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幼き二人

 「ねーねー、だれおまえー?」

 「なにものなの?」


 無邪気さと言うものは恐ろしい。

 平気な顔で他人の領域に入り込み、他人などはお構いなしに荒らしていく。

 界斗は小さな小学生くらいの男の子と女の子、二人の子供に迫られ、その勢いにすっかり気圧されてしまっていた。

 落ち着いて説明してあげたかったが、一向に二人が止まる気配はない。二人は界斗の周りをぐるぐると歩きながら、絶え間なく好奇心に満ちた瞳を向けていた。


 「どっからきたんー?」

 「なまえは?」


 質問はマシンガンのように飛んでくる。

 投げかけてくる質問に対し、界斗が答えようにも、喋ろうとした時には既に次の質問が飛んでくる始末である。

 二人は見知らぬ人間の界斗が気になって仕方がないようだ。

 情けのない事に界斗は困り果て、蛇に睨まれた蛙のよう、追い込み漁の魚のように固まって縮こまる他なかった。

 

 「こぉら、やめなさいって二人とも。カイトが困ってんじゃん」


 しかし、そこを助けてくれるのがアオである。

 アオは歩き回る二人の手を掴むと、界斗から引き離した。二人は抵抗することなく、アオの言うことに素直に従い、並んで界斗と向き合った。


 「た、助かった……」

 「ははは……」


 思わず口からはため息が漏れる。

 子供の扱いは苦手と言う訳でもないが、こう一度に来られると対応に困ってしまう。アオが居て非常に助かった。

 だが、子供たちは止まることを知らなかった。その騒がしく、せわしない口は再び動き出してしまう。


 「カイトー? カイトっていうのかー?」

 「初めて聞くね」

 「どこのどいつだー」

 「聞いてるんだから答えてよ」


 何も答えない事にが気に入らないのか、だんだんと生意気な言葉を言うようになってきた。少々頭に来るが、ここで腹を立てていては年上としての威厳に瑕がつくというものであるので、気にしていない素振りをする。

 改めてアオに手を握られた二人を見てみると、一人は如何にもハナタレ小僧と言った感じが似合う無垢な顔をした男の子で、もう一人は不審そうな目を向けてくる生意気そうな女の子だった。二人とも頬が愛らしく赤みを帯びており、体のあちこちに小さな怪我が目に入った。一瞬、虐待を想像してしまったが、大体が擦り傷や切り傷なので、恐らくは外で遊んでいてできたものだろう。二人の表情から暗いモノは一切感じさせないこともある。

 界斗は一度だけ咳ばらいをすると、なるべく大人っぽく聞こえるように声色を意識して自己紹介をした。

 始めが肝心なのだ。いきなりなめられては困る。


 「俺は界斗。このトータスとは違うところから来……」

 「外から来たの!? ホント!?」

 

 言い終わるより早く、男の子のほうが大きな声で食い気味に言う。

 対照的に女の子の方は「ふぅーん」とまだ不審そうである。

 

 「どこどこ? ここから遠いの? なんてとこ?」


 アオが言っていた通りによそ者は珍しいらしい。男のは目を輝かせながら、界斗に飛びかかる勢いで聞いている。

 今にも駆け出しそうな男の子をアオが手で必死に抑えていた。


 「だから落ち着けって。ったく、ケイは元気すぎるよ」

 

 アオはケイと言うらしい男の子を見ながらため息交じりに笑った。

 それを言われたケイの耳には全く入っていないらしく、相も変わらず界斗に質問を繰り返している。

 

 「あんまり格好良くないね。別の人にしたら?」

 「何の話……。というか、マイははっきり言い過ぎ」


 マイと呼ばれた女の子はアオの背に隠れ、顔だけを覗かせて毒を吐いた。子供の言ったことと言え、胸に刺さる。

 もっと上手くフォローしてくれよ、と界斗は俯きながら思った。

 そして、ここで一つ訂正をしよう。子供は苦手である。


 

