第22話:ギルド・リベンジ成功!あたし、公式(ライセンス)持ちになっちゃったんですけどぉ!
「新規登録ですね。あちらの魔導水晶に手を置いてください。あなたの資質を数値化します」
受付にいたのは、あの時あたしを冷たい目で一蹴したエルフの女性。
相変わらずの塩対応だ、しかし、今の凛愛は、あの時の「詰みかけギャル」じゃない。
エルドリン工房でのバイト、図書館でのガチ暗記、そして森での実戦……努力とは程遠かったギャルが努力したらどうなるのかを、見せつける時だ。
「おーっし……見てなよ」
凛愛は、エルドリン特製の魔導ネイルが輝く手を、おずおずと、でも力強く水晶にかざした。
ブォォォォン……!
水晶の中に光が渦巻き、文字が浮かび上がる。
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【測定結果】
名前:星凛愛
レベル:5
力:4
体力:4
素早さ:6
知力:6
魔力:2
運:10
スキル:【逃走の心得】逃げれば逃げるほど研ぎ澄まされる
【魔力感知】周囲の魔力の流れを微かに感じ取れる
資質確認:魔力感知・魔導触媒適性あり
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数値を凝視していた受付の女性の、切れ長の目がわずかに見開かれた。
「……この短期間で、だいぶ成長されましたね」
その声には、以前のような蔑みはなかった。
赤っ恥をかいても逃げ出さず、たった数日でステータスをここまで引き上げて戻ってきた度胸と執念。
それを目の当たりにした彼女に、もはや断る理由はどこにもなかった。
「……認めます。星凛愛さん、あなたを冒険者ギルドの一員として登録します。ワタクシはリリス、この受付を担当しております。以後よろしくお願いいたします」
「……っ、っしゃあぁぁ!! きたこれー!!」
思わずギルド中に響く声で叫んだ。
周りの荒くれ者たちが認める様な顔で、こっちを見ていた。
あの時バカにしていた様な者は一人も居なかった。
「くぅぅ……ついに、公式ライセンス手に入れたぁ!あたしだって、やれば出来んじゃん!スゴくねっ?」
『……ふん、当然だ。我のパートナーがいつまでも無職では格好がつかんからな』
髪の中でチュンペーが、ちょっと誇らしげに短く鳴いた。
「……ありがと、リリスさん! あたし、マジで成り上がってテッペン取るんで!」
リリスは呆れたように小さく溜息をついたけど、その口角がほんの少しだけ上がったのを、あたしは見逃さなかった。
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ギルドを出た凛愛は、ギルドカードを両手で掲げて夕空にかざした。
「……ほんとに、もらえた」
『……これで正式に依頼が受けられる』
「チュンペー、次は初クエストじゃん! どこから始める?」
『……まず依頼ボードを確認しろ。Fランクで受けられる依頼は限られるが、野良より効率が良い』
凛愛は踵を返してギルドの依頼ボードへ向かい、びっしりと貼られた依頼を眺めた。
「えっと……ゴブリン討伐、複数体……これ、一人で行く感じ?」
『……数体相手だ。バディがいた方がいい』
「バディ……どこで探すの?」
『……酒場だ。腕の立つ冒険者は大体あそこにいる』
「えーっと、赤狼亭?」
『……そうだ』
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赤狼亭の扉を開けると、むっとする酒の匂いと荒くれ者たちの熱気が押し寄せてきた。
凛愛の人見知りスイッチが、秒で全開になった。
(酒クッサ……こわ……みんなこっち見てる……)
『……怯むな。お前はレベル5だ』
(レベル5でもこわいものはこわいんですけど!!)
