一生に一度だけのお願い
でも、あたしなんかの為に、あんな危険な男達に身をまかせるのは間違いだ。
「だめだよ、真樹ちゃん……」
「あなたのせいよ」
あたしのせいだ。あたしが余計なことをしたから、真樹ちゃんは傷ついてこんなことをしたんだ。あたしのせいで、真樹ちゃんは普通の暮らしを捨ててしまった。
「わたし、異常犯罪者の妹だから友達いないの。笑うでしょ。友達は一人だけで、それは復讐の相手なの」
真樹ちゃんは、顔をあげて、泣いているような顔で笑った。
「ぜんぶあなたのせい。動画もまたアップするから、ちゃんと見てね。わたしがどんふうに痛くされて、どんふうに泣くのか――」
それは無理だ。あたしには耐えられそうにない。
真樹ちゃんはあたしから体をはなし、下を向いて目を合わさずに言った。
「―― 一生、後悔すればいいわ」
真樹ちゃんは、呆然としているあたしを置いて、エントランスを出た。
「待ってよ真樹ちゃん! だめなの! それではすまないの!」
「なに? 話は終わりなんだけど」
「……死んじゃうよ。あいつら……最後は殺しちゃうんだ」
真樹ちゃんは、鼻で笑った。
「馬鹿じゃないの? ここは日本なのよ。もっと、ましな嘘を考えたら?」
表には、いつかの黒っぽい箱バンが待っていて、スライドドアを開けて、真樹ちゃんを待っていた。真樹ちゃんは女王様みたいに歩いて、車に乗った。
車に乗りこんだ真樹ちゃんを、男達は殴った。傷がのこらないようにおなかを殴っていた。
――てめー、なんで言うこときかねぇんだよ!
もう一度殴った。真樹ちゃんが息を詰まらせるのがわかった。
――お前が決めんのか? ああ! いつあそこに入れてもらうのか、おまえが決めんのか? 殺すかんな、おまえ。
そんな、声が聞こえた。男達はあたしの存在には気づいていなかった。
車はすぐに出ていって、もう、どこに行ったのか分からなかった。
わたしと同じ目をしている、と真樹ちゃんが言った理由がわかった。真樹ちゃんはあたしと同じことをしようとしていたのだ。あたしよりも、もっと、難しいやり方で。
あたしは、エントランスの脇に立ったまま、子供みたいに、ぼろぼろと泣いていた。
『千夏? 泣いているのかい?』
ポケットから、ケットシーの声が届いた。
「どうしよう、ケットシー。真樹ちゃんが、真樹ちゃんがあんな奴らに……」
携帯を取り出すと、ケットシーは難しい顔で、あたしを見た。
『聞いていたけど、最初から友達じゃないんだから、千夏には関係ないだろ』
そんなわけにはいかない。真樹ちゃんはそう思っていなくても、あたしにとって真樹ちゃんは、たった一人の大切な友達だ。
『千夏がやっていたのは、こういう事だよ。傷つけて思い知らせるのが望みなんだろ? 自分に降りかかってきたからと言って、運命を呪う資格なんかないのは、分かっているよね』
ケットシーの言う通りだ。あたしは覚悟ができていた筈だった。
あたしは、子供みたいに、泣きながら言い訳をした。
「もうしない……あたしが間違ってた。他のことなんかどうでもよかった。真樹ちゃんより大事なものなんかないの!」
ケットシーは、深いため息をついた。やれやれと首を振って、顔を上げた時には、もう、チェシャ猫みたいな悪戯な笑顔だった。
『それで、千夏はどうしたいの?』
「おねがいよ、真樹ちゃんを助けて……あたしが、身代りになってもいい」
ケットシーはひげをぴくぴくさせながら言った。
『それは、一生に一度だけのお願いかい?』




