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すれちがう音  作者: ゆずさくら


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10/32

出張

 翌日。

 五月雨は村上に業務アプリのチャットを使って、メッセージを送った。

『最初の事件の日のことを陰陽道で調べてみたら、やっぱり百鬼夜行があったのよ』

 村上は、何故五月雨がこのメッセージを送ってきたのか分からなかった。

『見たでしょ?』

 続けて送られてきたメッセージも、わからない。

 何を見たのだろう。

 村上は困惑した。

『何で何も答えないの? ま、どうでもいいけど、さっさと出張稟議書きなさい』

「えっ!? 出張?」

 村上は、耐えきれずそう声に出してしまった。

 明後日、金曜日に残業すると言っていたのは、このことなのか?

 すると課長の方から反応がある。

「村上くん、五月雨先生から話は聞いている。許可するからすぐ稟議書きなさい」

「私も出張……」

 鈴木が立ち上がりかけるが、五月雨が彼女の後ろに回り肩に手を置いた。

「あなたを危険な目に合わせられない」

 鈴木は、置かれた手に頬ずりした。

 しばらくそうした後、キッパリと言った。

「わかりました」

 鈴木はパソコンに向き直ると、仕事に戻った。

 全員が普段通りの業務に戻り、村上は出張稟議を書いて提出した。

 その日の仕事が終わると、村上は会社を出た。

 会社近くの牛丼チェーン店で食事をすると、電車に乗った。

 最初は混んでいた車内が、主要駅を過ぎて人が減ってきた。

「……」

 村上は見られている(・・・・・・)感覚に振り返る。

 何も特別なものはない。

 吊り革に捕まっている会社員風の男。

 たくさんの紙袋を抱えた男。

 スマホで髪を整えている男。

 村上は気のせいか、と思い直す。

 最寄駅に着き、電車を下りる。

 村上の頭を、ふと『鬼』と言う言葉がよぎる。

 だが、どこを見ても何も感じない。

 殺気も、気圧される感覚もない。

 視線のような、妙なものだけがある。

 村上は自宅マンションの入り口で、突然振り返る。

 だがそこには闇があるだけで、何も見えなかった。

 村上はそこで、これ以上考えることをやめた。

 翌朝。

 いつものように会社にいく支度をし、出張のために準備したバッグを併せ持つと、マンションを出た。

「……」

 見られている感覚があったが、村上は慣れてしまった。

 新幹線に乗るために、いつもと違う電車に乗り、途中駅で乗り換える。

 目的の新幹線の車両に乗り込むと、村上は声をかけられた。

「おはよう」

「五月雨さん、おはようございます」

「席はそこの並びよ。あ、私、窓際でいいかしら? 富士山みたいし」

 村上は五月雨の言葉を聞いて、微笑んだ。

「いいですよ」

 二人を乗せた列車が動き出した。

 西へ向かっていた。

 ある地方都市。

 列車の中で買っておいた弁当を昼に食べ、目的の駅に着く頃には夕方が近づいていた。

 その地方都市にある支社に二人は入った。

「榊原課長に連絡して」

 村上は言われた通りに連絡を入れた。

『そうか無事についたか。頼んだぞ』

「課長、五月雨さんが何をするのか聞いてるんですか?」

『いや、何をするのかまでは聞いてない』

 村上は課長に聞こえないようにため息をついた。

「夕方まで、しばらくこちらの支社で仕事しますので」

『わかった』

 村上と五月雨は、旭陵ホールディングスの支社にある打ち合わせ室を借りて、しばらく作業した。

「そうだ、昨日からずっと変な気配を感じてたんです」

「……どんな?」

「いうなれば視線、ですかね」

 五月雨が村上を見つめるが、首を捻るだけだった。

「何も感じないわね」

「そうですか? 鬼なのかと思ってました」

「存外、そう言うのは人だったりするんだよね」

 今度は村上が首を捻った。

 五月雨はスマホで時間を確認する。

「そろそろホテルに入りましょうか。支度がいるわ」

「えっ、支社に寄った意味は?」

「大丈夫、もう済ましてあるから」

 村上は五月雨が支社長と話しているところを思い出した。

 ただ単に挨拶をしていたわけではないと言うことか。

「すぐ片付けます」

「レンタカーも借りてるわよね?」

「ええ」

 村上はノートパソコンなどをしまうと、支社の人間に挨拶をした。

 二人は予約していたホテルへ向かう。

 ホテルのロビーで村上は、自動受付システムを操作する。

「あれ?」

「さっきからずっと何やってんの? 時間かかり過ぎ」

「いや、予約内容が変なんです。ちょっと人を呼んできます」

 村上は、フロントの人とずっと話し込んでいる。

 何かトラブルがあったようだ。

 五月雨は村上に声をかける。

「いったいどうしたの?」

「えっと、二(ふた)部屋予約したはずなのが一(ひと)部屋になっていて、しかも満室だから今から追加はできないって」

「今どき、アダルト動画ぐらいでしか見かけないシチュエーションね。今から別のホテルってのも大変だから、いいわよそれで」

 村上は驚いたように口を開けていたと思うと、

「ア、アダルト動画とか見るんですね?」

 五月雨は周りに気づかれないよう村上の足先を強く踏んだ。

「ぐっ……」

 チェックインをすると、二人は予約していた部屋に移動した。

「どのみち、部屋には長くいないし、私の部屋か、村上の部屋か、どちらかに集まってやらなきゃならないこともあるんだから、結果としては一部屋でもいいのよ」

「なら、最初から」

「最初から一部屋は話が違うでしょ!?」

 村上は思った。

 女心について、俺は一生理解できない、と。

「さあ、儀式をするからこれからホームセンター行くわよ」

 村上はスマホで時刻を見る。

 まだ夕方なので、ホームセンターも営業しているだろう。

 二人はレンタカーに乗り、ホームセンターに向かった。

 村上は、糸やら紙やら、突っ張り棒などなど、五月雨に言われるままカートに突っ込んでいく。

「ハンディライトは入ってる?」

「……あっ、入ってないです」

「もう! 探してくるからここで待ってて」

 カートに手をかけたまま、村上はじっと待っていた。

 すると、ここまで感じていなかった視線を感じた。

 首をゆっくりと動かしながら、視線を広げた。

 村上が探すと、その視線の感じは消えてしまった。

「見つけてきた」

「すみませんでした」

「さあ、ホテルに戻るよ」

 会計をして、購入品を車に乗せると、二人はホテルへと戻った。




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