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第12話 MEN

―翌日俺は何気なく吉永に話しかけてみることにした。


「おはよう。昨日は早く上がったけど大丈夫か?何か大変そうならこっちで受け持っておくぞ。」


「・・ああ、久澄さんおはようございます。いえ、特には大丈夫です。」


 いつもなら憎まれ口の一つでも聞いてきそうなもんだが、明らかに元気が無い。

 それと同時に、昨日の昼に見た時よりも負のオーラが濃くなっている。


(昨日の今日でこれは、豊島の話はホントのようだな。)


「そういや前は昼奢るって言って、まともに昼取れなかったから今日はどっか連れてってやるよ。」


 吉永は、遠慮がちに断ろうとしてきたが俺としてはここで引くわけにもいかないので半ば強引に約束を取り付けた。



―昼休みのチャイムが鳴る。



 おそらく込み入った話になると思い、例のクソまずい定食屋に来た。


「ラーメン二つで。お前もそれで良いよな?」


 この定食屋でご飯ものがアウトなのは豊島と来た時に分かっている。一応口コミを見るとラーメンはマシと書かれていたのでできるだけハズレは選ばないようにした。


 ジジイ店主はいつもなら何も言わないのだが、ラーメンと聞いてめんどくさそうに小声で悪態をついたのを俺は見逃さなかった。


(これもしかして、あの暴漢がしてたことって正義だったんじゃねぇか?)


「・・・あの、久澄さん。父たちの話を聞いて婚約のこと知ってると思うんですけど、俺には高校時代からの彼女が居るんです。」


 まぁ事前に聞いているから俺としては驚きはしない。ただ、何も反応が無いことを驚いたと捕らえたのか吉永は話を続けた。


「すいません急に。でも俺にとっては甚《はなは》だ不本意なことだし、彼女たちにもすごい迷惑をかけてる罪悪感が酷くて。」


 その後にため込んでいたものを話せる相手が居なかったのか吉永は延々と語り続けた。

 細かいところは話半分でしか聞かなかったが、吉永は吉永で苦労してきたようだ。


 なんでも幼いころからルックスも家柄も良いもんだから、チヤホヤされるか妬まれるかのどちらかだったらしい。


 ただ後者に関しては、あのオヤジがイジメなんてあろうものなら教員ごと更迭するようなオヤジだったから、高校に上がる頃には腫れ物のような存在になったそうだ。


(こんな狭い田舎じゃ、一度形成されたコミュニティが全てだからな。)


「でもそんなときに出会ったのが今の彼女なんです。彼女だけは僕を腫れ物扱いせず正面からぶつかってきました。

 まぁその当時にしてみれば、彼女の生活は僕の父のせいで壊されているようなものなので、当然と言えば当然ですが。」


 ここも聞いた話と同じか。その彼女からしてみれば父親が議員辞職に追い込まれて、この狭い世間で体裁がだいぶ悪くなったのだろう。

 吉永で腫れ物扱いされているなら、その子はもっとひどい扱いを受けていてもおかしくはない。


「まぁ何にせよ、乗り気じゃないけど父親があのテンションだし因縁あるしで言い出せないって訳か。」


 吉永は言葉を選ぼうとはしていたが、黙ってうなずくだけだった。

 気づけばまたジジイ店主が気配もなく目の前に立っており、ラーメンを置いて厨房の方へ消えてった。


「とりあえず食うか。」


 吉永の分も割りばしを取って渡し、麺をすする。

しかしそのラーメンは、醤油味というにはあまりにも醤油過ぎた。

 いや醤油ラーメンを頼んだのだから醤油味でいいんだが、魚介だとか鶏ガラだとかそういった出汁の風味が一切しない。


(確かにマシだが、食えないほどでもないってレベルじゃねーか。業務用でももうちょっとまともなスープしてんだろ。)


「意外でした。」


 何がだ。このふやけた麺からは想像できない、なぜか嚙み切れないグニュグニュとした食感のことか。


「久澄さんがここまで親身になって聞いてくれるなんて。ちょっとすっきりしました。ありがとうございます。」


 勘違いするな。俺は俺の目的を果たすのみだ。

今回はたまたまお前と利害が一致しただけで、変な暴走の仕方をされても困るってだけのことだ。

 

 あとの問題はどうやってその彼女に会うかだ。まずはこいつと行動を共にしないことにはそこまでいけないが、今ならさらっと言えばどうにかなるか?


「そういや、その彼女はこの件どう考えてるんだ?そこも大事だろ。」


「実は・・まだ話せてなくて、会っても何を話せばいいのか分からなくて会えてないんです。

 どうしたらいいですかね?」


 知らねーよ。


って普段なら即ツッコミを入れるが今回ばかりはうまく取り入らないとな。


「良かったら俺の方から事情説明してやろうか?事情知ってるし、状況説明程度ならできるぞ。」


 正直無理があるか?いい年こいたおっさんが、若者の恋愛に口挟むって相当キモいぞ。


「ホントですかっ!?じゃ、早速なんですけど今度の休みにでも予定空けてくれません?」


 思いのほか簡単にノってきたな・・・。


 こういう話はたやすく他人巻き込むもんでもないだろうに、仕事はできるけどこの手の対応とかは世間知らずなんだよなコイツ。


 何にせよ接点を作ることはできた、あとは魔力の回収に専念するだけだ。

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