路地裏
「最近活躍しているヒーローがいるらしいね。実にWACKだ」
そう零したのは、一人の少年――流鏑馬徹流だった。競合相手の活躍を、彼は黙って見過ごすわけにはいかないらしい。
「御子柴美香――僕は必ず君を倒す」
そう宣言した彼は、ふと後方へと目を遣った。その眼前に飛び込んでくるのは、五体の怪人だ。
「ゲヘヘ……こんな小僧でもヒーローになれる時代かよ」
「やっちまおうぜ」
「彼は良い声で哭いてくれそうですね」
「お前の血は何色だァ?」
「なんでもいい。ブチ壊す」
各々の言葉を口にした彼らは、じりじりと間合いを詰めていく。その直後、一気に徹流の方に駆け寄り、彼らは次々と剛腕による猛攻を繰り広げた。さりとて、流鏑馬徹流はヒーローだ。そう簡単に負ける男ではない。
「その程度か。実にWACKだな」
「何?」
「ちなみに僕の慈悲の残機は、後一機ってところかな」
直後、彼は凄まじい火力の波動を放ち、怪人たちの身を焼き払った。
「ギィィィィ!」
「馬鹿な! 馬鹿なァ!」
「このガキィィィ!」
「グワァァ!」
「貴様ァァァ!」
断末魔の数々が響き渡り、その場は激しい爆発に包まれた。コートの襟を整えつつ、徹流は呟く。
「WACKだ。オキニのコートが台無しだね」
その生地は返り血に染まっていた。
続いて、徹流はダーツバーの路地裏に赴いた。彼がここを訪ねたのは他でもない。この時、彼はこの場所から美香の波動を感じ取っていたのだ。そして徹流は、美香と邂逅する。
「……君が御子柴美香か」
「そうだが、アンタは?」
「僕を知らないとは、LITじゃないね」
「LIT? なんだよそれ」
この時、美香は戦闘の予感を覚えていたわけではない。もっとも、そこに緊張感が走ってなかったと言えば嘘になるだろう。
「WACKなヒーローは黙ってろ」
そう言い放った徹流は、強力な波動を解き放った。
「……!」
咄嗟の判断により、美香はワイヤーを縫い合わせた防壁を生み出した。この遮蔽物により波動は分散するが、それでもなお威力は高い。彼女は深いやけどを負いつつも、反撃に移る。
「ヒーロー同士の争いか? さぞかしそれはLITとやらなんだろうな!」
声を張り上げた彼女が放つのは、無数のワイヤーだ。しかしその一本一本は、波動に焼き払われ塵芥と化してしまう。
「アンタ……強いな……」
「当然だ。キャリアが違う」
「なんだよ、性病かよ」
「……そういうキャリアじゃない」
「はっ……ノリの悪い奴だ」
憎まれ口を叩きつつも、美香は極めて消耗している。今まさに、彼女は死と隣り合わせなのだ。
「NPCに相応しい敗北を教えてやろう」
「ララバイキメてネンネしな」
「君を倒したらそうしようかな。僕は低血圧でね、気だるいのはいつものことなんだ」
今この瞬間、両腕を上げている徹流の手には眩い光が集まっている。それが波動そのものなのか、あるいは波動の残光なのか――それは定かではない。この時、美香はガンマ線バーストが不可視光線でありながら紫の残光を残すことを思い出していた。一方で、彼女もまた防戦一方ではない。
「カタをつけるぞ、ポジ野郎」
そんな強気な一言と共に、彼女はワイヤーの繭で徹流の足を縛り付けた。当然ながら、彼の放つ波動はすぐにワイヤーを粉砕してしまう。
「終わりだ、凡夫」
そう告げた徹流は、凄まじい火力の波動を光線にした。爆炎の中で足掻き苦しむ美香の様は、彼の気持ちを高揚とさせていた。
「怪人さえ倒せればヒーロー? 甘いな。競合相手との戦いもまともに出来ないようじゃ、到底ヒーローにはなれない」
「仲間割れがヒーローのやることかよ……!」
「仲間? ククッ……ヌルい考えは捨てろ。非情な者にしか正義は成せないんだよ! ハハハ! ハハハハハ!」
美香は今まさに、絶体絶命だ。




