御子柴美香
ネオンの街では、三体の怪人が猛威を振るっていた。彼らを迎え撃つのは一人の少女――御子柴美香である。
「ララバイキメてネンネしな!」
声を張り上げた彼女は、すぐさま無数のワイヤーを生み出した。その一つ一つは怪人たちの四肢を拘束し、身動きを封じている。無論、怪人たちも防戦一方ではない。
「芥となれ!」
そう叫んだ怪人は、高圧電流を解き放った。咄嗟の判断でワイヤーを縫い合わせた美香は、防壁によって電撃を回避する。
「今日の敵は、手こずらせてくれるじゃねぇか!」
ほんの一瞬の油断が命取りだ。彼女は息を呑み、次の猛攻に移る。有刺鉄線のようなワイヤーが数多出揃い、標的たちの肉体を削り取っていく。
「これでキメる!」
そう宣言した美香は、鉄の繭で怪人たちを巻き付けた。繭は敵の肉体を締め付け、そして圧死させる。
直後、激しい爆発が砂煙を散らした。
美香はその場に背を向け、颯爽とその場を去ろうとする。しかしその眼前に、また別の三体の敵が現れる。
「どこもかしこも怪人だらけだな。ここはいつから西成区になったんだ?」
そんな冗談を口にしつつも、彼女は身構えた。その周囲でうごめくワイヤーは、今まさに怪人たちを捕食する準備をしている。臨戦態勢だ。
「アンタらも、ララバイキメてネンネしな」
またしても決め台詞を発した美香は、無数のワイヤーで敵の全身を細切れにした。少なからず、この戦闘においては彼女の実力は計り知れないものだ。
「Done」
勝利を宣言した美香は、カメラに向かってサムズダウンした。
そこに姿を現したのは、一人の青年である。
「良い活躍だな、美香。スポンサーも大喜びだろう」
「しゃ、社長!」
「それで、意気込みは?」
そう訊ねた男は、掴みどころのない笑みを浮かべていた。一方で、美香の心は燃えている。
「ヒーロー興行を圧巻させてやりますよ。アタシの戦いで、より多くの人に希望を与えるんです」
「それでこそ御子柴美香という女だな」
「光栄にあずかります。今後ともよろしくお願いします」
彼女が貢献したのは、市民の安全だけではない。美香と契約を結んでいるスポンサーたちも、この戦いで大きな利益を叩き出している。
ニュースが報じられたのは翌日だ。
『遊々堂の化粧水の予約が殺到しています!』
『ユーフォリアのマッサージチェアが飛ぶように売れています!』
『千土の黒マー油ラーメンが、大人気です!』
この世界において、ヒーロー活動は経済に大きく携わっている。そんなニュースの数々を耳にした美香は、屈託のない笑顔を浮かべる。
「日本の経済は任せとけ! アタシはヒーローだからな!」
その隣では、社長が頬杖をついている。
「お前に社運を託しても良いかも知れないな、美香」
「当然ですよ社長! アタシにかかれば怪人の一人や二人、なんてことないです!」
「しかし慢心はよくないな。油断大敵という言葉を頭に叩き込んだ方が良い」
そう忠告した彼だったが、美香はまるで聞く耳を持たない。
「油断大敵の文字なんて、親の腹に置いてきました。アタシはいつだって、最強のヒーローなので!」
「はぁ……その熱意は買うがね。お前にはまだ競合相手と張り合えるだけの実力がない」
「そんなの、やってみないとわからないですよ!」
「命を安売りするな。お前には怪人を倒す使命というものがあるのだ。簡単に死んでもらっては困る」
「死なないです。アタシは最強なので」
少なくとも、その自信に根拠などない。されど、それが虚勢ではないことも火を見るより明らかだ。
「労災を出す私の身にでもなって欲しいがね」
「それをチャラにするためにヒーロー興行を盛り上げるんでしょう? お任せあれ!」
「……やれやれ、先が思いやられそうだ」
呆れ果てた社長は深いため息をつき、煙草に火を点けた。




