↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すれちがう音  作者: ゆずさくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/32

音の姿

 鈴木は五月雨の肩を揺する。

「藤堂が出て行った!」

 聞こえているのかいないのか。

 五月雨は目を閉じたまま、手を口の前に立てたまま結界の呪文を唱え続けている。

「ねぇ、聞いてよ!」

 さらに激しく揺さぶっても反応しない。

「怒った!」

 鈴木は背の低い五月雨を抱き寄せると、五月雨の手首を掴んで押さえつけた。

 そのまま鈴木が五月雨に顔を近づけ、口付けした。

「!」

 目を閉じた鈴木に、キスされた五月雨は目を開けた。

 五月雨は力なく鈴木を押し返した。

 鈴木は手の甲で口元を拭いながら言う。

「聞こえた? 藤堂が……」

 五月雨は頷く。

「彼女が鬼を呼んだんだわ」

「どうして……」

 鈴木は、藤堂が去っていった方向を振り返る。

「彼女に鬼を呼ぶ力がある、ということが驚きだわ」

「藤堂に?」

「まさか、旭陵ホールディングスの創業家が藤堂……」

 鈴木は首を傾げる。

「藤堂じゃない…… はず」

 ガタッと音がする。

 二人が音の方を振り向くと、再びガタッと音がした。

 椅子に座ったまま白目を剥いている村上が膝でテーブルを蹴り上げている。

 鈴木は腰に手を当てて言う。

「村上、何を言いたいの?」

「!?」

 五月雨は何かに気づいて、テーブルの下を探す。

「これだ!」

 五月雨がテーブルから出てくると、小さな紙切れを手にしていた。

「何それ?」

「藤堂さんの名刺を『破った』ものよ」

 鈴木には五月雨の言っている意味が分からない。

 五月雨はポケットからライターを取り出すと、名刺を焼いた。

「えっ?」

「名刺の裏に見覚えのある紋様が描かれていたわ。紋様を彼女の手で破ることで発動した」

 五月雨は、過去に学んだ呪術のことを思い出していた。

 記憶が正しければ、これが燃え尽きれば……

「あっ!」

 鈴木が何かに気づいた。

 周りを囲んでいた『鬼に操られた者』が一人、また一人、としゃがみ込んでいく。

「あれ、鬼に操られた人が倒れていく」

「ポロシャツ男の時もそうだったけど、操られた人には相当な肉体的負荷がかかっているから……」

「呪いが解けたってこと?」

 五月雨は頷いた。

「これで彼女は鬼を使う、と言うことを我々に知らせてしまった」

「ずっとセクハラがあったのも彼女のせい?」

「分からない。もしそうだとしても、証拠はない」

 五月雨の言葉に、首を傾げる鈴木。

「彼女にもう一度名刺を破って貰えばいいじゃない」

「名刺を破ると何故鬼が近づいてくるの? 科学的な説明じゃない。呪いは誰でも使えない。そこで倒れている彼らが、何故異常行動を起こしたかも説明できない」

「だから手の内を見せた?」

 五月雨は両手を上げた。

「分からない。自らの力を誇示したいのかも」

「ねぇ、あなた達」

 五月雨と鈴木はその声に振り返った。

「これ映画か何かの撮影なの? あなた達のせいで店はめちゃくちゃよ」

「見てましたよね? 私達が何かしたわけじゃないんです」

「じゃあ、これは誰のせいだ」

 二人は首を横に振る。

「こっちだって被害者なんです」

「じゃあ、こいつはなんだ」

 ファミレスの客は、白目を剥いたままの村上を指す。

「!」

 五月雨は慌てて彼の額に貼り付けた紙垂を取り去った。

 すると円を描いて飛んでいた紙垂が、力を失って落ちてくる。

 村上は目を閉じて、椅子に倒れ込む。

「村上!」

 五月雨は彼を介抱する。

 残された鈴木は、答えに詰まる。

「こ、これは別に……」

 パトカー、救急車が続々到着し、警察や消防が店内に入ってくる。

 ファミレスの客も五月雨たちを問い詰めている時間がないのか、いつの間にかいなくなっていた。

 いつまでも目を覚さない村上は、救急搬送された。

 二人は、村上の搬入先である病院へ移動した。

 村上は一通りの検査をして緊急性はないとして病室に移された。

 だが目は覚めない。

「村上、どうしたんだろう」

 鈴木の言葉に、五月雨は涙を流した。

「えっ、ちょっとなんで泣いてるの?」

 鈴木は怖くなった。

「村上、やばいの?」

 五月雨は目を伏せた。

「私が頼りすぎたせいだ……」

「だから、村上、やばいの?」

 椅子に座って俯いている。

 膝に置いた手の上に涙がボロボロ落ちる。

 鈴木は五月雨の肩を抱いた。

「大丈夫だよ。村上は」

 聞こえていても言葉は届いていない。

 視線を感じて、鈴木が廊下の方を向いた。

 そこにはセーターを来た長身の男が立っていた。

 鈴木は男が村上の知り合いかと思って、立ち上がり、廊下に進んでいく。

「村上さんのお知り合いですか?」

「村上? ああ、そうだ」

「どうぞ、入ってください。検査結果は問題ないみたいなんですが、まだ目が覚めなくて」

 鈴木は男の年齢が予想できなかった。

 喋り方は若いようだが、外見はとても歳をとっているように見える。

「村上…… 彼が?」

 男は驚いていた。

「あの、失礼ですが、あなたは村上さんとはどういったご関係ですか?」

 男は鈴木のその問いに何も返さなかった。

 男は急に時計を見ると廊下方向へ振り返る。

「用事を思い出した。私はこれで」

 そう言うと男は出て行ってしまった。

「……」

 鈴木が去っていた男から視線を戻すと、五月雨が村上のベッドに突っ伏して寝てしまっていた。

 鈴木は諦めて病室を出た。

 面会時間が終わる頃、再び病室に戻ると鈴木は五月雨を起こした。

「鈴木さん……」

「もう面会時間終わりだって」

「けど村上は」

 鈴木は五月雨の肩を叩いて首を横に振った。

「彼のことは病院に任せましょう」

 二人は病院を出た。

 最寄りの駅まで二人は歩きながら話しあった。

「そう言えば、五月雨さんは寝てたから知らないかもしれないけど、村上の知り合いっていう男の人がきて」

「何か気になることでも」

「若いんだか年寄りなのか分からない感じの人でさ」

 五月雨は興味なさそうだった。

「そういう病気なんじゃないの」

「そうね。連絡もしないのに村上の知り合いが来るなんて変だよね」

「もし彼に何かあったら誰に連絡するの。全然知らないんだけど大丈夫なのかな」

 五月雨は病院に引き返そうとした。

 鈴木は五月雨を引き留めて、言った。

「警察か救急が、彼の持ち物から連絡してるでしょ」

「そんなことしてくれるの?」

「私が明日、職場で確認するよ」

 二人はそう言って別れた。

 翌日、五月雨が出社すると鈴木が電話していた。

「そんな…… 連絡先ないんですか?」

 鈴木は絶望気味に電話を切った。

 五月雨は鈴木に近づく。

「今の村上のことでしょ?」

 鈴木が頷いた。

「彼、孤児なんだって」

「えっ!?」

 五月雨は驚いていた。

「じゃあ昨日来た知り合いって人は?」

 五月雨にそう言われて、鈴木は目を見開いた。

「そうだ。ど、どうしよう。連絡先を聞いておけば良かった」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。