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第14話 純粋悪

―しばらく阿久津さんの愚痴に付き合うことにしたものの、まぁ出るわ出るわで笑いが堪えられなくなりそうになる。

 そのほとんどが吉永一家が標的なもんだから、目の前にいる当事者は完全に針の筵《むしろ》だ。


(いつもいつも人を喰ったような態度取るからこうなるんだよ。少しは反省しろや。)


 清宮さんに関する嫌疑が無くなったとはいえ、俺が吉《こい》永《つ》を好きか嫌いかで言えば嫌いなままなのは変わらないので今の状況は最高に気分が良い。


「だから結局は、清宮家からは断れない以上、アナタからあのお父さんを説得するしかないじゃない!」


「いや、うーん、それは・・・そうなんだけど。久澄さん、父を説得するいい方法って何かあります?」


 おいおい馬鹿かコイツは。有力議員を木っ端の役所職員が説得する方法知ってるなら、この件の相談とか関係なくとっくにどうにかしてるわ。


「いやそれは・・・むしろお前は親父さんの弱点とか知らないのか?よそに愛人が居るとか・・・」


「父さんに限ってそんなことありません!!そういうこと言うのはやめてください!!」


・・・コイツ今の状況ホントに分かってるのか?牙を向けるべきはその親父だって流れだろうが。

 それ見ろ、阿久津さんが完全に「ダメだ、コイツ」みたいな目つきに変わったじゃねぇか。


(ったく、息子は息子で父離れできてないわけね。こりゃ阿久津さんも苦労するわ。)


「はぁ、やっぱり話すだけムダね。久澄さん、わざわざ休みの日にすいませんでした。

 でも私、他に相談する相手決めてるのでそちらにお願いしようと思います。」


「相談する相手?まさか聖華さんは無いだろうし、他に男でも出来たのか!?」


 吉永は完全に取り乱している。一度カフェオレを飲ませて落ち着かせると、彼女から気になる発言が飛び出した。


「知らないの?最近この辺で、復讐代行みたいなことしてる人がこの町に居るのよ。

 なんでも成功率100%で、復讐のターゲットになった人には行方不明になった人もいるんだって。」


 そんなおっかない奴がこんな辺境に居るのか。まぁ行方不明者なんて、この辺じゃボケた老人が徘徊してそのままとか日常茶飯事だしそこまで珍しいことでもないか。


「そんな危ない奴に相談するなんてダメだよ。」


「じゃあ、アナタはあの偽善者のお父さんと縁を切れるの?私が復習したいのはこのことだけじゃないのよ?

 それに行方不明にするにしても、家族は誰もそのことを覚えていない完全犯罪みたいなことが可能なんだって。」


・・・なんだって?それってつまり周囲の人間の認知を捻じ曲げることができるって話だよな?

 ということは、もしかしてそいつは魔導書持ちなんじゃないのか?


(当初の予定の流れとは違うが豊島を混ぜて話した方が良さそうだな。)


 俺は一度席を立ち豊島に電話を掛け、今の一連の流れと状況を説明した。


『ああ!そうそう、それそれ!復讐代行!!アタシがネットで見かけたのそれだよ。

 なんか色々キナ臭いけど、被害者が確かに出てて警察も捜査したらしいんだけどすぐに打ち切られて風化したんだって。』


 豊島から聞く限りでもほぼクロだな。それにしてもやり口が上手いな。相談に乗れば必ず負の感情と直面するし、その魔力で依頼を解決すれば金にも評判にもなる。


(俺もクソみたいな公務員を辞めて、今流行りの代行業に手を出すか?・・いや、それだと清宮さんとの接点無くなるからダメだな。)


 ただこのまま阿久津さんをそいつと接触させれれば、折角の濃い負のエネルギーがそいつに奪われてしまう。

 近くにいる者同士、いつかは互いの存在に気づくだろう。場合によっては豊島の時みたいな例もある。


「こちらが先にそいつの情報を掴めたのは運が良かった。阿久津さんを向かわせるわけにもいかないから、評判調査ってことでお前が先に行ってくれ。」


「それはこっちにも目的あるから良いけど、無防備はまずいからアンタも近くで見えるとこには付いてきなさいよ?」


 そうなるのは仕方ないか。俺自身も相手がどんな奴か分からないと、対処しようがないしな。

 とりあえず通話したまま席に戻ると、より濃密になったドロドロとしたオーラが哀れなカップルを包んでいた。


「悪い悪い、今知り合いに連絡したらその代行に興味あるってさ。」


『あーもしもし。豊島って言います。吉永さんは久しぶり。流石に女一人でそんな奴と初見で会うのはアブないからさ。久澄・・さんと一緒にちょっと調べてくるよ。』


「久澄さん、豊島さん・・・ありがとうございます。」


 この短時間で散々責められまくって涙目になっている吉永がお礼を言ってきた。

 阿久津さんは少し不満げではあったが、見ず知らずの相手に相談することに少し遠慮があったのか大人しくカフェオレを飲み干すだけだった。


 ふと俺は席の下に置いてある鞄を見てみると、魔導書が光を帯びている。

 そして白紙化されたページには間違いなく呪文が記されてあった。


(よし、これで準備は整った。極力すぐには使いたくは無いが、代行屋の出方次第か。)


 豊島と阿久津さんに連絡先を交換させ、俺たちは一度解散することにした。

 吉永はさっさと歩いていく阿久津さんを追いかける形で帰っていった。


 あとは次の連休に向けて下調べを進めるとしよう。


拝読いただき厚く御礼申し上げます。

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