第16話 戦果
―悪魔が脳内で俺に語り掛けると、俺の全身が豊島と対峙した時のような状態になる。
《我は盟約により、直接人間に手出しは出来ん。まずはあの娘を無力化せよ。》
(悪魔なのに人任せかよ・・・。)
いやでも清宮さんを課長に襲わせてたのも悪魔の仕業だとすると、その盟約とかいう縛りがあったからなのか?
「よし、まずはその本をこちらに渡してもらおうか。」
阿久津は必死に本を抱きかかえて亀のように縮こまったが、まるで急な下痢にでも苛まれているかの体制でこちらに少しづつ近寄ってきた。
「ちょっと!?なんでよ!?本の所有者には効果が無いんじゃないの!?」
「フハハハハ!!残念だったなぁ!!俺様は悪魔と契約しているのだよ!!雑魚とは違うのだよ。雑魚とは!!」
調子に乗ってみたものの、本を奪った後はどうすりゃいいんだ?
お約束の展開なら服の1枚や2枚引ん剝くところだが、正直コイツにはそこまでの興奮を覚えるほどの魅力が無い。今だけはコイツにゾッコンになれる吉永はすごいと思った。
《奴が悪魔と契約する前に、その本の呪文を使え。》
「おいおい折角使えるようになった呪文をこんなことに使いたくないんだが!?」
《心配するな。使えばわかる。》
まぁ悪魔なんて得体のしれないもんに逆らっても仕方がない。ここは言われたとおりにするしかないだろう。
俺はおもむろに本を取り出すと、やはりあの時のようにドロドロとした黒いオーラが漏れ出ている。
違うことがあるとすれば呪文の文字がウネウネと気色悪くページ内を蠢いているくらいだ。
【我、飢餓ゆえにこの世の不浄をも飲み干さん。】
呪文を唱え終わると、本の黒いオーラが阿久津にまとわりつき次第に周囲一帯を覆う暗闇となる。
「ちょっ!?ナニこれ!?冗談じゃない!!あいつらに復讐するまで私は終われない。
ふざけんなっ!!離せっ!!こんの、ド畜生があぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
醜いメスが醜い断末魔を上げる。俺は目の前の異常な光景に唖然とするどころか、不思議とニヤケが止まらなかった。
暫くして暗闇が落ち着くと、目の前には阿久津が持っていた本がパタパタとオレンジ色の火花を散らして燃えカスになろうとしていた。
《ふむ、やはりあの娘の怒りと絶望は美味であったな。久しぶりの馳走であった。礼を言うぞ。》
「・・・つまりあの女を喰ったのか?」
《我を肉を食うことしか能の無い低級と一緒にするな。本を介して奴の心の源泉をいただいたまで。
当人は今頃ベッドから起きて悪い夢でも見た程度にしか思ってないだろう。》
それの何が問題が無いのかが人間の俺には分からないが、まぁ死んでないならそこまで心を痛める必要もないからいいか。
それよりも、使った呪文は今まで通り赤く塗りつぶされていたが、新たな白紙のページに黄金に輝く呪文が記述されている。
「なぁこれって・・・」
《久方ぶりに飢えが凌げたから餞別だ。一度だけ無条件で好きな願いが叶う。ただし、お前の意中の女には使えんがな。》
いやなんで一番肝心なところは叶わねぇんだよ!?それが一番の望みなのに!!!!
《お前が意中の女と添い遂げたら、そこで満足して終わるだろう?
お前のような空虚な人間ほど欲深いものは無いからな。せめてその本を使いきる程度には務めを果たせ。》
ぅぐっ。悪魔め、俺の心まで食い尽くそうというのか。だがまぁ今のところ厄介なことは一つ片付いたしよしとするか。
《また旨そうな悪感情を見つけたら呼ぶ。それまでは好きに過ごせ。くれぐれも他の悪魔には出し抜かれるなよ。》
「あっ、おいっ!!まだ聞きたいことが・・・」
悪魔は言うだけ言って以降は何も反応が無かった。しかしあの言い方からするに、他にも悪魔が絡んでいる本が存在するようだ。
◇◇◇
「んで?結局本は手に入らなかったワケ?ここまで来た意味ないじゃん。どうしてくれんの?ったく。」
あの後豊島に簡単に経緯を話したら、清宮さんとの用事を済ませた後で俺の部屋で詳しく話をすることになった。
「しょうがないだろ。俺の中の悪魔さんが急に力を行使し始めたんだから。」
我ながらなんとキモイ中二病みたいなことをと思ったが、事実なのだからそう言うしかない。
「にしてもまた振り出しかぁ。ホントに他にも本があんの?」
「ハッキリとは言わなかったけどな。他の悪魔に気をつけろとだけ伝えていなくなったし。」
豊島が伸びをすると、色々な部分が色々な角度から視界に入り思わず呪文で色々試してみたくなってしまう。
「そういや願い事って何にすんの?アタシも手伝ったんだから分かりやすく大金ゲットして山分けしよっ!!」
んー、まぁ清宮さんに使えないとなると結局そういうのが一番無難なところか。
豊島との関係も維持したいしな。・・・決して他意はないが。
「しかし願い事かぁ。あの悪魔の言う通り言われても思言うかぶものも無いな。有名なところだとギャルのパンティおくれってか?」
すると机の上で開いていた魔導書の黄金の文字が急に光出し、豊島を照らす。
「は?え?ちょっ何!?体が勝手に・・・ちょっ、何してんの!?マジで!!」
いつも俺を見下しているような豊島の表情が瞬く間に赤くなり、焦燥を隠せなくなっている。
いや、そんなことはどうでもいい。大事なのは今俺の前で、デリケートゾーンの守護神とも言うべきものを脱ぎ始めたということだ。
「何こんなくだらないことに願い使ってんの!?マジであり得ないんだけど!!!」
嫌悪感を微塵にも隠す様子もなく凄んでくるが、そう言っている間にも魅惑の布切れは豊島の手に収まり、ついに俺へと献上される。
「くっ、取り返したいのに何でそれには触れないの!?」
どうやら願いの力で、豊島は俺の手のひらにある至高の逸品にもう触れることは出来ないようだ。
「かわいそうだが、しょうがないだろう。悪魔さんの力はいつだって気まぐれだ。」
「・・・もうこの本はアタシが貰うっ!!!」
―バチンっ!!
豊島が伸ばしかけた手を、本自らが静電気か何かのようなもので弾いた。
「もう、何なの!?だったらせめて次は絶対アタシの望み叶なさいよね!?」
豊島はただでさえ短いスカートの裾を一生懸命に引っ張って、イソイソと部屋を出ていった。
(ふっ、今回も辛く険しい戦いだったがまたしても勝ってしまった。)
俺は自らの手に収まっている温もりが残る戦利品を天に掲げ、壁の薄さなど関係なしに高らかに咆哮を上げる。
「ぃよっしゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
拝読いただき厚く御礼申し上げます。




