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無能扱いされていた生体錬成士の俺が最強幼女ホムンクルスを生み出した。  作者: tatakiuri
五章.精霊が絵画を嗜んじゃ駄目って?いや駄目とは言ってないじゃん。
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73.手を止めて絵を観よう。

 立ち並ぶ建物、天を衝くばかりにそびえる監視塔も、管理局の建物も、全てが寸分違わず再現されている。それはまるで鏡写しのようであるし、また街の上に複製された街がまるごと浮き上がっているようにも見えた。

 しかし、実際のところそれは完全な複製コピーではない。本物の街とは明らかに違うところがあった。


 それは色だ。道路に敷かれる石畳も、建物の壁も、全てが乱雑な極彩色に塗りたくられていた。その色は常に流動を続けており、形容するならば生きた虹とでも言えた。虹が意思を持って動いているようにも見えた。

 その暴力的なまでに、しかし痛々しくはない温かみのある色彩は、館長にとっては否が応にもあるものを思い出させずにはいられない。

 コクマーだ。彼がパトロンをしていた《愚者フール》の命位アルカナの持つ作風ととても似通っていた。


 続けてニルの声が聞こえてくる。


「これは、わたくし達の生きる街です。ここにはたくさんの人々が生きていて、日々を営んでいます。その姿が見えますでしょうか」


 まるでこちらに尋ねてくるようなその声に、館長は向こうに聞こえないことを承知で応えた。


「えぇ。えぇ見えますよ。よく見えますとも」


 それに、彼を呼び止めようとしていた者達が続く。

 彼らもまた本来の目的を忘れて、ニルが空に描く絵に釘付けになっていた。徐々に他の避難民達も建物から出てきている。


「えぇ?どこです?」

「人の姿なんて見えませんけど」


「いえいえ、そんなことはありませんよ。あそこを見てください」


 そう返事をしながら、館長は絵の一角を指さした。建物の間にある路地だ。そこには市場の露天が並んでおり、その周囲にいくつもの色が点描のように散りばめられていた。その色は無秩序に散らばっているようでいて、それぞれが違うタッチで描かれていた。


「市場を行き交う人々の姿がそこに見受けられます。あのせわしなく荒く塗りたくられている暖色の固まりは、……いやはや、値引き交渉に熱が出ているようですね。100ゴルドや200ゴルド程度の額にムキになってはいけない」

「あぁ、本当だ。なんかそう見えてきた」

「じゃああっちは工芸品の店か。同じ暖色系の色を混ぜてるけど、随分と穏やかな色合いだ。恋人とか家族への土産物ですかね?」

「見るだけで人となりの良さを感じられるなあ」


 実際にその絵の中に人物が描かれているわけではない。だが、この場にいる者達には確かに、空に描かれた魔術都市に住まう住人達の姿のみならず、その営みまでもおぼろげながらも見えていた。


「あそこが礼賛広場ですね。ケテア像の周りに人が集まって……、

 ああーそうか思い出した!水精がここで絵を描いてたな。もしかしてこれをやってるのはあの子か!いやぁ、面白いことをする精霊だなとは思ってたけど、これほどとは」


 感心した様子で誰かが言う。

 突然の襲撃に物々しく戒厳令が敷かれていた街は、いつの間にやら全域を巻き込んだ展覧会へと変わっていた。

 その見物客のひとりになりながら、館長は静かに呟いた。


「コクマー先生。今、ようやく分かりました。貴方があの絵に描こうとしていたもの。それを、あのニルさんが、五十の歳月を経て私に伝えてくれています。あの精霊の想いが、絵を通して鮮やかに見えてくる。

 ……先生。貴方にもこれを見せて差し上げたかった」



        ※



 精霊の声が街に響く。


「この豊かな街が今、戦いの舞台になっています。わたくし達精霊のためにと、魔術都市に挑む方達がいます。

 その方達に、そして精霊のみな様にお聞きしたいのです。あなた方は本当に、この街に生きる人々の敵となって、その繋がりを捨ててよいと思っているのですか。わたくしは嫌です。この絵はほんの始まりでしかない。わたくしはもっとヒトと、その文化に触れたい。その未来を、こんな形で捨てるわけにはいきませんわ!」


 先んじて管理局に向かっていた召喚士達も、ニルの描くこの絵に足止めされていた。すでに管理局の建物は目の前。本来の目的の達成を前にして、彼らはそれを半ば放棄していたのだ。

 ノームのドキに、彼の召喚士が呼びかける。


「いくら精霊っていっても、あれだけの規模の魔力を操作することが可能だと思うか?街を丸々ひとつ覆うほどの水の魔力だぞ」

「逆に聞くが、わしがこの身一つで魔術都市ここをそっくりそのままもう一つ建造できるか?程度は違うが要はそういうことだろうよ」

「そうだよな。こんな芸当、あの火精の王にだって無理だ。一体どうやって……」


 ざわめきながらも、一様に頭上に展開される色彩のパノラマを眺めていた召喚士達。

 そこに、遅ればせながらイェソドが合流した。その顔つきはどこか憔悴しょうすいし覇気はなく、それでいてこれまで彼に張り付いていた険のようなものが剥がれ落ちた、そんな落ち着いた表情だった。

 諦めの境地にいたることで、逆に全てを受け入れられるようになった。そんな顔だ。


「どうしてこんなことに私は、……僕は今まで気づくことができなかったんだ」

「イェソドさん?」


「今更言う必要もないだろうが。皆、革命は終わりだ。もうやめにしよう」

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