第15話 逢魔
―待ちに待った連休前夜。
ついに明日から豊島が清宮邸へのお泊りを開始する。それはつまり、清宮さんと寝食を共にし風呂も共有するということ。
(今回の件の調査の為にも、普段の清宮さんの様子を事細かく聴取しなければ。)
俺は連休までの間に例の復讐代行について調べてみたが、ネットの噂程度以上の情報は無かった。
まぁ周りに聞いたところで公務員がこの狭い世間でそんな怪しいものを利用するわけもないし、好奇心旺盛な子供くらいしかそんな話題に反応しないだろう。
「そういうワケで、明日からしっかり働けよ?」
『何がそういうワケなの?アンタはほとんどなんもしてないでしょうが。』
「とにかくだ。今回のキーパーソンたる清宮さんの様子をしっかり探ってこい。
下着とまでは言わん、何か身に着けているものの一つか二つはサンプルに欲しいところだ。」
―ブツッ!
・・・切りやがった。
ったく、これからが正念場だというのにこいつには自覚というものが無いのか。これだから社会経験の乏しいガキは困る。
とりあえず豊島と清宮さんが洗いっこしているところを想像しながら、俺も身を清めることにした。
(今日はやけに泡立ちが良いな。)
――連休初日。
豊島は初日ということもあり、清宮さんと出かける予定にしていたらしい。
なので何とか理由を作らせ同行しようとしたが、何かあれば電話すると言われ断られた。
――数時間後。
待てども待てども着信が無い。そろそろ昼時なのだから俺を呼んだっていい時間だろう。
苛立ちを隠せなくなったころに俺のスマホが光り、音が鳴るよりも早く応答する。
「はい、こちら久澄。昼はイタリアンとフレンチどっちにする?」
「何言ってるんですか久澄さんっ!仁美が例の復讐代行のところに行くって言いだして連絡が付かないんですよ!!」
なんだ、吉永か。というか俺と豊島が調査してからって話だったのに何してくれてんだ。
「どこで会う約束してるとか分かってるのか?」
「いやそれが、まったく見当もつかなくて・・・。」
(ちっ。それじゃ俺に電話したってどうしようもないだろ。いや待てよ・・・確か豊島が俺の居場所を本で突き止めたと言ってたな。)
ふと魔導書を手に取り開いてみるが、呪文以外それらしいものは見当たらない。
試しに阿久津さんのことを思い浮かべながら、居場所はどこかと念じてみる。
(やっぱ何も起きないか・・・。)
《ふむ、あの娘を追うのか、ならば力を貸しても良いぞ。》
脳内に謎の声が響く。いや、この声には聞き覚えがある。あの時の契約を持ちかけてきた声、豊島の言い方を借りれば【悪魔】だ。
「吉永、悪い。こっちでどうにかするから一旦切るぞ。」
吉永は電話越しにまだ何か言っていたが、それどころではない。なんせ悪魔と会話できる機会がこうも早く巡ってきたんだからな。
「悪魔さんよ。阿久津さんの場所を教えてくれるのか?それって魔法を使うことになるのか?」
しばらくの沈黙が流れた後、脳内に再び声が流れる。
《我が自ら直接契約主に力を貸す以上は本など不要だ。ただし、力を貸す以上は何か捧げてもらわねば割に合わん。》
やっぱりその辺は悪魔なのか。悪魔に捧げるものなんて何を用意すればいいんだ?
《捧げものはおまえの問題が解決した時で良い。悪いようにはせんから安心しろ。》
声がだんだんと消えていくとともに俺の視界が真っ暗になっていく。
気が付くと俺は外にいて、目の前には怪しげな路地裏が続いている。
「アッハハハハっ!!すごいわコレ!!これさえあれば私はなんでもできる!!」
奥の方から聞き覚えのある甲高い声が響いてきており、恐る恐る見に行くとそこには阿久津さんがいた。
それ以上に目を離せなかったのは、その手には白いページが輝く魔導書を手にしていた。
「・・・阿久津さん?」
「あら久澄さん、ごきげんよう。色々相談に乗ってもらって悪いけどもう結構よ。自分でどうにかする方法を見つけたから。」
・・・言葉からして恐らく魔導書の力を知ってしまったのだろう。しかしそうなると元の持ち主はどうしたのだろうか。
「吉永から復讐代行屋のところに向かうって聞いてたけど・・・。」
「多分この人のことかしらね。」
奥の方からうつろな目をしたやつれた男が出てきた。
「この本を見せつけてきて依頼をしたら何でもやるっていうから、今までの恨み言を吐き捨てたら気づいた時にはこのザマよ。」
「・・・・・・・・・・・・」
男は何も返事もせず虚空を見つめるだけだ。経緯は分からないが、きっと魔導書によって操られることになったのだろう。
「それとあなたにも協力してもらうわ。公務員に復讐のこと知られたままなのは面倒だし。」
〈潔白なるものに忠誠を――〉
阿久津は呪文を俺に向かって唱えるが、何も効果など起こらなかった。
「なんでよっ!?この本さえ使えればどうとでもなるはずなのにっ!!」
「・・・ああ、その本はな同じ本の所有者には効かねぇんだよ。残念だったな、クソガキ。」
魔導書を手にされてしまっては放っておくことも、良き理解者のフリをする理由もない。
各面々には悪いが、こいつはここで終わりにしなければ俺にとっての害悪でしかない。
すると悪魔の声が急に脳内に響いてきた。
―《やはりにらんだ通り、目的が一致したな。では遠慮なくあの娘は貰うぞ。》
拝読いただき厚く御礼申し上げます。




