42.行き当たりばったりな召喚士だなあ……
「ティファレッタのことはさておき、そもそもは俺達自身のことが先だろう」
彼女の前に、まず自分達(正しくはオウル一人だが)が召喚した精霊のことだ。
ものの試しにマルクスは、眼前にいる水精のステータス解析を行ってみることにした。彼自身精霊というのを間近で見たことはあまりない。この機会に、彼らが生物としてどのような性質をしているのか知るのもいいだろう。
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名前:
種族:ウンディーネ
性別:メス 年齢:0歳
身長:160cm(現在値) 体重:50kg(現在値)
生命力:5 筋力:6
耐久力:3 持久力:8
集中力:103 魔力:510
適応性:1120 運命性:99
レベル:231
技能:
五元素行使(水) Lv.8 水質変換 Lv.7
形状記憶 Lv.5 水分同化 Lv.6
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なるほど、これは面白いステータスだ。マルクスはそう思った。
レベルそのものは高い。それこそテトさんのような大(?)魔術師より。
しかし実際のところ、生命力や耐久力など物理的なステータスはむしろ一般的な人間に比べて低い。水がただヒトの形をなしているだけで、物体としてはそれほど丈夫ではないのだろう。その一方で、魔力、適応性のステータスは非常に高い。
これこそが精霊の特徴か。伊達にそれぞれの属性の魔力を司る存在ではない。魔術を―――特に彼女の場合は水属性の魔術を使わせればそこらの魔術師など及びもつかない実力を発揮してくれるだろう。
その一方で、彼女が使用できる魔術は水属性に限定されている。他の属性の魔術は使えないのだ。この辺りが、精霊と魔術師の違いのひとつなのだろう。
さて、そんな水の精霊を召喚したオウルは、これからどうするつもりだろうか。
「オウルもイェソドさんのところで勉強するのか?」
そう聞くマルクスに、オウルはしばし逡巡してから応える。
「……いや、ジブンは別にいいや。一回召喚できたんなら別にあれこれ勉強する必要もないし。後は自力で上手くやっていこうかな」
「そんな無責任な。自分が召喚した精霊なんだから自分でしっかり面倒みなさいよ」
そんな戒めるような創造主の言葉に、オウルは傍らにいるウンディーネの“未定ちゃん”と顔を見合わせた。
「もちろん見るよねぇ~?要は生きてて楽しければそれでいいの。そうだよねぇ?」
「その通りですわ!」
「(それでいいのかなあ。まぁ、当人がそう言ってるならそれでいいか)」
自分自身、相手の同意を得ずにホムンクルスという人造生命を作り出した身の上でもある。二人の判断に余計な口出しはしないでおくかとマルクスは考えた。
と、不意にオウルが“未定ちゃん”と顔を見合わせたまま、パン!と両手を合わせた。
「あ、そおだ思いついた!名前だよ!」
「名前?わたくしのですの?」
「そうだよ。まずはやっぱり名前をつけるのが先決だよね。いつまでも“未定ちゃん”のままだと人格否定みたいで申し訳ないし」
「(自覚はあったんだな)」
脳裏でぼやくマルクスの声が聞こえるわけもなく、オウルはこちらを見返すウンディーネの眼をじっと覗きながら言った。
「“ニル”。それがキミの名前だ」
「ニル」
「それはどういった意味合いだ?」というマルクスの問い。
「世の中のことを悟った人間が行き着く世界。肉体のしがらみから開放されて心が解脱した先にある楽園。そこをちょいともじった名前だよ」
「へえ、なんか聞いたことがある。しかし、そんなこといつの間に学んだんだ?俺は教えた記憶はないし、ウチの研究室にある本にもそういった類の知識を書いたものはなかったと思うんだが」
「テトさんが魔術の勉強の合間に、息抜きに教えてくれたんだ」
「彼女が?あ~、確かにテトさんってアレで案外博識なんだよなあ」
こちらが何を言っても罵声で返してくるあの年中お怒りガールの顔を思い浮かべると、どうにも結びつかない事実である。多分本人がこの発言を聞けばブチギレることだろう。
まぁそれはそれとして。
「なんにせよ、キミの名前は今からニル!気に入った?」
「楽園の名前を授けてくださるなんて、光栄ですわ~!」
素直にそう喜ぶ水精ニルの手を引いて、オウルは立ち上がった。
「というわけでニル。キミを歓迎する意味合いもこめて、今からご飯食べにいこう!親睦というのは美味しいものを食べることから始まる!」
「ん、……ごはん?」
オウルのこの提案に、マルクスが首をかしげた。
「いや、ちょっと待とうね?そもそも妖精って食事できるの?ヒトを模倣したホムンクルスならそりゃあ消化器官も備えてるけど、精霊ともなるともう完全に人間からはかけ離れてるというか、そもそも生物かどうかすらも曖昧じゃないか」
「んもお~!創造主は分かってないなあ。こういうのはとりあえず何事もチャレンジしてみるもんだよ。食事をすることの喜びを経験できないなんて、そんなのもったいない!」
「楽しみですわ!」
いや、ステータスにモノを言わせていろいろ無茶ができるオウルとは話が違うのだが。
「やっぱり、イェソドさんのところでちゃんと教えて貰ったほうがいいんじゃ……」
そんな苦言をぼそりとつぶやきつつ、まぁ当人たちがその気ならひとまずことの推移を見守ってみるかと、マルクスは礼賛広場を離れ歩いていくオウル達の後をしずしずとついていくことにした。
結論から言うと。
水精であるニルは他の生物と同じように食事をすることができた。
というか、できすぎていた。




