第七章 プロローグ
短め&これまでの振り返りです
新章プロローグということで……
俺が店長になってから13日目のアイヲンモール異世界店、ドラッグストアと日用品の販売をはじめた日の営業は何事もなく終わった。
来客数、162人。
売上、377,000円。
来客数が伸びたのはアンナさんが街でドラッグストアの宣伝をしたからで、売上がいまいち伸びなかったのは、日用品など単価が低い商品だけを購入したお客さまがいたからだろう。
「どうだナオヤ! 新しい商品を販売したんだ、記録は作れたか!?」
「テンション高すぎだろクロエ。そうそううまくいかないって」
閉店作業をする俺に話しかけてきたのは、エルフのクロエだ。
この国の騎士であり、国が営業を認めたアイヲンモール異世界店に派遣された前店長。
見た目は美人なんだけど、性格がアレすぎて同僚からは「失格エルフ」「ポンコツ騎士」なんて呼ばれてるらしい。
「新商品は販売初日で大々的な告知もしてないしな。お金をかけない宣伝方法があればいいんだけど」
「な、なんで私を見たんだナオヤ? はっ、まさか! お惣菜を売り出した時のように私に恥ずかしい格好をさせて! 『この商品を買った人にはもれなく』などと言って! 肉欲に満ちた男たちに私を……くっ、殺せ!」
「妄想が飛躍しすぎだろエロフ。そりゃ水着の看板は効果あったけど」
クロエは、アイヲンモールがない世界で店長を任されて運営できるほど能力は高いのに、すぐエロ方面に飛躍する残念な発想の持ち主だ。
戦闘力も高く身体強化や回復魔法も使えて「聖騎士」らしいのに。
「すみませんナオヤさん……せっかく『ドラッグストア』をはじめさせていただいたのに」
「ああいえ、気にしないでくださいアンナさん。赤死病の特効薬を提供してもらっただけで充分すぎます」
妄想にくねくねするクロエを無視していると、アンナさんが声をかけてきた。
ちょっと顔色が悪いぐらいで普通に見えるけど、実はアンデッド、それもリッチって高位のアンデッドのアンナさん。
「街で赤死病が流行したら、商売どころじゃありませんから。売上アップは気長に考えましょう」
「ふふ、ありがとうございますナオヤさん。あの街では、もう二度と赤死病で死ぬ人が出ることはないでしょう」
アンナさんは、800年前この場所にあった教会にいて「聖女」と呼ばれていたらしい。
でも罹患したら致死率100%の伝染病で街が滅び、助けられなかったのが悔しくてリッチになったそうで。
ようやく赤死病の特効薬の開発に成功して宿願を果たしたけど、成仏することなく従業員として働いてくれてる。
裏からアイヲンモール異世界店を支える睡眠不要で疲れ知らずのスケルトンたちとゴーストと一緒に。
ぶっちゃけ、アンデッドたちがいなかったら店は営業できないだろう。
「……お腹すいた」
閉店作業をじっと見つめているのはバルベラだ。
見た目10歳ぐらいの女の子だけど、バルベラは見た目通りの存在じゃない。
ドラゴン。
幻想種と呼ばれる存在で、もちろんドラゴンの姿に戻ることもできる。
「……ビーフシチュー飲みたい」
「あー、普通の肉を使ったヤツならな。あとちょっとで仕事終わるから、もう少し待っててくれ」
「……わかった。見まわりしてくる」
アイヲンモール異世界店で販売をはじめたお惣菜。
10日に一度の『とおか! はつーかさんじゅーにっちどらごーんせーるっ!』で提供している目玉商品は、ドラゴンの肉を使ったお惣菜だ。
従業員として働くバルベラの肉を食べるのってどうなの、と思いつつ、バルベラも喜んで食べてるしまあいいだろう。多分いいと思う。いいんじゃないかな。
いまは行商人一家が滞在しているけど、正式な従業員は店長である俺と、この三人だ。
アンナさん配下のエプロン付きスケルトンとスケルトン部隊と着ぐるみゴーストは、うん、まあ、いるけども。
「私も見まわりと施錠に行くぞバルベラ! 聖騎士の! この私も!」
「ナオヤさん、私はドラッグストアの棚を確認してきますね」
アイヲンモール異世界店。
「モール」と言いながら、いまはスーパー部門とドラッグストアコーナー、日用品コーナーぐらいしかオープンしていない。
五ヶ月後までに月間一億円の売上をあげないと存続できなくて、潰れたら元の世界と繋がる〈ゲート〉が使えなくなるかもしれない。
そうすると、俺は元の世界に還れなくなる。
けっこう切羽詰まった状況だ。
なにしろ月間一億円の売上を達成するには、日に均して334万円の売上が必要だ。
でも今日の売上は377,000円。
「ヤバい。まだ時間はあるって言ってもヤバい。……さて、次は何を仕掛けようかなあ」
ちなみに俺が店長になった初日、何も手を打たなかった日の来客数は42人で、売上は16,000円だった。
客数は4倍、売上は20倍以上伸びている。
「あと8倍。売上8倍。……大丈夫、なんとかなる。まだ使ってないスペースの方が広いぐらいだし。『アイヲンモール』なのにテナント入ってないし」
自分に言い聞かせるように、励ますように、俺は独り言を呟いた。
ウサギの着ぐるみがひょこっと俺の顔を覗き込んでくる。
閉店作業をしながらブツブツ言う俺を心配してくれたんだろう。
「大丈夫大丈夫。よし、次はやっぱりテナント探しだな! はあ、日本なら『入りたい』って店から選べばいいだけなんだけど」
閉店後の薄暗いアイヲンモール異世界店に、俺の嘆きが響いた。
でもこの時、俺は知らなかった。
明日、とんでもないお客さまが来店されることを。
まあ知っていたところで特に何もできないんだけど。





