後悔
三年前。
資料保全課で『セクハラ』を疑われた彼は、地方都市にある支社に転勤していた。
女性側は法的な訴えは起こしておらず、社外的には問題にはなっていない。
彼の転勤の理由について、支社の人間は知るよしもなかった。
仕事が終わると、彼は一人で家に向かった。
「……」
彼は、街灯の光が届かない闇を凝視していた。
「誰だ」
『よこせ』
一瞬、黒い闇が溢れた水のように広がったように見えた。
彼の前に、黒い人の形をした煙のように現れた。
『断るならもらっていく』
煙のような人は、腕を伸ばすと彼の体に手を突っ込んだ。
何かを弄りなら、抜きとると、それを口に入れた。
黒い影が、いつの間にか見えなくなると、彼は道端に座り込んでいることに気づいた。
通りかかる人は、軽蔑するような目で彼を見る。
『なぜあの時、真実を言わなかったのか』
彼は立ち上がる。
部屋に戻ると、着替えもしないまま倒れ込むように寝てしまった。
彼は会社を休みがちになった。
会社に来ても、気が抜けたような状態になってい事が多く、流石に周囲が注意し始めた。
彼は日中でも『闇』を怖がるようになっていた。
「ヒッ!」
周囲の者が心配すると、机の下を怖がっていることがわかった。
机の下の『闇』が怖くて椅子に座れない。
「今日はとりあえず帰ったほうがいい。あと、精神科の先生を探しておくから、一緒に行こう」
上席がそう言うと、彼は頷いた。
家に帰り、彼が家の扉を開いた。
薄暗い部屋から『闇』が現れた。
真っ黒な、煙のような人の形のもの。
『足りなくなった。よこせ』
怖がってはいたが、彼に逃げる力は残っていなかった。
煙のような手が体に突っ込まれると、あちこちを探された。
かき集めていたのかもしれない。
そうやって取り出した何かを、黒い煙は口に入れた。
『もう終わりのようだな』
真っ黒で顔や表情もわからないのだが、笑ったような音が聞こえた。
闇が去っていった。
彼は部屋の片隅にある写真立てを見た。
中には若い男女が肩を寄せ合い、微笑んでいる画像があった。
『とうとう、これが何か思い出せなくなった』
彼は決断した。
涙すら落ちてこない。
数日後。
上席が連絡が来ない彼の自宅を探したところ、首を吊った彼が発見された。




