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43..要するに全部テトさんからの受け売りじゃないか!



        ※



 魔術都市の一角にある小さな料亭、“すらんばー”。

 それほど規模は大きくなく質素な作りの店であるが、静かに落ち着いて食事ができる上に美味いと評判だったので最近訪れたマルクスもすっかり気に入り常連となっていた。

 しかし、今そのこぢんまりとした店内の空気は静けさとはかけ離れたものだった。

 テーブルに並べられた料理を一心不乱に貪り食う二つの生物(?)。ひとつはホムンクルスで、もうひとつは水の精霊だ。片や生物と言っていいかどうかも曖昧である。


「おいしいですわ!超おいしいですわ!」


 その、実際のところ液体がそういう形になっているだけでしかないはずの口に次々と料理を放り込み舌で鼓を打つウンディーネのニル。

 それに続くオウルの声も、満足げだ。


「でしょ~!ほらやっぱりなんとかなったじゃない!」


「も゛お゛お゛!店の迷惑になるからもっと静かに食べなさい」


 マルクスが必死に二人を落ち着かせようとするが、それも構わない。

 慌てふためく彼に、料亭すらんばーの看板娘ちゃんが声をかけた。マルクスがこの店の常連になっている理由のひとつが彼女である。


「大丈夫ですよお。お客さんがおいしいおいしい言いながら食事してくれるとこちらも嬉しいですから」

「あ、そお?」


 他の席についていた客もそれに続く。


「別に他の客が騒いでいても今更気にしないよなぁ?それにしても精霊が飯食ってんの?かわいいね」

「そ、そおですか?」


 そう言ってもらえるなら安心だ。

 かといって、自分の創造物とそのまた召喚物に最低限の礼儀というものを教えるのもマルクスの役目である。


「みんなこう言ってくれてるけど、君らはもっとしずしずと食事をしなさい。ニルも、お嬢様然とした喋り方のくせになんだその下品な食べ方は」

「だっておいしいんですもの」

「いいか?美味い料理というのはつまり作り手の努力の結晶であり、それを食する我々もまたそれに努力で応えなければいけない。もの食べるための努力だ。それが“礼儀”というものなんだよ。それを怠るということは料理人への敬意がないということになってしまう。君らはこの料理を作ってくれた人のことを軽んじているのか?」

「まさか~」

「こんなおいしいものを作る人を軽んじるわけがありませんわ」

「なら。もっと静かに、厳かに食事を進めるべきだ」


「それはいいけど。マルクスだって襟とかいろいろ汚れてるんだけど。それも礼儀なの?」

「……」


 オウルの指摘に、マルクスの顔が茹で上がる。それを見て、看板娘ちゃんがくすくす笑いながら去っていった。

 創造主のリアクションに満足したのか、オウルも笑って続ける。


「分かってるよ。ジブン(自分)達だってマナーぐらいわきまえているつもりだ。ニルもジブンの見よう見真似して食べるといい」

「分かりましたわ」


 それで実際、先程までとは打って変わって物音ひとつ立てずに食事を進めるのだから末恐ろしいホムンクルスだ。オウルにならって、ニルもいくらか大人しくなってくれたようだ。

 まぁこれでひとまずは安心だろう。


 それはそれとして。

 マルクスはニルの方をぼんやりと眺めていた。彼女が口にいれたものはその直後からじわじわと溶けていき、やがてその真っ青な液体の身体の中へと染み渡るように消えてしまう。


「(うぅむ。一体どうやって食べたものを消化しているんだ?身体の中が酸性の液体になっていて溶かしているとか?にしても吸収された栄養素は一体どうなる?

もうわけがわからん)」


 他人の食事を盗み見るなど、自分のやっていることが一番やるべきでない無礼であるということに気づかないマルクスであった。



        ※



 食事を終えて、そのまま家に戻って、ニルに家の中を案内して、そうしている内に夜も更けてきたので、マルクス達は、寝た。


 その次の日。

 ニルが魔術都市を見て回りたいと言ってきたので、今日は一日それに費やすこととした。いつぞやオウルの案内をした時と同じだ。

 ホムンクルスといい精霊といい。まるで歩きはじめの赤ちゃんがあちこち徘徊するみたいだな、などと思うマルクス。あるいは、実際そうなのだろう。彼女達は要するに知能をもった赤ちゃんなのだ。



 そんな頭のいい赤ちゃん二人を連れたマルクスが今いる場所は、管理局近くにある美術館であった。

 魔術師というのは物事の本質を見抜き、それを再現する者達だ。だからなのか、芸術というものにも精通している魔術師も少なくはない。そういった者達が個人の趣味かもしくは研究の参考にでもするつもりか集めてきた美術品、あるいは彼らが自ら作り出した芸術品が寄贈され、自由に鑑賞できるようになった場所がここだ。

 とはいえ、日々の暮らしに精一杯なマルクスには芸術を嗜むだけの余裕はなく、こういった場所にはあまり興味はなかった。彼としてはさっさと立ち去りたいところではあったのだが、オウル達はそうでもないらしい。とぼとぼと館内を歩くマルクスを他所よそに、オウルはニルを引き連れて展示物をきょろきょろと見回していた。


「これは、……景色を描いていますの?」


 展示品のひとつを興味深そうに眺めるニル。その問いにオウルが応える。


「そうだよ。絵画っていうのは元を正せば、要するに記録でしかなかった。国の王様だとかが権威を残すために自分の姿を描かせたりだとか、戦いの記録を後世に残そうだとか、あるいはそこら辺にいる動物だとかなんだとかをとりあえず模倣してみたりとか。そういった観点から見た場合、絵画というものの歴史は魔術と同じかそれ以上に長いものになる。ウン千年やウン万年は下らないだろうね」

「へえ~」


「けど、そういった“記録”が技術として定着した結果。人々はそれ以上のものを絵画に描くようになっていた。眼の前に存在する“現実”ではない。存在しない“空想”をも技術によって再現しようとしたんだ。

 例えば世界を作った神様のお話や、その当時にはすでに失われていた風景、あるいはどこの誰でもない架空の人物だとか。そんな実際はどこにもないものを絵の中で具現化させようとしたんだね」

「どこにもないのに?」


「それを()()()()()()()()()()にする。なるほどそれはどこか魔術にも似ている部分がある。

 んで、あくまで“記録”をする手段でしかなかった絵画はやがてそこに用いられている技術そのものを尊重するものへと変化していった。ただの絵でしかなかったものが芸術へと発展していったのはそれからだ」


 傍から聞いていたマルクスも思わず舌を巻くような説明だ。


「もしやそれもテトさんから教えられたのか?」

「そうだよ?」

「俺、あいつのことを少し見直した方がいいみたいだな……」


 興味津々なニルを連れて、先に進む。館内はいくつかの区画に分けられていて、それぞれにあるテーマに分けられたものを展示しているらしい。



 そうしてある区画を抜け別の区画へと入った時、ふとニルの顔色が変わった。


「これ、は……」

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