第7話 魔導書
―それから3日ほど豊島は職場を休んだ。
おかげさまで、俺が何かしたんじゃないかと課長などからとやかく疑われることとなりそれはそれで弁明するのに大変だった。
(ふざけんなクソがっ!元はこっちが先に襲われてんだぞ。何かするんだったらとっくにあの豊満な体に勇者の剣を突き立てて、俺のMP全ブッパで呪文ぶちかましてるわボケがっ!!)
「久澄主任が責任もって豊島さん運んだのに、皆さんヒドいですよね。」
「いや咄嗟とはいえ誤解を招きかねないし、今のご時世に男だからってああいう対応も軽率だったかなって今となっては悪かったとも思うし。」
すまない清宮さん、正直豊島を運ぶ際に体の感触を楽しんでいた。でも安心してくれ。きっと君が同じ目にあったらそれ以上に体の感触を楽しむよ。・・・約束する。
「そうは言っても結局あの後に久澄さんもしばらく戻ってこないから、2人も抜けてこっちも大変だったんですよ?飯でも奢ってくれなきゃやってらんないですよ。」
黙れ吉永。お前も豊島の本でゾンビみたいに操られて襲ってきたこと忘れてねぇからな。
「・・・おはようございます。数日間ご迷惑おかけしました。」
豊島が出勤してきた。
・・・ふむ、やはりあの騒ぎの後の話でも思ったのだが、容姿が元に戻っていないところを見ると既に魔法で改変した事実は魔導書が失われてもそのままのようだ。
豊島の出勤に合わせて、襟元を正す男たちと恨めしそうに睨むメスどもで職場の空気が一変する。
(相変わらず学習しないやつらだ。毎朝欠かさないイメトレで不動の精神を持つ俺を見習え。)
豊島が席についてからすぐに俺のPCにメールが送られてくる。
《連絡先渡しとく。流石に人目があるところであの話の続きできないでしょ?とりあえず今日の仕事終わりは時間作っといて。》
っしゃあ!!イケイケ女子大生の連絡先ゲットぉ!!見たか、ジジイども!!俺はお前らのようなカスとは違うのだよ。
「ちょっと久澄さん、パソコン見て何ニヤついてんですか。パソコン私的に使うと戒告処分受けますよ?」
うるせぇナメクジ!ぶん殴るぞ!!と、思いきや吉永は既に俺に殴られた後のようだ。わずか数秒のことなのに記憶が無いとは、これもあの本の力だろうか。
とりあえず今日1日、上機嫌で仕事をこなし終業後に帰宅準備をする。
「お疲れ様。約束覚えてるでしょ?裏で待ってるから早くしてよ。」
豊島がツカツカと歩いて気一言だけ言ってそのまま去っていく。それと同時に周囲にザワつきが起きた。
「俺が誘っても全然相手にされなかったのに、久澄の野郎どんな汚い手を使いやがったんだ?」
「噓でしょ?豊島さんってああいう冴えないのが好きなの?最近のコって価値観変わってるのねぇ。」
人生で一度もスポットライトを浴びることが無く、生涯を終えるだろう愚か者どもが何か言っているが気にしない。俺は今、間違いなく最高潮を迎えている。
「久澄主任、いつの間に豊島さんと仲良くなってたんですか?待たせたら可哀そうですし、早く行ってあげたほう良いですよ。」
違うんだ清宮さん!豊島が女医の格好で誘惑してこようとも、俺の心は君だけのものだ!!
