第8話 火急の件
―それから日が過ぎて、豊島のインターン最終日を迎えた。
課長が送別会を企画しようとしていたが、豊島は長距離移動があるので遅くなれないと申し出て断っていた。
「良かったのか?公務員の世界でコミュニケーションは大事だぞ?」
「・・・え?アンタがそれ言うの?ってまぁ、一応最低限の外面は整えてるんだっけ。それにアタシもそもそも人間不信な側だしね。」
まぁ過去が過去ならそれはそうか。見た目が良くなったからと言って、それに群がってくる奴を好きになれるかと言われればそれは確かに別の苦労がありそうだ。
「それとさぁ、色々教えたんだからアタシに呪文使うとかはナシにしてよ?」
ちっ、流石に狙いがバレてたか。
「あと他の魔導書の情報掴んだら連絡ちょうだい?」
「あ?なんで?」
「この職場の住所がアタシの魔導書に浮かんだっつったでしょ。
他にもそういう奴いたらアンタこれからも危ないよ?手助けはするからさ、奪えるなら奪ってアタシがその本貰いたいんだよね。」
・・・欲深い奴め。まぁ俺も同じ状況なら何してでも本を追い求めるだろう。
それに本のことを知ってる奴が協力者としていた方が、何かと調べたり対策するときも有利だろう。
(例の契約ってやつも今となっては怖くなってきたしな。)
「そういやおまえなんであの本をグリモワールって呼んでたり、俺の事が所有者ってすぐ分かったんだ?」
「ん?本のことは大学のオカルト研究会のスピってる友達に聞いた。アンタに関しては、アタシの見た目にそこまで反応してなかったからね。」
ふっ、やはり毎朝欠かさず清宮さんでイメトレしている俺に隙は無かったな。
「アタシの見た目はあの本の魔法で作ったからなのか、見た目に反応して魔力取れそうな奴を肌感で察知できるっぽいんだけどアンタは反応しなかったの。
ってことは、本の影響を受けない人間しかいないから所有者って分かったワケ。」
「・・・なるほどな。けど俺がお前の見た目に惑わされなかった可能性とかは考えないのかよ。」
「無理でしょ。大事な話してんのに今も胸元と太ももしか見てこないような奴には。」
所詮はまだまだ子供の浅慮と思いきや、なかなかにキレる。やるな、豊島。
「そんじゃ、しばらくはアタシは向こうで情報集めるからアンタはアンタで用心しなさいよ。じゃあね。」
「ああ。そっちも気をつけろよ姫麗。」
「は?何軽々しく名前呼びしてんの?殺すよ?マジで。
アンタのせいで本無くしたんだから、ムカつくことはあっても仲良くするとか無いから。ちゃんと責任感じて働きなさいよ?」
・・・シャイガールめ。いつか絶対その体を従順になるまでイジメぬいてやるからなぁ!!!
―かくして豊島は都会に戻り、俺は清宮さんとの平和な日常を無事に守り抜いたのだった。
そんなある日、同僚の男が俺に耳打ちしてくる。
「おい久澄、お前あのウワサを聞いたか?とんでもないことになってるぞ。」
「何だ?誰かやらかして懲戒人事か何か発表されんのか?」
「ちげーよ。あの清宮さんがついに婚約するらしいって話だ。」
は?
はぁあああああぁああああああ!!???
「・・・おい、相手は誰なんだよ?」
「それがあの議員とこの吉永だよ。何でも親同士の付き合いで見合い話が進んでるんだと。」
ふざっっけんなあああぁあぁぁ!!!
あの清宮さんが・・清楚華憐を地で行く清宮さんが・・あの吉永に股を開くだけのふしだらな人妻に成り下がるだとおぉぉ!?
「は・・ははっ、ダメだよ、清宮さん。
ナメクジに長ネギを使ってそんなことまでしてあげるなんて・・・。」
「お、おい久澄?大丈夫か?気をしっかり持て!久澄っ!」
・・・とても仕事をする気にならない。今日は早退することにした。
◇◇◇
『・・・急に鬼電してくるから何かと思えば、そんなどうでもいいことで電話しないでくれる?』
豊島は呆れつつもキレ気味で返してきた。
「どうでもいいワケねぇだろうが!俺の生活の一部なんだぞ!!清宮さんを失ったら俺はこれからどうやって生きていけばいいんだよっ!!」
清宮さんが本当に吉永と婚約するのならば、妄想でナメクジの顔がチラつくなんてレベルじゃない。
ほとんど清宮さんが、ナメクジの粘膜に身を委ねるところを毎日傍観するだけみたいなもんだろ。
・・・・・・いやダメだ。
一瞬危なかったが、そんな妄想は断固としてNGだ。
『知らないっつの。死ぬなりなんなりは勝手にしてもいいけど、その前に持ってる本はちょうだいよ。』
「誰がやるか。この本を使って奴を生殖不要の単細胞生物に退化させる。早く魔力集める方法教えろ。」
『・・・・・アンタ、ホント終わってんね。魔力集めは色々試してやってみるしかないでしょ。
考える通り負の感情が動力源なら、アンタが執着する清宮さんに何か起こるところに居合わせれば簡単なんじゃない?』
「ふざけんな。それじゃ本末転倒だろ。女性の意見として、どういう婚約破棄を吉永に与えれば理想になるのか答えてくれ。」
清宮さんがあの野郎とネオンの光に消えていくところなんかに居合わせてみろ。俺はこの何もないクソ田舎を本当の無の大地に変えかねない。
そもそもガキじゃあるまいし、善良なる奉仕者たる俺は嫌な目にあった程度で魔王になるとか無双するとかは簡単に考えないんだよ。
『はぁ、組む奴間違えたかもしんない・・・。』
「そうだ!背徳感は負のエネルギーになるかもしれない!豊島!!今すぐお前が履いてる下着を郵送でおくっ、」
―ブツっ!
・・・切りやがった。
協力を申し出たくせに、こいつはまじめにやる気があるのか。まぁ今はいつまでもへこんでる場合じゃない。豊島よりも清宮さんの件を至急何とかする方法を探さねば。
拝読いただき厚く御礼申し上げます。
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