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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第八章 アイヲン「モール」なんだからやっぱりテナントを募集します!』

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第三話 むっ、ここは商人ギルドではないか! ゲスの本拠地に何の用だナオヤッ!?


「やっぱりそれなりに揺れるよなあ」


「ナオヤ、気にしすぎではないか? あれぐらい普通だぞ?」


 ポツリと漏らした独り言に、馬車と並んで歩くクロエが応えてくれた。


 アイヲンモール異世界店を出て、馬車は最寄りの街にたどり着いた。

 前にクロエが言ってた通り、のんびり走らせて30分といったところだ。

 歩くと一時間、往復で二時間かかることを考えると、やっぱり無料送迎馬車は走らせたい。


「タイヤ、サスペンション、でもそのへんは難しそうだしなあ。馬車は荷台を吊り下げて揺れを減らしたんだっけ?」


「ナオヤ? 聞こえてるか?……ダメだ、いつものヤツか」


 馬車に揺られて街の景色をぼんやり眺めながら考え込む。

 送迎馬車の快適性も大事だけど……。


 最寄りの街からアイヲンモール異世界店まで、馬車で往復一時間。

 満員でも10人ちょっとしか乗れないわけで。

 集客は一日あたり100人程度しか増やせる見込みがない。

 昨日までの16日間で客数平均104人弱だから、デカいと言えばデカいんだけど。


「……台数を増やすか、乗れる人数を増やすか。ドラゴンセールの時は、馬車が何台も連なってたもんなあ。でもまあ、まずはやってみないとわからない、か」


 そんなことを考えていると、馬車はスピードを緩めた。

 御者席の行商人さんが荷台に座る俺に振り返る。


「ナオヤさん、着きましたよ」


「ありがとうございます」


「むっ、ここは商人ギルドではないか! ゲスの本拠地に何の用だナオヤッ!?」


「だから商人ギルド長をその呼び方するのはヒドすぎるだろクロエ。それに、別にギルド長に用があるわけじゃないから」


「ま、まさかナオヤは『これで便宜を計っていただきたいものですねえ』などと言って、ゲスの手にかかる私を見物しようと! くっ、ころ——」


「おい俺のキャラ変わってるぞエロフ。だいたい、元店長なのに商人ギルドにその反応っておかしいだろ。いままでどうしてたんだ」


 言ってる間に、馬車は完全に停まった。

 馬車から下りる。

 御者兼護衛? だった行商人さんも、馬車から下りた。


「あれ? 駐車場、馬車を停めるところまで動かさなくていいんですか?」


「ええ、このままで大丈夫ですよ店長さん。ほら」


 行商人さんが指し示した方を見ると、商人ギルドの職員らしい少年が近づいてきた。

 行商人さんと二言三言かわして、少年が御者席に上がる。

 どうやら商人ギルドでは、馬車を駐車場にまわしてくれるサービスがあるらしい。お高いホテル並みのサービスだ。


「なるほど、こういうところは行き届いてると。ウチも参考にしないとな」


 うんうん頷いていると、クロエが俺の服の裾をつまんだ。


「……クロエは外で待ってるか? ふらふらして後で合流でもいいし」


「行く、行くぞ! ゲスの手からナオヤと行商人さんとアイヲンモール異世界店を守らねば! 聖騎士の! この私が!」


「なんか連れていった方がめんどくさい気がする。まあいいか、じゃあ行くぞ」


 鼻息は荒いのにへっぴり腰なクロエを連れて、俺と行商人さんは商人ギルドの中に入っていった。




「本当によろしいのですか? こちらとしてはありがたいお話なのですが」


「ええ、かまいません。『行商』は廃業します」


 商人ギルドのカウンターで、職員と行商人さんが話をしていた。

 内容は「行商の引き継ぎ」だ。


 本来、行商先はそれぞれの行商人が開拓するものなのだという。

 まわる農村や都市、仕入れ先、販売する商品。

 ノウハウは親から子、あるいは弟子に引き継がれることがほとんどで、新規で行商を立ち上げるのは大変な苦労らしい。

 商人ギルドの職員は、行商人さんの申し出に最初は戸惑っていたものの、いまではこぼれる笑みを隠しきれていない。


 行商人さんはいままでの苦労を捨ててまで、アイヲンモール異世界店のテナントになることを選んでくれた。

 つまり、親子三人の命運を、モールの責任者である俺が預かったわけだ。

 身が引き締まる。


「廃業とのことですが、馬車はどうされるのですか? 売られるようでしたら勉強させていただきます」


「馬車も馬も売りません。こちらで使う予定です」


「かしこまりました」


 行商人さんの拒絶に、商人ギルド職員は大人しく引き下がった。

 あ(・)の(・)商人ギルド長なら「おやあ? 何に使うんでしょうねえ?」なんて食いついてきそうだけど。


「店長さん。私の用事はこれで終わりましたよ」


 俺と行商人さんが街に来た目的は「無料送迎馬車の試運転」と「行商の引き継ぎ」、だけじゃない。

 行商人さんの声かけを受けて、俺は一枚の紙をカウンターに置いた。


「えっと、これの掲示をお願いしたいんです。商人向けの情報なら、商人ギルドに所属してなくても貼り出してもらえると聞きまして」


「ええ、内容次第ではありますが……拝見しても?」


「もちろんです」


「ナオヤ? それはなんだ? 商人相手にスキを見せるとカラダで払わされることになるぞ?」


「商人のイメージがおかしいだろ。クロエは旅で出会った悪徳商人のことは忘れろ」


 身を乗り出して覗き込んでくるクロエを押しのける。

 行商人さんに確認してもらったし、中身は問題ないはずだ。

 ざっとチェックした職員も頷いてるし。


「内容は問題ありません。ただ——」


「ただ?」


「この内容で掲示して募集しても、応募があるかどうか」


「え? 賃料は売上のパーセントですし、テ(・)ナ(・)ン(・)ト(・)の条件としては悪くないと思うんですけど」


 そう。

 俺が商人ギルドの掲示板に掲示をお願いした紙。


 内容は、テ(・)ナ(・)ン(・)ト(・)募(・)集(・)だ。


 街とアイヲンモール異世界店の間で無料送迎馬車を走らせれば、従業員も往復できる。

 そうすれば通えるわけで、テナントの応募もあるかと思ったんだけど。


「ネックになるのはどこでしょうか。場合によっては変更しても——」


 俺の質問は遮られた。

 商人ギルドの職員にではなく、座る俺の背後から聞こえてきた声に。


「おやあ? これはこれは、新しい店長さんではありませんか」


 にちゃっと粘つく声。

 振り返らなくてもわかる。


「出たなッ! 商人ギルドのゲ(・)ス(・)め!」


「失礼過ぎるだろクロエ。申し訳ありません、ウチの従業員が」


 うしろで「ガルルッ」とう(・)な(・)り(・)出しそうなクロエをなだめて、振り返る。

 ひらひらした服を着てゴテゴテとアクセサリーをつけて、でっぷりしたおっさんの脂ぎった笑顔が目に入る。

 現れたのは、商人ギルドのトップ、ギルド長その人だった。

 あいかわらず話し方も笑顔もうさんくさい。


「商人ギルドに何の用でしょうかねえ。おお、もしや街の外での商売を諦めて商人ギルドの傘下に——」


「ガルルッ!」


「どうどう! だからうなってどうすんだクロエ! エルフってみんなこんな感じなんですかねえ……」


 頭を抱える。

 商人ギルド長が出てくる前に話を片付けようとしたけど、そうそううまくはいかないみたいです。

 ……やっぱクロエは外で待たせておいた方がよかったっぽい。




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