大興奮。
凛愛の知名度は一気に上がってしまった。
その様子を、エルドリンたちは呆れつつも、誇らしげな笑顔で見守っていた。
今回のリザルト
• クエスト: 大商人マルコ・グレディアを満足させる
• 判定: SS(演出過剰につき気絶)
• 獲得報酬: マルコからの全面融資権、アヴェントリアでの知名度上昇、オークの腹の感触
• 凛愛の心の声: (……有名になりたくないっ……詰んだ……)




