40.他人に質問されても自分も答えが分からないってのが一番気まずい。
※
突然現れた強大な火の妖精に会場は一時騒然となったものの、召喚士達が場を上手く落ち着けてくれたので、講習会そのものは最終的には滞りなく進行した。
「今日はお疲れ様でした。各々新しい出会いに恵まれたのでしたら、こちらとしても幸いです。今後も、定期的にこのような講習会を開催しようと思います。自らの精霊とさらに絆を深めたいと望むのでしたら、どうか続けて参加していただきたい」
《恋人》のイェソドのそんな言葉を締めくくりにして、ひとまず終了した。
参加者達は各々精霊の召喚に成功したり、失敗したりと様々だった。ちなみにマルクスは言うまでもなく後者である。しかしまぁ、もともとできるとも思っていないことだったので落ち込んだりはしない。
会場を後にし、とりあえず一旦家に帰ろうとしたマルクス達だったが、それを呼び止める者がいた。
「す、すみません!」
あの、例のとんでもない熱気を発していたサラマンダー。その召喚者である栗毛の少女だった。
藪から棒に声をかけられたものだから「え、なに?」とびっくりするマルクスに、少女は言う。
「いや、あなたではないです」
「ひどくない?」
「そちらの、ホムンクルスの方に」
「|ジブン(自分)に?」
なおさら藪から棒だ。ぽかんとした顔で自分の顔を指差すオウル。
「その、あなたも立派な水の精霊を召喚していましたよね?きっといろいろコツみたいなものを掴んだはず。わたし、さっきの講習会では何がなんだかよく分からなくて、何かアドバイスしてくれませんか?」
そんな言葉が聞こえた次の瞬間。オウルの傍らで再び水の塊が渦を巻きながら現れ、それが人の形を成した。
再び召喚された―――というか勝手に出てきたウンディーネが、にっこり笑って鼻たかだかに応えた。
「『立派な水の精霊』!それわたくしのことですの?誇らしいことこの上ありませんわ!」
それを相変わらずぽかんとした顔で眺めるオウル。
「あどばいす。いや、こっちも実際のところ素人同然なんだけど。コツって言われても、ジブンもどうやって召喚したのか分からないんだよね。
キミはなんか分かる?」
聞かれた水精もふんふんと首を横に振る。
「いいえ、呼ばれる側のわたくしに聞かれましても」
召喚した側もされた側も、なんとも素っ頓狂な回答だ。栗毛の少女はがっくりと肩を落とした。
「そ、そんなあ」
このままでは何かの拍子に泣き出してしまいそうだ。
ここはひとつ、大人の自分がなんとかせねば。マルクスはなだめるように声をかけた。
「まあまあ。何かの縁だし、話だけでも聞いてみるか。っていうか君、名前は?俺はマルクス」
「ティファレッテです」
「ジブンはオウル。で、この水精が―――えーと、……名前なんていうの?」
そういえばまだこのウンディーネの名前を聞いていないことに気がついたオウル。彼女が名を訪ねるが、傍らの水精の返事はこうだった。
「名前、と言われましても。わたくしはあなた様に呼ばれるまではただこの世界に漂う形のない魔力そのものでしたの。名前どころか、個の区別だってありませんでしたわ。召喚されたことで初めて、ヒトが認識できるような形と意識を得ることができましたの」
「え、そうなの?召喚術ってそういうもんだっけ。さっき《恋人》のヒトそんな話してた?」
その問いにマルクスが応える。
「してた。……と思う。(ってかよく聞いてなかった)」
「へえ~そうなのかあ。ならキミの名前も考えなくちゃ。
―――ってことでこの子の名前は“未定ちゃん”。よろしく!」
「未定ちゃん!?」
ティファレッテがさすがに聞き返す。
「(ひどすぎる)」
マルクスも心の中で苦言を呈した。
が、しかし当の“未定ちゃん”呼ばわりされた水精は気にも留めていない様子だ。もともと名前がないという話なので、そもそも“未定ちゃん”だろうが“無名ちゃん”だろうが関係ないのだろう。
※
ひとまずマルクス達は、礼賛広場で話をすることにした。
はっきり言ってオウルも(当然マルクス)も精霊召喚術については素人同然なので、他人に教えられることなど何もない。本当にただ話をするだけの実りのない一時でしかないが、まぁそれもそれでいいのだろう。
大魔術師ケテア像の前にある段差を椅子代わりにし、眼前に佇む魔術都市の父の姿を眺めながらマルクスが切り出す。
「そもそも君はなんで今回の講習会に参加したんだ?俺?俺は単なる冷やかしで、オウルが行きたいって言ったからついてきただけなんであしからず。でも君はそうじゃないだろ。精霊召喚術を学びたい理由があったはずだ」
それに、彼の隣にこじんまりと座っている少女が自分の膝とにらめっこしながら応える。
「はい、確かにそうです。でも、わたしの理由だってそんな大したものではないんです」
「いや、俺よりかは間違いなくマシだから安心していい」
「言い切ったなあ」
「そんなだからロクに精霊も召喚できませんのよ」
オウルと“未定ちゃん”が揃って冷やかす。
「さっそく息が合ってきたな君ら」
と、マルクスの言葉にしばらく黙り込んでいた栗毛のティファレッテが、思い切ったように訥々(とつとつ)と語り始めた。
彼女が今回の講習会を受けた理由というやつだろう。マルクスとしてはわざわざ身の上話まで根掘り葉掘り聞くつもりはなかったのだが、向こうから話てくれるのなら黙って聞くことにしよう。
「わたし、昔火事にあったんです」




