閑話
村上はレンタカーをホテル近くの駐車場に停めた。
ホテルに戻り、部屋をノックする。
扉が開くと、そこには『鈴木』がいた。
『えっ!?』
互いに同じタイミングで声を上げた。
すぐに扉は閉められた。
村上はハッとして再び扉をノックする。
チェーンが掛かったまま、扉が少しだけ開く。
部屋の中から鈴木の声がする。
「何よ」
「部屋に入れてくれよ」
「はぁ? 入れるわけないでしょ」
また扉が閉まった。
村上はノックを続ける。
同じように扉が少しだけ開く。
「うるさいわね。他の部屋に迷惑かかるでしょ」
「俺も五月雨さんと同じ部屋なんだけど」
「何、そのアダルト動画ぐらいでしか見ないシチュエーションは」
村上は、どこかで聞いたフレーズだと思った後、すぐに突っ込んだ。
「鈴木さんもアダルト動画見るんだ」
すると扉が閉まった。
村上はまたノックをする。
ちょっとだけ扉が開く。
「何よ。どっか外でも歩いてなさいよ。こっちは眠いんだから」
「そもそも鈴木さんはどこの部屋なんだよ。そっち貸せよ」
「私は部屋なんてとってないわよ」
扉が閉まった。
村上は怒りで顔が紅潮した。
さっきより激しくノックする。
扉が小さく開く。
「じゃあ、部屋を取り忘れた鈴木さんが外歩いてよ」
「村上は、私に夜の街へ出ていけっていうの……」
「……」
扉が閉まった。
村上は思う。
色っぽい。恋人の痴話喧嘩のようだ。
いやいや、何かが違う。俺を部屋に入れてくれ。
休むために部屋の椅子でいいから貸してくれ。
村上はそう思いながら、再びノックする。
チェーンが外れる音がして、扉が開く。
扉の先にはホテルの部屋着に着替えた五月雨が立っていた。
「あっ、さっきの鈴木さん発言でチンコたった?」
「立ってませんけど、とにかく部屋に入れてください」
「冗談のつもりだったけど、本当は鈴木さんの間近で声が聞けて興奮してるでしょ」
村上は俯き、ため息をついた。
そしてそれとなく、自らの股間が外からどう見えるか確認した。
「鬼と戦ったり、車運転したり、こっちも疲れたんです」
「……どうも階段にいる鬼が少ないと思ったのよ。あれ、村上がやってくれてたのね」
「お願いです。入れてください」
五月雨は体を引き、部屋に入るよう促した。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言いながら、村上は部屋に入った。
「あれ?」
鈴木がベッドで寝ている。
本当に、ついさっきまで起きていたのに……
五月雨が、鈴木の体を見ながら言う。
「村上、襲っちゃう?」
「お、襲いませんよ」
視線は鈴木に釘付けになっていた。
初めて見る寝顔。
いつも通り柔らかそうな体のライン。
「私と寝るか鈴木さんと寝るか、二択だけど」
「俺は椅子で……」
見ると一脚しかなく、ガチガチに硬そうだった。
ベッドは二つ。
奥に五月雨が寝ていて、鈴木は手前の真ん中側に寝ている。
「や、やっぱり鈴木さんの横で」
鈴木の体に触れないようにベッドの端に寝転んだ。
村上が一番出入り口に近い方となった。
「そ。もう電気消すわよ」
五月雨が、二つのベッドの間にあるコンソールで灯りを消した。
その闇の中で、村上は訊ねた。
「なんで俺が鬼を倒したと分かったんですか?」
「さっき言ったでしょ。階段に現れた鬼の数が少なかったのが一つ。もう一つは、部屋であんたがまき散らした紙垂の数が少なかったから、どこかで使ったんだろうって」
「紙を振るだけだったんですけど、疲れました」
村上は五月雨の反応を待っていたが、何も返ってこなかった。
体を横にして鈴木越しに五月雨を見ると、もう寝ているようだった。
「……」
もっと話が出来るのかと思っていた村上は拍子抜けしてしまった。
静かになった部屋に、呼吸の音だけが聞こえてくる。
村上は突然、目の前に横たわる鈴木のことを意識してしまった。
鈴木は、五月雨の方を向いて、横に寝ている。
なので村上からは背中側が見えていた。
綺麗なショートヘア。
色っぽいうなじ。
腰にかけて下がっていくボディラインと、ボリュームのあるお尻。
会社ではこんなじっくり見てしまうことはなかった。
「!」
突然、鈴木が寝返りを打った。
数センチの距離で顔を合わせた村上は、妙に硬くなってしまった。
寝息が掛かる。
村上は自らの息をかけたら、起きてしまうのではないかと思って、息を吸い込むばかりで、ろくに息を吐けなくなった。
流石に苦しくなって、天井を向いて息を吐いた。
息を吐き終わった時だった。
再び寝返りした鈴木から、村上は顔面に裏拳を喰らった。
「……」
決して強い当たりではなかった。
しかし、疲れていたのか彼はそのまま意識が遠くなって、眠ってしまった。




