第十一話 中食狙いのお惣菜に続いて、今日からドラッグストアスペースをオープンだ!
街に向かったアンナさんは不在の中での営業だったけど、俺が店長になってから13日目は何事もなく終わった。
来客数、141人。
売上、392,000円。
少しずつだけど、来客数も売上も伸びている。
ドラゴンセールをきっかけに、カツやハンバーグやビーフシチューがクチコミで広がっているんだろう。
アンナさんは夕方には戻ってきた。
アンデッドだしリッチだし一人で行かせるのは不安だったけど問題なかったようだ。
戦力的な不安じゃなくてバレないかが不安だっただけだし、いざとなれば『幻惑』の魔法もある。
アンナさんは門番や、行商人と接触した人に薬を飲ませられたと報告してくれた。
それだけじゃない。
「はあ、ギルド長からこれまで作ってた薬は販売許可が出たと。調査のために渡したのは一昨日の昼すぎでしたよね? 申請は昨日で……こんなに早くOKが出るものですか?」
「それだけ気にしていたのかもしれません。あ! 心配しないでくださいナオヤさん、『幻惑』の魔法は使ってませんからね?」
「ま、まさかアンナ! ギルド長に『早く許可が欲しければ、わかってますよねえ?』などと言われて! そのカラダを求められてたぶらかしたわけではあるまいな! ふ、不潔だぞっ!?」
「エロフはちょっと黙ってような、いま大事な話をしてるところだから」
俺が店長になってから13日目のアイヲンモール異世界店の営業をはじめる前に、アンナさんに確認する。
昨日は簡単に結果を聞いただけで終わりにしたから。
一昨日の夜の急病人と昨日一人少ない状態での営業で、俺もちょっと疲れが溜まってたようだ。
「商人ギルドのトップが、アイヲンモール異世界店のことを気にしている、かあ」
「違いますよナオヤさん。商人ギルド長はアイヲンモールではなく、ナオヤさんのことを気にしているのです」
「あの男がナオヤのことを!? ナ、ナオヤ、その、気をつけるんだぞ? いや私は決して男色を否定するわけではないが、あの男はさすがに」
「おいさっき黙ってろって言っただろクロエ。それにしても、完全に目をつけられてるな俺」
話が進まないしクロエを無視しようかと思ったけどさすがに否定する。
そんなウワサが広まったら困る。
「俺は普通に女の子が好きです。でもおばさ……おねえさま方だらけの職場だったせいで童貞です。学生時代? なんのことですか?」
「ど、どうしたナオヤ? 目が虚ろだぞ?」
「ナオヤさん! 帰ってきてくださいナオヤさん! 魔法、いえ、気付け薬を」
「……大丈夫? ビーフシチュー飲む?」
なんだか世界が揺れている。
ふと正面を見ると俺の襟元を掴んで揺さぶるクロエがいて、なんだかオロオロするアンナさんがいて、心配そうに首を傾げるバルベラがいた。
なんだこれ。
「ん? 俺はなにを……ああ、話の途中だったか。そういえばアンナさん、赤死病の薬のことはギルド長に説明したんですか?」
「は、はい。説明して、ナオヤさんたちに飲ませた薬の方をお渡ししています。調査のため、それから発症する人がいたらこの薬を飲ませて私に知らせてほしいということも伝えました。その、ナオヤさん、大丈夫ですか?」
「ええ、問題ありません。では赤死病の薬も値付けしないといけませんね。不治の病が治るとなったらいくらの価値があるのか」
「そっちの心配ではなかったんですけど……いえ、そうですね、そこも気にしないといけませんね」
昨日クロエと行商人のおっさんに聞いたところ、赤死病は滅多にない病気らしい。
そりゃそうだ、しょっちゅう発生するなら人類が滅んでたっておかしくない。
アンナさんの時は一つの街を滅ぼして、封鎖しなければ国が滅ぶかもしれなかったみたいだし。
「いくらで売るか。いや、いっそレシピを売ってしまった方がいいか? 潜伏期間や発生場所によっては買いに来るのが間に合わないわけで」
