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ゼロサム・ヒロイズム  作者: やばくない奴
ワイヤーマスター美香
1/6

御子柴美香

挿絵(By みてみん)

 ネオンの街では、三体の怪人が猛威を振るっていた。彼らを迎え撃つのは一人の少女――御子柴美香(みこしばみか)である。

「ララバイキメてネンネしな!」

 声を張り上げた彼女は、すぐさま無数のワイヤーを生み出した。その一つ一つは怪人たちの四肢を拘束し、身動きを封じている。無論、怪人たちも防戦一方ではない。

「芥となれ!」

 そう叫んだ怪人は、高圧電流を解き放った。咄嗟の判断でワイヤーを縫い合わせた美香は、防壁によって電撃を回避する。

「今日の敵は、手こずらせてくれるじゃねぇか!」

 ほんの一瞬の油断が命取りだ。彼女は息を呑み、次の猛攻に移る。有刺鉄線のようなワイヤーが数多出揃い、標的たちの肉体を削り取っていく。

「これでキメる!」

 そう宣言した美香は、鉄の繭で怪人たちを巻き付けた。繭は敵の肉体を締め付け、そして圧死させる。


 直後、激しい爆発が砂煙を散らした。


 美香はその場に背を向け、颯爽とその場を去ろうとする。しかしその眼前に、また別の三体の敵が現れる。

「どこもかしこも怪人だらけだな。ここはいつから西成区になったんだ?」

 そんな冗談を口にしつつも、彼女は身構えた。その周囲でうごめくワイヤーは、今まさに怪人たちを捕食する準備をしている。臨戦態勢だ。

「アンタらも、ララバイキメてネンネしな」

 またしても決め台詞を発した美香は、無数のワイヤーで敵の全身を細切れにした。少なからず、この戦闘においては彼女の実力は計り知れないものだ。

「Done」

 勝利を宣言した美香は、カメラに向かってサムズダウンした。


 そこに姿を現したのは、一人の青年である。

「良い活躍だな、美香。スポンサーも大喜びだろう」

「しゃ、社長!」

「それで、意気込みは?」

 そう訊ねた男は、掴みどころのない笑みを浮かべていた。一方で、美香の心は燃えている。

「ヒーロー興行を圧巻させてやりますよ。アタシの戦いで、より多くの人に希望を与えるんです」

「それでこそ御子柴美香という女だな」

「光栄にあずかります。今後ともよろしくお願いします」

 彼女が貢献したのは、市民の安全だけではない。美香と契約を結んでいるスポンサーたちも、この戦いで大きな利益を叩き出している。


 ニュースが報じられたのは翌日だ。

『遊々堂(ゆうゆうどう)の化粧水の予約が殺到しています!』

『ユーフォリアのマッサージチェアが飛ぶように売れています!』

『千土(せんど)の黒マー油ラーメンが、大人気です!』

 この世界において、ヒーロー活動は経済に大きく携わっている。そんなニュースの数々を耳にした美香は、屈託のない笑顔を浮かべる。

「日本の経済は任せとけ! アタシはヒーローだからな!」

 その隣では、社長が頬杖をついている。

「お前に社運を託しても良いかも知れないな、美香」

「当然ですよ社長! アタシにかかれば怪人の一人や二人、なんてことないです!」

「しかし慢心はよくないな。油断大敵という言葉を頭に叩き込んだ方が良い」

 そう忠告した彼だったが、美香はまるで聞く耳を持たない。

「油断大敵の文字なんて、親の腹に置いてきました。アタシはいつだって、最強のヒーローなので!」

「はぁ……その熱意は買うがね。お前にはまだ競合相手と張り合えるだけの実力がない」

「そんなの、やってみないとわからないですよ!」

「命を安売りするな。お前には怪人を倒す使命というものがあるのだ。簡単に死んでもらっては困る」

「死なないです。アタシは最強なので」

 少なくとも、その自信に根拠などない。されど、それが虚勢ではないことも火を見るより明らかだ。

「労災を出す私の身にでもなって欲しいがね」

「それをチャラにするためにヒーロー興行を盛り上げるんでしょう? お任せあれ!」

「……やれやれ、先が思いやられそうだ」

 呆れ果てた社長は深いため息をつき、煙草に火を点けた。

挿絵(By みてみん)

主題歌:https://youtu.be/uMyr0QwyMUc

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