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すれちがう音  作者: ゆずさくら


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15/32

写真

 村上は空を見ていた。

 星の見える夜。

 厚い大気の向こうには、何もない空間が広がっている。

 何もない空間の果てに、恒星が輝く。

 彼はふと我に返る。

 村上は路上で仰向けに倒れている。

 立ちあがろうとして体をひねるが、それも出来ない。

 見えない、低い天井に押さえ込まれているようだった。

「鈴木さん、絶対助けますから!」

 村上は目の前で連れ去られた鈴木のことを思い出していた。

 体に鎖を巻きつけ、人と同じような体躯、筋肉をつけていた。

 肌は炭のように艶もない黒だった。

 鬼は鎖で絡めると、鈴木を連れ去ってしまった。

 村上は考える。

 あの時、鬼は何か言っていた。

『お前たちから面白い感情が喰らえそうだ』

 鬼は人の感情を喰うのだろうか。

「そういえば、五月雨さん、大渕さんに向かって『鬼に奪われた』とか聞いてたな」

 その奪われたものが『感情』だったのか。

 突然、村上は閃いた。

 村上はバッグから紙垂を取り出す。

 体を押さえつけている見えないものに、紙垂を押し付ける。

「手応えがあるぞ」

 紙垂を動かせる範囲が広がっていく。

 手当たり次第に紙垂を動かしていくと、上体を起こせるようになった。

「もう少しだ」

 振り回した紙垂が、次第に焦げて黒くなっていく。

 村上はついに自由を取り戻した。

 手に持っていた紙垂が、黒く焦げて足元に落ちた。

 彼はそのままマンションへと入っていく。

「えっ?」

 マンションの中にも、黒い闇の鬼が待っていた。

 煙のような、ぼんやりとした輪郭。

 バッグから紙垂を取り出し、振り回す。

 鬼の体、その闇が紙垂で切り裂かれる。

 先に進んでも、次から次へとやってくる。

「どこから来るんだ」

 村上は考えた。

 鬼が来る方向(・・・・・・)に鈴木さんが連れ去られているはず(・・)。

 紙垂を使いながら、鬼が階段を使っていることを見つけ、階段を上る。

「?」

 ただ黒いだけではない鬼が混じっている。

 上のフロアから下りて来るだけではなく、下からも迫ってくる。

 紙垂を振ったり、投げたりして鬼を倒した。

 村上は全身に疲れを感じ、ふと気づくと階段を抜けていた。

 壁に寄りかかり、大きくため息をついた。

 廊下の奥の部屋から、人の声が聞こえる。

「鈴木さん!」

 村上は走った。

 力を振り絞った。

 扉を開ける。

「熱っ!」

 五月雨の声だ。

 村上は抵抗を感じながらも『靴』のまま部屋に上がった。

 そのままリビングに飛び込んだ。

 村上の目に体中に鎖を巻いた鬼が見えた。

 彼の感情が爆発した。

「この野郎!」

 村上は、一直線に鬼に向かい、拳を腹に打ち込んでいた。

「?」

 村上は、拳が受けた激痛で叫んだ。

「痛ってぇ!!」

 村上は床にひっくり返り、バッグの中身をまき散らしてしまった。

 拳が痛くなるほど腹を叩いたのに、鬼にダメージは見られなかった。

 すると、風が吹いたのか村上がまき散らした紙垂が舞い上がった。

 小さな渦を巻きながら飛ぶ紙垂が、鬼に張り付いていく。

 すると、鬼に巻き付いている鎖がズルズル動き始めた。

 鈴木に巻き付いていた鎖も、鬼の方へと戻っていく。

 五月雨の首を締めていた鈴木の力も、鎖が戻っていくと同じように弱っていく。

 鬼は気づいた。

『なんで鎖が戻って来る?』

 鈴木から鎖が完全に外れると、鈴木はよろよろ歩き回り村上に躓いて倒れ込む。

 五月雨は喉をおさえながらも、鬼に向かい、祓串を鬼へ突き立てた。

 鬼は五月雨の祓串が当たる直前、姿を消した。

「逃げた!?」

 手応えはなかった。

 想定外のことが起こって、逃げたのか。

 五月雨は、ゆっくり村上と鈴木を振り返った。

「鈴木さん」

 村上はそう呼ぶと、気を失っている鈴木を揺すった。

 鈴木がゆっくり目を開けた。

「よかった」

 鈴木は弱々しく村上に抵抗する。

「……触らないで。いいから、構わないで」

「う、うん」

 村上はそっと鈴木を寝かせた。

 村上が五月雨の方へ進むと、

「村上、これを見て」

 と言いながら五月雨は、村上の耳を引っ張る。

「イタタ、なんです?」

「見覚え、ある?」

 村上は五月雨が手にしている写真立てを見た。

 男女が親しげな距離で、写っている。

「……」

 村上は考える。

 見覚え? どこかで見たことがある、ということか。

 村上は立ち上がった。

「変に思うかもしれませんが……」

「そうね。そこは気にしない方がいいわ。ついさっきあった出来事も、かなり変な事なのよ」

「夢。夢の中で見ました。この男の人と、女の人が書類の倉庫にいるところ」

 五月雨は頷くと、写真立てをテーブルに戻した。

「男性は石原(いしはら)隆(たかし) 。旭陵ホールディングスの社員よ」

「えっ、最初のセクハラ事件の」

「女性は……」

 鈴木が上体を起こし、五月雨の言葉を遮った。

「女性は藤堂(とうどう)美緒(みお)。同じくうちの社員よ」

「鈴木さん。まだ寝ていた方が……」

 鈴木は村上を制し、一人で立ち上がる。

「石原さん、自殺されたと聞いていましたが」

「部屋は残してあったの」

 村上は部屋の様子を見ながら言う。

「なんでここに鬼が?」

「さあ、それを調べようと思っていたのだけど」

 五月雨は分かりやすく鈴木の方を向いた。

 村上はボソリと言葉にしてしまう。

「……鈴木さん?」

 鈴木は黙ったままだった。

 五月雨が言う。

「村上。この写真に写っている名前が分かったら、変なことに気づかない?」

「えっ? あっ、そうですね。二人が付き合っていたなら、イチャイチャするのも無理はないかと。それなのにセクハラって……」

「そうね。鈴木さん。初めの事件がなんとも不可解なんです。何か知ってますよね」

 再び注目が鈴木に移った。

 鈴木は、左下に視線を移すと口を開いた。




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