カウンターの奥では、赤毛の屈強な獣人が豪快に笑いながら客に酒を注いでいた。
「いらっしゃい! 嬢ちゃん、一人か? 何飲む?」
「あ……えっと……お酒は……飲めなくて……」
「なら果実水でどうだ! うちの自慢の一品だぞ!」
屈託のない笑顔に、凛愛は少しだけ緊張が解けた。
「……じゃあ、それで……」
「毎度! オレはガロー、ここの店主だ。困ったことがあったら何でも言いな!」
ガローが果実水を差し出しながら、豪快に笑った。
凛愛はそれを受け取りながら、こっそり店内を見渡した。
カウンターの端に、一人で酒を飲んでいる男がいた。
日焼けした肌に、いくつもの傷跡。
使い込まれた革鎧。
でも、その目だけが静かで鋭かった。
『……あの男だ。声をかけてみろ』
(……え、あの人? なんかオーラが違うんですけど)
『……ベテランの冒険者だ。腕は確かだろう』
凛愛は果実水をチビチビ飲みながら、意を決し、深呼吸した。
「……あの、すみません……」
男がゆっくりと振り返った。
「ん?」
「あ、えっと……あたし、今日、冒険者登録したばかりで……初クエスト、ゴブリン討伐を受けようと思ってて……バディを探してて……もし良ければ……」
消え入りそうな声だった。
男はしばらく凛愛を見た。
魔導加工のネイル、スマホ、無限収納バッグ、頭の上の赤いマフラーの雀。
それから、ニコッと笑った。
「ほぉ、嬉しいねぇ。こんな若い嬢ちゃんとクエストたぁなぁ」
低くて、穏やかな声だった。
「……いいぜ。受けよう」
「え、いいんですか?」
「あぁ、いいぜ?ちょうど暇を持て余してた所だ」
「……よかったです……! ありがとうございます……!」
凛愛が深々と頭を下げると、男は酒のジョッキを置いて立ち上がった。
「……俺ぁハルド。よろしくな、嬢ちゃん」
「星凛愛です……」
「ホシリアか……その雀、随分と立派なマフラーしてるな」
「そうなんです…あたしが買ってあげたんです」
チュンペーが「チチッ」と短く鳴いた。
ハルドは少し目を細めて、笑った。
「雀連れたぁ……面白れぇ嬢ちゃんだ」
ガローが酒をカウンターに置きながら口を挟んだ。
「ほぉ…ハルド、久しぶりに動く気になったか、この娘のおかげだな!」
「うるさいね、こんなカワイイお嬢ちゃんの頼みだ、断る理由ねぇだろ」
「ハ…ハルドさん、宜しくお願いします」
「おう!よろしくなっ!」
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その夜。
翠霧の森の外れ、ゴブリンの巣穴に近い茂みの陰。
凛愛はスマホを構えて、ハルドの隣にしゃがんでいた。
「……ゴブリン、三体…ですかね?」
「ああ。群れから離れた個体だな…あ〜、リア、得物は何だ?」
「火の魔法が、使えます……」
ハルドが少し目を細めた。
「……初クエストで魔法使いか。嬢ちゃん、なかなかやるな」
「えへ…結構、自信あります…あたし、一体ヤっちゃって……イイですか?」
「いいねェ……いい度胸だ!んじゃ、行くぞ」
『……落ち着いて放て。一撃で仕留めろ』
「はい! チュンペー、いくよー!Fire!」
スマホの画面が光り、魔導ネイルが魔力を増幅し指先から炎が一直線に飛んでいく。
ミス!
「気合い入れすぎて叫んだら、ゴブリンに余裕で回避されたんですけどぉ!? マジ恥ずかしすぎて消えたい!!」
残りの二体も気付き、凛愛に視線が向いた瞬間、ハルドが動いた。
一刀の下にゴブリン三体を斬り伏せた。
「は……はや」
「嬢ちゃんの「掛け声」で意識がそっちに向いてたからな。なんとかウマくいったみたいだ、ウハハッ」
「掛け声じゃ……え、あたし囮?」
「ん、まぁ、囮も大事な役割だろ?一人じゃ出来ねえ事が出来る!それがバディってもんよ」
凛愛はしばらく黙って、それからぎゅっと拳を握った。
(やっちまったぁ……)
「……う、ま、まぁ……その、いつものクセで叫んじゃった、だけ……みたいな」
チュンペーが髪の中で、赤いマフラーをふわりと揺らした。
『……バカ人間丸出しだったな。魔法を撃つのに名前を叫ぶなど、回避してくださいと言っているようなものだ』
「しょーが無いじゃん!いつも、ファイアって言いながら、やってたじゃん!漫画とかゲームだと、みんな技名叫んでるでしょーが!」
「……仲いいな、お前たち」
ハルドが苦笑いしながら、ゴブリンのドロップ品を回収し始めた。
「俺も長いこと冒険者やってるが、雀に八つ当たりする奴ぁ、初めてだぜェ」
「あ、あは……このコは相棒だから….当然です」
『……バカに見えるぞ…』
「えー、だって、本当のコトじゃん!」
チュンペーは黙った。
二人のやりとりを見て、ハルドは腹を抱えて笑いながら、凛愛の頭をポンと叩いた。
「なぁ、また組もうぜ、お前ら面白ェよ!」
「ぉ………マジですか!? ぜひ!!」
ギルドで報酬を貰った帰り道、凛愛は夜空を見上げながら歩いた。
「……チュンペー、今日って、すごくない? ギルド登録して、初クエストクリアして、ハルドさんとも友達になったしぃ〜」
『……友達ではない、バディだ。その前に『叫ばないと魔法が出ない』思い込みを治すことだな』
「なによ?恥ずかしかったんだからね!それに、友達はバディって言うっしょ」
『……いわん』
「めっちゃ頼れるし、イケオジだったね〜♪」
チュンペーはため息をついた。
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現在のステータス
名前:星凛愛
レベル:5
力:4 体力:4 素早さ:6 知力:6 魔力:2 運:10
スキル:【逃走の心得】【魔力感知】
職業:冒険者ギルド所属(ランク:F)
本日の成果:ギルド登録完了・初クエストクリア・ゴブリン討伐(3体)
新たな出会い:酒場店主ガロー、ベテラン冒険者ハルド




