第四話 ふん! 『とおか! はつーかさんじゅーにっちどらごーんせーるっ!』を見てもその余裕な顔ができるといいなあ!
馬車の試運転のついでに、俺と行商人さんとクロエは商人ギルドにやってきた。
行商人さんの引き継ぎは問題なさそうで、テナント募集の掲示もOKはもらった。
受付の商人ギルド員の反応がよくなかった内容を変更した方がいいかと、ネックになる部分を聞こうとしたところで——
「おやあ? これはこれは、新しい店長さんではありませんか」
うしろから、商人ギルド長に話しかけられた。
クロエがやたら敵視していて、アイヲンモール異世界店に注目している、商人ギルドのトップだ。
「商人ギルドに何の用でしょうかねえ。おお、もしや街の外での商売を諦めて商人ギルドの傘下に——」
「ガルルッ!」
「どうどう! だからうなってどうすんだクロエ! エルフってみんなこんな感じなんですかねえ……」
クロエをなだめて頭を抱えたけど気持ちを切り替える。
商人ギルド長はカウンターの向こうにまわって、受付さんが見てた「テナント募集」の紙をチラ見する。
「ほうほう、これはこれは。店子の募集ですか。ふむふむ、なるほどねえ」
顎、いや、肉に埋もれた顎らしき場所に手を置いて頷く商人ギルド長。
商人ギルドの受付の職員さんは、ギルド長に何も言わず、困ったような表情だ。
「掲示には問題ないでしょう。貼って差し上げなさい」
ニンマリと笑って、ギルド長は職員さんに指示を出した。
チラッとこっちを見て何か言いたそうな職員さんだったけど、ギルド長に紙を差し出されて立ち上がる。
「いやはや、新しい店長さんのところには優秀な人物が多いようですねえ。これは、『失格エルフ』などと呼ぶのを止めなければいけませんかね」
「ゲスめ、何を企んでいるッ!? ゲスが失礼な呼び方を止めたところで私は騙されないぞッ!」
「……そこは素直に受け取らないんだ。失格エルフの自覚があるってことかクロエ。あと失礼な呼び方を止めような」
商人ギルド長のことになると過激になるクロエをなだめる。
ギルド長もギルド長の護衛も気にしてないみたいだし、職員さんたちは苦笑いでスルーしてくれてるけど。
「いえいえ、本心ですよ? ほうほう、それに乗り合い馬車の運用をはじめると。店子も乗客も無料だと」
今度は、行商人さんと俺が出した申請書類に目をつける商人ギルド長。
ふむふむと頷きながら書類をチェックしている。
「引退した行商人が御者を務めるわけですか。護衛はなし。ああ、貴方なら護衛なしで問題ないでしょうねえ」
「私のことを覚えてらっしゃるとは。恐縮です」
「ギルド長としては当然のことですよ。先日は病気の件もありましたしねえ」
お子様が無事でよかった、ほかの感染者もいませんでしたし、などと言いながら、ギルド長はじっと俺の目を覗き込む。
俺にそっちの気はない。
まあそういうことじゃなくて、見透かそう、見抜いてやろうってことなんだろう。
何しろアンナさんは商人ギルドにドラッグストアの営業を届け出てるし、赤死病患者と接触した人に渡す薬を配った。
アイヲンモール異世界店の店長として、俺がどう商売に繋げていくか注目してるみたいだ。
「それにしても……失格エルフことポンコツ騎士、優秀な薬師、護衛なしで行商してきた元行商人。本当に、新しい店長さんのところには優秀な人材が集まっているようですねえ」
「そうですね、本当にありがたいことです」
「これも新しい店長……ナオヤさんの人徳でしょうか」
「いや俺はまだ何も、たまたまです。こうやって募集をかけてますし、これからがんばります」
「ふむ。優秀な人材が揃っているゆえに、見えないこともあると」
「何かおっしゃいましたか?」
「いえいえ、こちらの話です」
顔に微笑を張り付けて、ギルド長と会話を交わす。
一緒に来た行商人のおっさんは慣れてきたのか、クロエをなだめる役にまわってくれた。ほんと優秀で助かる。
「そういえば、間もなく『どらごんせーる』でしたね。私も、運用される乗り合い馬車で向かいましょう」
「いつもの立派な馬車は使われないんですね。歓迎しますよ、一般のお客さまと同じように」
「それはそれは。楽しみですねえ」
おたがいにウソくさい笑顔で雑談する。
わざわざ無料送迎馬車に乗ってくるってのは敵情視察ってヤツだろう。
日本にいた頃は俺もよくやった。
近隣のスーパーだと顔バレしてるから、ギルド長と同じようにちゃんと「行きますよ」って伝えて。
「ふん! 『とおか! はつーかさんじゅーにっちどらごーんせーるっ!』を見てもその余裕な顔ができるといいなあ!」
「やめろクロエ、めっちゃ小物っぽい。いや実はお客さまとして歓迎する宣言なのか?」
まるでチンピラの捨て台詞のようなことを言い出したクロエ。
ギルド長は余裕の笑みを崩さない。
なんだかこっちが悪役になった気分だ。
「えー、じゃあ、お待ちしています。用事も終わりましたし、俺たちはこれで」
「そうですか。では、店子に応募があったら職員に連絡させましょう。……ないと思いますけどねえ」
なんだかモゴモゴ歯切れの悪いギルド長に挨拶して、俺たちは商人ギルドを出た。
何か言いたそうなクロエの口を俺が押さえて、行商人さんが抱えるように。
俺が店長になってから、17日目のアイヲンモール異世界店。
ようやく、公式にテナント募集をはじめました!
そういえば、けっきょくギルド職員さんが何を言いたかったのか聞きそびれた。
……大丈夫、きっと大丈夫だと思う。ダメなら条件を見直せばいいんだし。





