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第106話:氷のイケメン悪魔の急接近、あたしの心臓が別の意味で爆発寸前なんですけどぉ!

 思いもよらぬメモリエルの大ジャイアントキリングによって、最大の窮地を脱した凛愛。


 教室を埋め尽くしていた眩い光は、満足げな電子音と共にスマホの画面の中へと静かに収束していった。


 その足元には、体内の神聖魔力を根こそぎ吸引され、完全にイっちゃった表情のままピクピクしているティアリス。


(え? これって今日の放課後の課外授業、普通にパスでよくね? だって、肝心のプリンセスがこんな戦闘不能状態なんだから、物理的に無理だよね?)


 凛愛が「不戦勝で即帰宅」という神展開を確信してガッツポーズを作ろうとした、その瞬間だった。ガララッ! と教室の扉が勢いよく開き、騒ぎを聞きつけた担任のヴァル先生が飛び込んできた。


「どぉーしたぁ!? なにがあったんだ! 自習してたんじゃないのか? リアちゃん! 説明しろー!」


「あー……えっと、ですね……スマホが、その、妖精さんを自家発電の生贄にしちゃって……」


 あまりにも非現実的な光景を前に、知力2の頭脳ではまともな説明が思いつかず、凛愛はしどろもドロに指を弄ぶ。


 そこへ、廊下からカツ、カツ、と静かな足音が響いてきた。


「ふむ、課外授業の前にティアリスを下したか」


 冷徹なオーラを纏ったアザエルが、悠然と教室に姿を現した。相変わらずの圧倒的な強者感である。


「ヴァル先生、説明は不要だ。この場は私が預かろう」

「お! そうか? さすがはアザエルだ! 話が早くて助かる! じゃあ、あとは全部頼んだぞ!」


(いや、担任っ!! 生徒が一人床でイっちゃってるのに、引き継ぎ一瞬でバックれるの早すぎでしょ!?)


 ヴァル先生は、面倒な事後処理をすべてアザエルに丸投げし、疾風のような速さで去っていった。


 なお、他のクラスメイトたち(廊下で日焼け止めを探していた吸血鬼兄妹や、復讐に燃えていたヤンキー)も、アザエルの手によってすでに強制的に下校させられていた。


 アザエルは、自分の傍らに控える執事へと視線を送る。

「セバス、ティアリスを送ってやってくれ」


「畏まりました。これよりプリンセスを居城へお運びいたします」


 うっとりとした幸福な表情のままフリーズしているティアリスは、セバスチャンデルセンが広げた漆黒の闇に包まれ、そのままお城へと静かに姿を消した。


 こうして、嵐のような大騒ぎが嘘のように静まり返った教室。


 夕暮れ時の赤い光が差し込む室内に残されたのは、冷や汗をかきすぎて干からびかけている限界ギャルネイリスト星凛愛と、魔界の超エリート悪魔アザエルの二人だけだった。


(え、ちょっと待って……邪魔者は全部消えたけど、これ、別の意味で一番緊張するタイマンのシチュエーションが完成しちゃったんですけどぉぉ!!)


 髪の中からチュンペーがアザエルを睨む。


『ふん、アザエルめ、わざわざ現れるとは……』


 さっきまでのヴァル先生の暑苦しい熱気から一転、アザエルが放つ氷のような冷ややかさが、一瞬にして教室内を包み込んだ。


 ガタガタ震えながらも、凛愛は恐る恐るアザエルの顔を見上げる。


 ……よく見れば、というか、よく見なくてもこの悪魔、かなりの美貌の持ち主だった。


 夕暮れの赤い光に照らされた横顔は、人界のどんなアイドルやゲームのキャラクターすら霞むレベルの綺麗系ガチイケメン。

 あまりの顔面の美しさに、凛愛は思わずたじろいでしまう。

 最初は「いつ消滅させられるか」という恐怖が勝っていたはずなのに。


 至近距離で見つめられるうちに、胸の奥がドクン、ドクン、と鳴り響き始めた。


(な、なにこのドキドキは……まさかこれって、吊り橋効果ってやつ!? それとも新手の精神攻撃!?)


 知力2のゲーム脳が「恋愛フラグ成立か!?」と大パニックを起こしていると、アザエルがその切れ長の瞳をさらに細めて、静かに口を開いた。


「なかなかに見所がある人間だな。七大貴族の二人を退けた、その力」


 低く心地よい低音ボイスが、静まり返った教室に響く。


 彼は、ライゼルやブラドレイン兄妹が逃げ出し、ティアリスが撃沈したすべての原因が、凛愛の隠された実力によるものだと完全に勘違いしていた。


「私の力を全力でぶつけるには、あまりにも足りないが……どうやら、この課外授業は功を奏しているようだ」


 アザエルは一歩、また一歩と凛愛の距離を詰めてくる。

 その冷徹な瞳の奥に、ほんの少しだけ、観察対象への興味のような色が混じる。


「兄上の見る目を、一時は疑ったが……なるほど、星凛愛、我ら魔族をも凌駕する、秘めたる何かを持っているようだ……」


(……は?持ってない!! 秘めてたのネイルのちょい技術だけ! 勘違いスケールデカすぎ!もう逆に真実を打ち明けるタイミングを完全に見失ったんですけどぉぉ!!)


 イケメンすぎる悪魔の吐息が届きそうな距離で、最上級の誤解と評価を叩きつけられ、凛愛は心の中で頭を抱えて絶叫した。


 髪の中のチュンペーが心の中で呟く。


『アザエル、完全に勘違いしているな……いや、この方が都合が良いか……』


 魔界のエリート悪魔にガチでロックオンされてしまった限界ギャルネイリスト。


 彼女の運10のパラメータは、果たしてこの超ド級の勘違い修羅場を乗り切ることができるのだろうか。


 現在のステータス

 ・名前: 星凛愛ホシ・リア

 ・状態:

 ・強制恋愛イベント(誤): イケメン悪魔の超接近に、恐怖とときめきが混ざり合った謎のドキドキが止まらない。

 ・ガチのハードル上げ: 実力ゼロなのに「魔族を凌駕する秘めた力を持つ者」としてアザエルに認定され、今後のハードルが宇宙まで爆上がり中。

 ・相棒チュンペー

 ・冷や汗雀: アザエルの鋭い視線が凛愛の髪の毛(自分の隠れ家)に向くたびに、『ヒィッ! バレる、我の存在がバレる……!』と心臓をバクバクさせている。

 ・聖光剣アルスカイゼリオン:

 ・謎の対抗心: 「なーんだ、男の口説き文句か。つまらんのう! 凛愛よ、そんな冷たい男より、ワシのこの黄金に輝く美しい刀身を愛でるのじゃ!」と、あらぬ方向へ嫉妬の炎を燃やしている。

 ・周囲の状況:

 ・アザエル: 凛愛が沈黙しているのを「強者の余裕」と受け取り、ますますそのポテンシャルに期待の目を向けている。

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