◇◇◇
庁舎の裏門前に向かい、自販機の近くにいた豊島を見つけた。
「よお、待たせたな。どこで話す?」
「どっかファミレスでと思ったけど、この辺なんも無いのね。なんか近くにないの?」
仕方が無いので以前昼休みに騒ぎがあった、こじんまりとした定食屋に行くことにした。
正直俺としても使いたくなかったが、あそこなら人が寄り付かないので聞かれたくない話をするには最適だろう。
「・・・この店大丈夫なの?意外と中が広い割にアタシらしかいないけど。」
「さぁ?前に来た時に、ガラの悪いやつがここで食う奴はバカ舌とか言ってたからその通りの店なんじゃねーか?」
豊島が呆れたようにため息をつき、気を取り直して本題に入る。
「それであの魔導書のことだけど、まずアンタはどうやって手に入れてどこまで知ってんの?」
「ん?あぁ、手に入れたのはお前と同じように道端だよ。どこまでって言われても、何か呪文唱えたら現実が変わって1回使った呪文は使えなくなるってことくらいか。」
豊島はなるほどと顎に手をあて足を組み、どこから説明するか考えている。
しかし、魔法で作り出された完璧なルックスにグラマーな体でのそのポーズはあまりにも扇情的だった。
(ふっ。晩飯はこれからだというのに、早くもオカズの方から来るとはな・・・。)
「とりあえず、アタシの方から最初に説明出来ることは3つね。」
すると豊島は魔導書についての基本を教えてくれた。
1つ、魔導書は所有者の強い願望を叶えてくれる。
2つ、魔導書の力を引き出すには魔力を集める必要がある。
3つ、魔導書の所有者には別の魔導書の効果が直接及ばない。
「1つ目は分かるが、2つ目の魔力ってのは何だ?どうやって集めるんだ?」
「それはアタシも勘でしかないけど、寄ってきた男を酷いフリ方すると貯まるっぽいのよね。ただこれはアタシの本にちなんだやり方だと思うから、アンタにはアンタの貯め方があると思う。」
なるほど、この前の1週間はそれであちこち外に出歩いてたのか。職場でもまるで相手にされなかったとか言ってる奴いたしな。
改めて俺も今まで呪文を使えた状況を思い出す。本の近くで被害者と呼べる人間が居る時に、半ば俺がヤケクソになりかけたときに呪文が解放されたはずだ。
豊島の話からすると所有者とその直接の被害者が発生するときの負の感情を吸っているということか?
(豊島の場合最初の1回は既に自身がイジメによる被害を受けていて、本人の負の感情量が高かったから使えたということか・・・。)
つまり呪文を使うには「自身が直接関係することで被害者を作らなければいけない」ということだ。こうなってくるとまるで生贄のようなシステムだ。
「ただ3つめなんだけどよ、」
「そこなのよね。実はアタシ前に同じように魔導書持ってる奴に襲われたんだけど、そいつが呪文唱えても私に効かなかったしアタシの呪文も効かなかったんだよね。」
「そいつはどうしたんだ?」
「こういう見た目だとタチ悪いのに狙われることも多いから、護身術習ってるんだけどそれで返り討ちにした。んで、そいつが負けを認めて土下座し始めたらその本勝手に燃えちゃったのよね。」
・・・つまり本の所有者同士は何らかの方法で相手に自分への敗北を認めさせれば、相手の本を消滅させられるのか。
ただそうだとしても疑問が残る。
「そんじゃあ、あの時の黒い煙と白い光は何だったんだ?」
「そこがわかんないんだよね。あんなの見たことないし、そもそもアンタも呪文使わないで他人を操ったわけだし。むしろこっちが聞きたいんだけど?」
俺はあの時の謎の声による契約のことを話した。
「マジ?それ、なんかヤバいんじゃないの?アタシがここに来たのだって、持ってた本にアンタの勤め先住所が急に浮かび上がったからだよ?」
「俺の働いている場所?なんでまた。」
「そんなの分かるわけないからインターン使ってここに来たんでしょ。でも、何となくだけどあの本は何らかの意思を持っているような気がする。」
それに関しては同意だ。今までの話を整理してもこないだの課長と清宮さんの件だけは不自然だ。
あの時あの本は勝手に動いていた・・・まるで俺をあの場面におびき寄せるように。
「・・・おまっとさん。そっちの兄さんがとんかつ定食でそっちの姉さんが刺身定食ね。」
いつの間にかジジイ店主が頼んだ料理を持ってきていた。仕事終わりに頭を使ったから腹が空きすぎている。今日はもうさっさと食って帰ることにしよう。
「・・・マズっ。てか、臭い。田舎なのになんで魚介がクソマズいの・・・」
―ガラの悪い男がブチ切れるのも納得のマズい飯を食った後、俺たちはそれぞれ帰路についた。
拝読いただき厚く御礼申し上げます。
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