68.何度も復活するならその分何度でもやっちまえばいい。頭の悪い作戦!
再び、異形と化したアインの頭が消し炭になる。
―――いや。それもすでに再生している。ドレークの拳により溶解させられながら弾けるように吹き飛んだ頭部の組織は一瞬の内に元通りになっていた。確かな手応えがあったというのに、実際のところ傷一つつけられていない相手の姿には、さすがのドレークも焦りを隠せない。
「おのれ……!」
しかし。
「ふんぬ!」
続けざまに、オウルが両腕に渾身の力をこめた。アインのその丸太のような腕をめいっぱいに引き、肩から千切る。先程ドレークがされたことの意趣返しだ。もっとも、オウルはその現場を見たわけではないが。
引きちぎった腕をすぐさま投げ飛ばし、空いた手のひらをがら空きになった胴に押し当てる。
「《ピンポイント・バーナー》!」
もはや遠慮も容赦もない。いつぞやゴーレムの装甲を焼いた時と同じだ。至近距離から高密度の火の魔力を叩き込み、再生する暇も与えず全身を燃やし尽くしてやる。
いくら細胞が高速で増殖しようと、増える細胞すらなくなれば無意味だ。DNAの一片程度だけを残して後は全て消し去ってやる。そこまで完膚なきまでにやればさすがにすぐには再生できないだろう。それならばやりようはいくらでも出てくる。
が、アインの能力はそれこそ怪物じみていた。オウルが引きちぎった腕は瞬時に再生しており、胸元に押し当てられた手を手首から掴む。
「ハアァァァ……!!」
獲物を前にした獣そのままに引きつった口元から荒い息を吐き出しながら、アインは掴んだ手首をそのまま動かし、火の魔力を放出しようとしていたオウルの手のひらを逆に彼女の顔に押し返そうとしていた。
このままでは自分で自分の顔面をあぶり焼きにしてしまう。
「うわわっ!」
慌てて魔術を中断するオウル。
まったくもって、このホムンクルスはとんでもない個体だ。こちらがどれだけ攻撃し肉体をずたずたに破壊したところで、それが瞬時に再生してしまう。これでは何のダメージにもならない。ダメージがないのだから、向こうもすぐに反撃してくる。
油断も隙もない相手だ。マルクスの言う通り、このままでは勝利の糸口が見えないだろう。
彼女ひとりならば。
次の瞬間。
アインの胸元から、―――否、彼女の体内から炎が吹き上がった。背後からドレークが火の魔力を叩き込み、彼女の身体をぐつぐつの鍋にして内臓を炊いているのだ。
「ゴオオオォォァ!!」
大きく開いた怪物の口、その喉の奥からまで炎が吹き出してくる。
こちらの手首を掴む力が緩んだ好機を逃さず、オウルはすぐさまアインの腕を振りほどき、もう一度手のひらを彼女の身体に押し当てた。
「両面焼きにしてやる!」
内側と外側。二方向から超高温を浴びせる。さすがにこれは耐えられまい。
今度こそ《ピンポイント・バーナー》を発動しようとする。
しかし、またしてもそれは叶わなかった。
一瞬のことだった。オウルもドレークもぎりぎりのところでそれに気づいたが、もし後一瞬ほど行動が遅れていればどうなっていたかは分からない。
アインの身体が、突然針の塊になった。
その表現は正しくないかもしれない。ドレークによって燃やされていた体内から、無数の刃のようなものが飛び出し、オウル達を突き刺そうとしたのだ。
オウルとドレークは瞬時にその場から飛び退き距離を取る。幸い飛び出してきた刃をわずかに身体をかすめていっただけだ。
「ぬぅ!」
「マジで……?」
呻きをあげるドレークに続いて、オウルが一周回って呆れたような声を吐き捨てる。
もうなんでもありだ。全身が凶器そのものではないか。
しかし、先程の攻撃はさすがにそれなりの成果をあげられたらしい。
わずかに距離を置いて対峙する怪物ホムンクルス。彼女の身体は無事な箇所が見当たらないほどに焼けただれている。皮膚の内側から、先程オウルを刺し殺そうとした尻尾と似たような形の触手が数本ゆらゆらと蠢いているが、それらはドレークが発した熱によりすでに焼かれており、しばらくすると節々が溶断されぼとぼとと地面に落ちていった。
ダメージがないわけではない。こちらが攻撃をすればその分身体も損傷するし、それを修復する必要もある。受けたダメージが大きければ大きいほど、修復にも時間がかかる。
もっとも、そんなことをオウルが推測しているその間にも、アインの大火傷は半分近く治り始めているのだが。
だとしても、まったくの無意味ではないはずだ。
それは、この戦いを見ているしかないマルクスとティファレッテも感じていた。
「細胞をすごい勢いで増殖させるといっても、そのためにもエネルギーが必要なはずだ」
そんな言葉に、ティファレッテが青い顔で応える。
「現界はある、ってことですか?」
火の魔術で身体を保護されているといっても、肺が片方破れているのだ。五体無事というわけではない。本当は彼女だけは大人しくしてもらいたいのだが、そう頼んだところで聞き入れてはくれないだろう。
気弱そうな田舎娘だと思っていたのだが、意外なほどに頑固者だったようだ、この見習い召喚士は。
「おそらくは大量の魔力を身体に蓄え、それで細胞を活性化させているのだろう。だけど、無限の魔力なんてものはこの世には存在しない―――はずだ。あんな無茶苦茶な増殖をさせていれば、いつか必ず底を尽きる。そうすればもう再生もできなくなる」
「そこまでいけば、わたしたちの勝ち、……なんですね」
「それまでに、オウルとドレークが無事でいられたらの話だが」
と、不意に彼らの前方を荷馬車の集団が通り過ぎていった。
召喚士達だ。彼らはオウルとドレークが戦っている間にこの場を離れようとしていたのだ。そこには、あのイェソドと、片腕をなくしてなお健在なエアリィの姿も見えた。
逃げるつもりか?ドレークが今も戦い、ティファレッテが生命を危険に晒してまでそれを見守ろうとしているのに?
マルクスにはそうとしか見えなかった。
「おい!」
召喚士達を呼び止めようとするマルクス。
しかしそれを、ティファレッテがなだめた。
「いいんです」




