第10話 父親
―その後俺は席に戻り、魔力を貯める方法について探りを入れるため豊島にチャットを送る。
【豊島、そっちで成果はあったか?オカルト研究会に友達がいるんだろ?】
【一応聞いてみたけど、なんかキモイ儀式の話ばっかでよくわかんなかった。ただ部分的には当てはまるんかもって話もあったよ。】
豊島が聞いたという話を俺はチャットでそのまま送ってもらった。なんだか血を捧げるとかなんとか言葉通りよく分からない話が続いていたが、今の状況に当てはまりそうな部分だけかいつまんで読み進めた。
要約すると、「魔導書自体は現世と魔界を繋ぎ、悪魔と交信するためのツール」なんだそうだ。
【んでもって、アタシらの世界じゃ魔力なんてもんは無いから発動の代わりになるエネルギーを見つけてこないと魔法を顕現出来ないんだってさ。】
なるほどな。となると問題は、そのエネルギーの量と質がどの程度のものを用意すればいいのかってことだ。
【ただそれ以外の方法もあるらしくて、その方法ってのが悪魔と直接契約することなんだって。その場合だと悪魔が人間の体を介して直接魔法使えるんだってさ。】
【じゃああの時の俺は悪魔に体を使われてたのか。でもそれなら使おうと思えばいつでも使えるんじゃないのか?】
【んー契約の内容は悪魔によって違うらしいし、契約したところで悪魔も悪魔で気まぐれでいつ力を貸すか分からないらしいよ?】
ということは悪魔を直接手なずけるようなことができない限りは、通常通りの方法で魔法を使える方法を確立しないとダメか。
一旦今は悪魔どころじゃない、悪魔の存在というのがどういうものかは置いておくとしてどこから手を付けたものか。
「あの・・。久澄主任。こちら回覧置いておきますね。」
うぉっ!?清宮さんか・・・。いつもなら気配ですぐわかるのに気づかなかった。見るからにいつものハキハキした感じが無いところを見ると相当悩んでいるようだ。
(ちくしょう・・・。俺が悪魔なら君の髪の毛一本くれるだけであの吉永一家を一瞬で蒸発させるのに。)
そんなことを悶々と考えていると、少し複雑そうな表情を浮かべた吉永も合流してくる。
「久澄さん。この後の昼休みって時間あります?父が一緒に昼でもどうかと誘ってきてまして・・。課長も時間を気にせず行ってきていいとのことで。」
あのクソ上司め。俺に相手を押し付ける気か。
それにしてもついさっきの今で対応早すぎんだろ。こういうタイミングを選ばないところも嫌いなんだよな。
「ああ、まぁそういうことなら。」
(それでもメシで業務時間潰せるならまぁいいか。)
―その後の昼休み。
俺は吉永に連れられ庁舎を出ると、入り口の近くでこの辺じゃ見かけないような高そうな車が停まっているのが見えた。助手席には吉永父が乗っており、運転はどうやらお付きの人がしているようだ。
「おお、久澄さん。さっきぶりのところを急ですまないが、早速食事に出かけるとしよう。
私としては、約束の先延ばしをすることはあまり好きではないのでね。」
こういうところが地元馴染みの人間には好かれるんだろうが、そのテンポに付き合わされる人間のことも少しは考えてほしいもんだ。
おかげさまで付いていけなきゃ無能扱いされるのはいつだって下働きの人間だ。
◇◇◇
車に乗り込み10分ほど走ったところで、地元では長く続いている老舗のすし屋に到着した。
中に入るとそこには、作業着を着た見慣れない恰幅の中年の男が一人だけカウンターに座っている。
「・・おお!吉永さん!!それに来人君も!!・・おや?そちらは?」
「ああ紹介するよ。息子が世話になっている役場職員の久澄さんだ。久澄さん、こちらは清宮社長だ。」
なんだと!?この御仁がいつかは俺が神と呼ぶことになるお方か。
「そうでしたか。それであればこちらも娘がいつも大変お世話になっております。」
「いえいえとんでもございません。彼女のおかげで役場が回っているようなものです。」
(そう遠くないうちに孫のお世話もすることになるから任せておいてください。)
挨拶もほどほどに4人でカウンターに腰掛けると、大将は何も言わずとも握りの用意を始めた。
もうこのくらいの階級の人たちだと注文をするということすら無粋なのだろうか。
そんな中で話を切り出したのはお義父さんからだった。
「来人君や久澄さんが居るところで申し訳ないんだが・・
縁談の話で最近娘が塞ぎこんでいるようでして、一人娘の親としてはこのままで良いのだろうかと思ってまして。」
さすがはお義父さんだ。もはや清宮さんのことを欲望のはけ口としてしか見ていないこのナメクジどもとは器量が違う。
「それは違う。清宮社長、子供のことを思えばこそ両家の結びつきは娘さんの将来の為にもなる。
そもそもあれだけのお嬢さんに、うちの息子以外で釣り合うような男がいるとでも?」
・・・このクソ親父、隣に俺が座ってんのが目に入らねえのか。ふと吉永の方を見てみると、申し訳なさそうでありながらもどこか怒りのような表情をして俯いている。
様子を見るにこのクソ親父は家でもこんな感じなのだろう。・・・いや外でこれなのだから家ではもっとひどいに1票といったところか。
しかし予想外の収穫があった。吉永の背中から変な薄紫色のモヤが出ているのである。
いつもであれば見間違いで済ませるのだろうが、今の俺は魔導書に絡んでいるであろうことをすぐに察知した。
―ただ俺にとっても見過ごせない最大の謎がある。
もし吉永のアレが負の感情エネルギーであるとすれば、俺以上にこの婚約で被害を被る人間であるということだ。
拝読いただき厚く御礼申し上げます。
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