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第127話:幾万の魂を支配した王、ただ一人のギャルに敗北を知るんですけどぉ!?

 死を司る者として、儂はこれまで幾万もの、いや、億を超えるほどの魂を見てきた。


 人間の命など儚い。


 そして、その命の根源たる魂や精神など、肉体以上に脆く、実に御しやすいもの。

 ネクロスという偉大なる死霊術師が数千年の時をかけて導き出した絶対の真理であった。

 かつてこの手で弄び、骸骨の兵卒へと変えてきた者たちを思い出す。


 絶対的な権力を持っていた王も。


 一騎当千と謳われた戦場の英雄も。


 世界の心理を解き明かしたはずの偉大なる賢者も。


 彼らの精神には、例外なく脆い隙があった。


 心の奥底に眠る、肥大化した醜い欲望。

 死という絶対の終わりに対する、根源的な恐怖。

 過去の過ちを悔やみ続ける、暗い後悔。

 どんなに強固に見える精神であっても、必ずどこかに綻びがある。


 だからこそ、彼の死霊術は通じる。

 だから乗っ取れる。

 だから意のままに支配できる。

 そのはずだった。

 それが世界の理のハズだった。


 ネクロスは、純白に輝く精神の最奥で、スクールバッグを抱えたまま真っ直ぐに自分を見据えてくる星凛愛の魂を、凝視した。


 だが、この小娘は違う。


 幾万の魂を視てきたネクロスの眼から見れば、この星凛愛という人間の少女の器は、あまりにもお粗末で、あまりにも脆弱だった。


 肉体を動かす力は、子供以下。

 窮地を脱するための知恵も、皆無。

 術を発動するための魔力すら、塵ほども持ち合わせてはおらん。


 伝説の勇者セリアの力を引き出すための、依り代としての完成度など、どこをどう探しても完全に皆無。

 ただの、本当にただの、人間の小娘に過ぎない。


 にもかかわらず──


「なぜ折れぬ?なぜ、儂の放つ死霊の怨念に、恐怖の色すら見せぬのじゃ?」


 ネクロスの精神体に、未知の困惑が広がっていく。

 最初、ネクロスはこれを、彼女の内に眠る先代勇者セリアの残響のせいだ、と考えていた。

 セリアの強大すぎる聖なる意志が、この小娘の肉体を守っているのだと。


 しかし、空間を満たす魔力の流れを凝視し、精神の波導を解析していくうちに、ネクロスは鳥肌が立つような、恐るべき事実に気がついてしまった。


 違う。


「今、儂の死霊魔術を撥ね退けているのは、勇者セリアの加護があるからではない……」


 ましてや、あの美女たちにデレデレしていたアホな聖光剣の力によるものでもない。


 この、星凛愛という、知力も力も持たないはずの、ただのギャル自身の魂が、ネクロスの死霊術を、心の底から拒絶している。


(バカな……! 儂の死霊術は、魂の格が上の者が、下の者を支配する絶対の術! 儂の魂の格は、この小娘の数千倍、数万倍はあるはずじゃ! なぜ、ただの人間風情の自我が、儂の精神を押し返してくる!?)


 ネクロスには理解できなかった。

 凛愛の魂にあるのは、高潔な正義感でも、世界を守るという使命感でもない。


「大好きな友達との思い出を汚されたくない」

「可愛いネイルやゲームの記録を、シワシワのジジイに奪われたくない」という、あまりにも個人的で、あまりにも身勝手で、だけど、だからこそ誰にも侵すことのできない、圧倒的な「自分への全肯定」だった。


 知力2だからこそ、難しい絶望のロジックが通用しない。


 精神世界を優しく、だけど絶対に揺るがない強さで満たしていく純白の光。

 それに触れたネクロスの精神体は、ジリジリと音を立てて内側から焼き焦がされていく。


「あり得ぬ……」


 声だけのネクロスの輪郭が、激しく歪み、細かく震え始めた。


「……死霊術とは、魂を支配する術……」


「精神の領域とは、生者の肉体を持たぬ儂の、絶対的な支配領域のはずじゃ……」


「なぜ、このような力も知恵も持たぬ、人間の小娘一人……儂の術で支配できぬのだ……!」


 これまで数え切れないほどの生者の命を奪い、死を、そして魂をも意のままに操ってきた大死霊術師ネクロス・モルディーア。


 世界の理そのものを体現してきたはずの怪物が、その長い生涯で初めて、底知れない「恐怖」に、その魂をガタガタと震わせるのだった。


 現在のステータス

 ・名前: 星凛愛ホシ・リア

 ・状態:

 ・精神的無双(無自覚): 自らのアイデンティティを全肯定した結果、魂の防御力がカンスト。「ジジイに乗っ取られたら、あたしのスマホの検索履歴とか見られるってコト!? マジで死んでも嫌なんだけど!」という極限の拒絶感がネクロスを圧倒している。

 ・肉体の変化: 精神世界からの純白の光が現実の肉体にも漏れ出し、全身から眩いばかりの聖なるオーラ(と、なぜかピンクの雪を溶かし桃色オーラ)を放ち始めている。


 ・相棒チュンペー

 ・限界オタクと化した雀: 凛愛の魂がネクロスを内側から焼き尽くしていく光景を特等席で目撃し、『……ふん。これぞ我が認めたバカ人間』と、髪の中で大興奮して羽を震わせている。


 ・聖光剣アルスカイゼリオン:

 ・魂の共鳴: 凛愛の魂の輝きにガッツリと引っ張られ、美女たちの腕の中でビチビチとマグロのように跳ね回り始めている。「おおお! 凛愛の波動がワシの刀身に満ちていく! 美女たちよ、すまぬがワシの輝きでその綺麗な肌が焼け焦げてしまう前に、早くワシを放すのじゃーーー!」と大騒ぎ。


 ・周囲の状況:

 ・ネクロス(精神崩壊寸前): 「ギャルの思い出」という名の、理解不能な精神エネルギーに魂の核を直接殴られ、精神の形を維持できなくなりつつある。「なんじゃこれは……コスメの新作情報?ゲームのイベントスケジュール?訳がわからぬぅうう!!」と絶叫中。


 ・4人の美女: 手に持っていた聖光剣が急に超高熱を発して暴れ出し、さらに目の前の小娘が凄まじい光を放ち始めたため、「ネクロス様!? なんかこの小娘、ヤバい神様か何かに見えてきました!」「剣が熱くて持てないわ、一旦捨てて逃げましょ!」と、ハニートラップ部隊の戦意が完全崩壊しかけている。


 ・力: 1

 ・体力: 1

 ・素早さ: 3

 ・知力: 2

 ・魔力: 0

 ・運: 60

 ・スキル: 逃走の極意、魔力感知?

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