 あれからが大変であった。

 とにかく動き回ろうとするケイをどうにか落ち着かせ、界斗を怪しむマイを何とか説得した。そうして、お互いに自己紹介をし、皆で廃材のベンチに腰を落ち着けたのだった。

 それだけの事のはずなのにやけに体力を消費した。

 アオを見ると、平気な顔をしている。普段からこんな感じなのだろう、まさしく二人のお姉さんと言う感じだった。

 

 「へー、じゃあ今はアオちゃんの家にいるんだねカイト兄ちゃんは」

 「うん、そうなんだ」


 ケイは止まっているということがどうしてもできないらしく、脚をぶらつかせながら界斗に聞いた。

 しかし、『兄ちゃん』と言われるのは、兄弟のいない界斗にはくすぐったい言葉であった。何だか、なんでも答えてやりたいという気持ちになってくる。

 横でアオが「私が『お姉ちゃん』て呼んでって、いくら言っても呼んでくれないのに!」と憤ていたが、「だってアオちゃんはお姉ちゃんて感じしないし」と一蹴され、悲しげな表情で肩を落としていた。


 「どうしてトータスに来たの? 旅行? なんかのお仕事?」

 「えーっと……それは……」

 

 やはり何度この質問されても言葉に困ってしまう。しかも、今度は子供が相手となるとさらにどう説明してよいものか解らなくなる。

 

 「何というか……迷子と言うか……」

 「迷子ー?」


 ようやくして捻りだせた答えはそんな言葉であった。あまりにも格好の付かない言葉であるが、それ以外の言い方が見つからなかった。


 「は? 迷子? ますます怪しいかも……」


 界斗の言葉を聞いて、マイの視線がさらに厳しくなる。その視線を受けて、界斗も「ははは……」と苦笑いすることしかできない。

 小さい子とはいえ、界斗のメンタルを弱らせるには十分過ぎるほどに鋭く感じられた。

 村人から冷たい視線に晒された事を思い出し、なんとも言えぬ居心地の悪さに襲われる。


 「なにそれー、帰れないってことー? 大丈夫かー?」


 しかし、マイとは対照的にケイが純粋な瞳で心配してくれる。界斗を見上げる大きな瞳が庇護欲を掻き立てる。


 「うん、大丈夫だよ、きっと。まぁ、アオさんもいるしね」


 からかうようにアオを見ると自信ありげに胸を張っていた。ちょっと頼りない気もしなくはないが、これまでの事を考えればこれ以上に頼れる存在はない。


 「んー? よく解んないけど僕も手伝うよ! 任せてよ!」

 

 アオを真似するかのように胸を張るケイは愛らしく、「ありがとうね」と頭をなでてやると猫のようにくしゃっと笑った。

 本当のことを言うと、この先どうなるかは全く分からないが、この笑顔を作れたのならば悪い気もしない。

 

 「よーしっ、そうと決まれば早速調査開始だ! 今日も行くよ!」


 アオが唐突にそう叫びながら立ち上がった。腕を上に突き上げてやる気満々と言う感じである。

 ケイも同じように元気よく立ち上がり、意外にもマイもそれに続いていた。

 しかし、状況が理解できない界斗はつられて立ち上がるも、呆然と立ち尽くしていた。

 それを直ぐに察したケイが説明をしてくれる。

 

 「いつもなー、みんなで探検してるんだよ!」

 「まぁ、いつも山の中を歩くだけだけどね」


 聞いてみるとそれがここに住む子供たちの遊び方らしい。家に籠ってばかりの今の子供たちとは正反対だ。


 「でも今日は一味違うよ。なんたって新しいメンバーがいるからね!」


 アオが肩に手を乗せ、子供っぽく笑いかける。ケイも嬉しそうに笑い、マイは……未だに不信感が抜けないが一応は歓迎してくれるようで、小さく頬んでくれた。

 界斗が照れくさそうにしていると、アオは問答無用に腕を掴み、「行くよっ!」と駆け出した。

 この唐突さに界斗も慣れ、体勢を崩すことなくその背中について行けた。

 二人が四人に。

 界斗は新たな出会いに戸惑いながらも、この先の出来事に期待を膨らませていたのだった。

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