「ナオヤさん、レシピを売ってもこの薬は作れません。材料も貴重ですし魔法は私のオリジナルですし、なにより素材の一つにナオヤさんの国から持ち込んだ薬が必要で」
「あっ。ま、まあ、おいおい考えていきましょうか!」
「ですがあの街でほかに感染者が発生したら」
「……こ、今回はひとまず治験と宣伝ってことにしましょう! 効かなかったら大変ですし新薬ですからね! 考えるのが大変で投げ出したとかそういうことじゃなくて!」
言い切った。
アンナさんがほっとした表情を見せる。
アンデッドなのに、赤死病で死者が出ることを心配していたんだろう。
薬の値付け次第では、購入できない人がいるかもしれなかったから。
「よし!ってことで開店準備するか! また忙しくなるぞ!」
「うむ、そうだなナオヤ! なにしろ『どらっぐすとあ』は今日から開店で、私の回復魔法も提供するのだからな! 聖騎士の! この私が!」
「ふふ、張り切ってますねクロエさん。私もがんばります! なんたって私が『ドラッグストア』の担当者ですから!」
「……がんばる」
街の外にあるアイヲンモール異世界店では、本来は薬の販売許可もいらないらしい。
ただ、距離があると言っても街まで徒歩一時間、馬車で30分の場所だ。
商人ギルドに目をつけられてる身としては、波風を立てないために話は通しておいた方がいいと思って、俺は昨日、アンナさんに商人ギルドに行ってもらった。
アンナさんが作った既存の薬についてはあっさり許可が出た。
アンナさんはほかに、卸していた薬屋にも話をしてくれたらしい。
「中食狙いのお惣菜に続いて、今日からドラッグストアスペースをオープンだ!」
つまり、ドラッグストアは問題なくオープンできる。
「店長さん、私の方も準備できましたよ。お世話になっている身として、しばらくお手伝いしますね」
「ありがとうございます行商人さん。バイト代はちゃんとお支払いしますんで」
「ばいと……代? 給金ですか? いえいえ、私たちの宿代と考えていただければ。もちろん別途お支払いしますけれども」
それと。
もう二、三日安静にして様子を見る娘さんにあわせて、アイヲンモール異世界店から動けない行商人のおっさんは、この世界の日用品を卸してくれた。
道の先にあるいくつもの農村で販売するつもりだったから、馬車に在庫もあったそうで。
しかもヒマだからと、臨時バイトもしてくれるらしい。
「クロエ、この看板を道から見える場所に立ててきてくれ。ああ、お惣菜を宣伝する水着の看板は隠さないようにな?」
「くっ、あれはそのままなのか! 私を辱めて喜ぶとは! ナオヤはやはり変態だなッ!」
「エロフに言われるとか解せない。いいから頼んだぞクロエ」
「今回の看板はシンプルですね、ナオヤさん」
「ええ、直球にしました。アイヲンモール異世界店は街の外にあるわけで、外に出た人が日用品を買うとしたらこれかなー、と」
アンナさんが言う通り、この世界の日用品を売るために作った看板はシンプルだ。
文字は『忘れ物はありませんか? 当店で販売してます!』とだけ、あとは商品の絵を描いている。
ロープ、ナイフ、水を入れる皮袋と水筒、採集物を入れる布の袋、馬車の修理用品、クッション。
要は、徒歩や馬車で外に出た冒険者や行商人が忘れがちな小物だ。
『街でも売ってる商品だけどアイヲンモールで買う』としたら、忘れ物をした時ぐらいだろう。
まあ日用品は主力商品じゃないし、ついで買いが期待できればそれでいい。
「お惣菜、ドラッグストア、日用品……よしよし、少しずつ商品が増えてきたな」
「さすがナオヤだ! これで月間一億円の売上も達成できるに違いない!」
「いやキツイだろクロエ。ポジティブすぎるぞ前店長」
ともあれ。
俺が店長になってから、13日目のアイヲンモール異世界店。
この世界の薬や日用品、今日から新ジャンルの商品も販売スタートです!
……月間売上目標の一億円にはまだまだ届かないだろうけど。
次はどうするかなあ。





