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第13話 令嬢

―休日前夜。


「つーわけで、明日会ってくるわ。俺だとあれこれ聞くの不審がられるから、お前を紹介する形でいいか?」


『別にいいけど、イケメン君もアンタみたいなのに頼るなんて相当切羽詰まってんのね。

 てかさ、結構重要なとこ協力してるんだから、アタシの頼みも聞いてよ。』


 おいおい、コイツは俺に完膚なきまでに叩きのめされたことをもう忘れたのか。


「お願いの仕方にもよるな。」


『・・・キモっ。調べてたら魔導書持ってそうな奴が絡んでそうな事件見つけたんだよね。しかもアンタの住んでる近くで。』


 案の定の厄介ごと、しかも魔導書持ちかよ。というか俺の住んでる近くって、もしかして狙われる可能性があるってことか?


『そんなわけだから、今度大学が休講が重なる連休にそっち行くから。』


 なにぃ!?今度の連休に女子大生が泊まりに来るだと!?おいおい、魔法を使う前からとんでもない好《チャ》機《ンス》到来じゃないか。

 早いとこ魔力を貯めて、来るべき夜《けっ》這《せん》に備えねばならんな。


 しかし豊島は電話越しに呆れたようなため息交じりに言葉を続けた。


『・・・急に黙りこくってるけど、清宮さん家に泊まる約束してるから。今のアンタにとってもそっちのが好都合でしょ。』


 確かに。魔力を貯めるのはいいが、その後の対処に関しては出来れば魔法を使いたくはない。そうなると女性側に立つ協力者が居た方が万全か。


 ましてや吉永の彼女がどういった人物なのかまでは現時点で読めない。

 たくさんの魔力が取れるだろうことは今の時点で憶測に過ぎない以上、万が一の時は婚約をゴール寸前まで進めて吉永から負のエネルギーを取らざるを得なくなるだろう。


「まぁなんにせよ、まずは吉永の彼女のことをやっつけてからだな。」



―翌日。



「ふわぁ~あ、っと。」


 いつもなら抜けきらないアルコールの酔いに任せて二度寝をかましているような時間に起き、出かかる準備を始める。

 待ち合わせの場所は役場がある中心部から少し

外れ、周りを自然に囲まれた人《ひと》気《け》のない隠れ家的な古民家カフェだ。


 そういう言い方をすれば洒《しゃ》落《れ》たイメージも出来るだろうが、実際のところは空き家として放置されていたボロ小屋を、移住者に改築させて営業させているだけの地味な喫茶店だ。


 正直なところ使い勝手は良い方では無いが、吉永にせよその彼女にせよこの辺じゃある意味の有名人である以上は、あまり地域になじみが無い人間がやっている店の方が良いだろう。


◇◇◇


「少し早く来過ぎた気もするが、たまにはこういうところで朝を迎えるのも悪くはねぇか。」


 普段はコーヒーなんぞ飲まないが、雰囲気と気分で朝食セットを頼む。

 ついでに待ち合わせをしている二人が来たら、カフェラテを出してもらうように頼んでおく。


 それから少し時間を空けてから、吉永が現れた。


 様子からして、普段のナメ腐った態度からは想像できないほどにソワソワしている。もし顔がイケメンでなければ、間違いなく通報されているレベルの挙動不審ぶりだ。


「お~い、こっちだ、こっち。あぁあと飲み物はカフェオレ頼んどいた。」


「・・あっ、久澄さんおはようございます。すいません気を遣わせてしまって。」


 それから間髪入れずに、女性客が入ってくる。見た目は普通だったが、心なしか怒っているような雰囲気があり目つきが鋭く、こちらはこちらで通報されそうな雰囲気があった。


「・・・なぁ、もしかしてあちらが?」


「あっハイ、そうです。仁《ひと》美《み》、こっちこっち。」


 吉永が呼ぶとその女性客はこちらを向き、ズンズンと歩いてきてから吉永の向かいにドカッと座った。

 しかし改めて間近で見ると、吉永の彼女である元議員令嬢にしては随分と普通というか、むしろ地味すぎるほどの容姿だ。


(話で聞いていた限りだと性格に惚れたんだろうが、今の印象だとそれもどうなんだって感じだな。)


 とりあえず役者が揃ったことで、店主が得意げな顔でカフェオレを持ってくる。

 だがはっきり言って先ほど自分のコーヒーに口をつけてみたが、水っぽくてコーヒー通《つう》ではない俺でも良いものではないとわかるレベルの味だ。


「それで、話って何?あとその人だれ?」


 口火を切ったのは吉永の彼女からだった。


 折角の休みを重い話に付き合わされるからか、不機嫌この上ない。それで言えば一番くだらないと思ってるのは俺なんだけどな。


「ああ、例の話のことで。後この人は職場で色々世話になってる久澄さん。俺の父さんとも顔見知りで、今回のことも相談に乗ってもらってるんだ。」


「阿《あ》久《く》津《つ》 仁《ひと》美《み》と言います。・・そうですか。自分では何も決められないウジ虫の為にわざわざありがとうございます。」


・・・前言撤回。随分と性格のいい子じゃないか。こういう出会い方でなければある意味仲良くなっていたかもしれない。

 とりあえず吉永は完全にビビり散らかしているので、俺の方で引き受けることにした。


「ええと、ある程度はいろんな人から状況を聞いて知ってるけど、阿久津さんは吉永のことは恋人同士の関係で続けていきたいってことで良いのかな?」


「・・そりゃそうですよ。誰の目にはばかることなく付き合ってたんだから。

 そもそもそのウジ虫から告ってきたくせに親の顔が出てきた瞬間黙って聖華と婚約って、結局は親が親なら子も子ってところですよね。」


 素晴らしい。この一瞬のやり取りだけで、彼女からドロドロとした凄まじい負のエネルギーが湧き出ているのが直視できる。

 

(よし!想像以上だ。鞄に忍ばせた魔導書にエネルギーが流れて行っているぞ。)


 本来であればもっとどうにかして魔力を貯めたいところだが、彼女の不幸が俺の不幸に直結している以上は落としどころを探さないといけない。


 そしてできるだけ、清宮さん一家を俺が助け出す形でのゴールがベストだ。

拝読いただき厚く御礼申し上げます。

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