第132話:形勢逆転!?震える死霊の王なんですけどぉ!
「チュンペぇぇえっ!!」
極寒の凍土グリムヴォイドに、凛愛の悲痛な叫びが木霊する。
力も体力もたったの1しかない小さな雀の身体は、触れた生者の魂をすべて葬るというネクロスの死霊葬衣に完全に飲み込まれ、漆黒の闇の奥へと消えてしまっていた。
大切な相棒を失ったかもしれないという絶望。
凛愛の金色の瞳に涙が浮かび、両手に握られた光の剣が激しい怒りで小刻みに震え出す。
しかし、すぐに現場の様子がどこか奇妙であることに気がついた。
先程まで、完璧な勝利を確信して最高に悦に浸っていたはずのネクロスの表情が一変していたのだ。
彼の輪郭は、今や見たこともないほどの絶望と畏怖をたたえ、信じられないほどガタガタと激しく痙攣している。
それはまるで、世界で最も触れてはならない最悪の禁忌に、うっかり生身で触れてしまったかのような怯え方だった。
さらに異変はネクロスの纏うドレスにも起きていた。
ネクロスを覆っていた死霊葬衣のウネウネとした布地は、チュンペーを飲み込んだはずの場所から一刻も早く逃れたいと懇願するかのようだ。
編み込まれた幾億の亡者たちそれぞれが、先ほどの音響シャウトとは比べ物にならない恐怖の声を上げて狂ったようにもがき苦しんでいたのだ。
「え、な、何がおこったの……?」
目の前で起きているあまりにも想定外なバグ映像に、涙目だった凛愛の知力2のギャル脳は完全にフリーズしてしまう。
ネクロスは思い出していた。まだ己が若き死霊術師だった頃。
七大魔公爵すら沈黙し、大地が震え、空が割れ、数千万の魔族がただ平伏したあの日を。
底知れぬ闇が広がる玉座に座る、一人の王。
黒翼の当主、クロウヴァルド・シルフェリウス。
ネクロスはかつてその絶対的な王の軍門に下り、命令一つで都市を滅ぼし、命令一つで戦争を終わらせるその圧倒的な覇道を特等席で見てきた。
その時に理解したのだ。
逆らってはならない。
戦ってはならない。
理解しようとしてもならない。
あれは王ではない。
世界そのものを一瞬で呑み込む災厄そのものだ、と。
そんなかつての全魔族の頂点に君臨した伝説の魔王の魂が、なぜいま、目の前の小さな小鳥の奥に潜んでいるのか。
その底知れない深淵の質量に直接触れ、魂の格の違いを魂の芯まで叩き込まれて恐怖したネクロスには、もはや目の前の死霊たちを束ねる術など残されてはいなかった。
幾億の怨念の主導権は完全に崩壊し、大死霊術師の絶対無敵のバリアは、内側から溢れ出る圧倒的な魔王の魔圧によって、ミリミリと音を立てて自壊を始めていたのだった。
現在のステータスと状況の後書き
・名前: 星凛愛
・職業: 勇者(一時的覚醒)
・状態:
・ガチ困惑(涙目): チュンペーを心配しつつも、急にジジイの服が自爆を始めたため、「あたしの運60が仕事したにしても、このジジイの一人相撲のギミック、意味不明すぎてマジでついていけないんだけど!」と困惑している。
・相棒:
・内側から完全破壊中: 死霊葬衣の内部で元魔王の漆黒の魔力を膨らませ、『フン、我を家畜呼ばわりした罰だ。その悪趣味な衣ごと、お前の全てを無に帰そうか』と、暗黒の波動でネクロスの術式を強制解除させている。
・聖光剣アルスカイゼリオン:
・震える刀身: 「やはり、いまの凛愛では太刀打ち出来んか……まだ、何か足りない様じゃな」と、先代セリアと魔王が繰り広げたようなかつての次元の闘いには遠く及ばない現状を冷静に分析。
・周囲の状況:
・ネクロス(完全機能停止): 魔王クロウヴァルドの魂の残響に当てられ、精神の形を保つのがやっとの状態。「……いったい、どういう事じゃ……!」と、現世の凛愛を忘れて脳内で混乱中。
・死霊葬衣(崩壊): チュンペーから溢れる闇のプレッシャーに耐えかね、服の繊維となっていた亡者たちが「ここから出してー!」「魔王様直々の御裁きだー!」と、ネクロスを見捨てて四方八方へと霧散し始めている。
・力: 1
・体力: 1
・素早さ: 3
・知力: 2
・魔力: 0
・運: 60
・スキル: 逃走の極意、魔力感知?、魂の共鳴(完全発動・勇者モード)、魔王の庇護




