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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第十三章 テナントを集めてアイヲン「モール」異世界店、リニューアルオープンだ!』
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第十九話 よくできてますね。……工作機械もないはずなのにどうやって作ったんだこれ


 俺が店長になってから63日目のアイヲンモール異世界店。

 クロエの家族を中心としたエルフの団体さま、ファンシーヌの実家の商会との話し合いはひとまず終わった。

 初めてこんなに人がいるフードコートを移動して、俺は3つ目の団体さまのところに向かう。


「はあ、気が重い」


「がんばってください、ナオヤさん。元気が出るお薬は要りますか?」


「響きがヤバいですけど大丈夫ですかそれ!? いいですいいです、自力でなんとかします!」


「ふふ、冗談ですよ」


「だったらいいんですけどね……」


 アンナさんは口に手を当ててクスクス笑ってる。アンデッドジョークシャレにならないです。いや、この場合は異世界薬師ジョークか?

 ともあれ、アンナさんのおかげで緊張がほぐれた。気がする。


 今回の商談にあたって、アンナさんは俺をサポートしてくれてる。

 いつもなら元店長のクロエか、理解が早いファンシーヌさんがいろいろアドバイスくれるんだけど、二人はひさしぶりにご家族との歓談中だ。

 家出娘と、勘当されたものの戻った?許された?娘の、積もる話を邪魔する気はない。

 クロエがチラチラこっち見て助けを求めてるっぽいけど邪魔する気はない。


「お待たせしました」


「いえいえ、お気になさらず。商談がうまくいったようでなによりですねえ」


 3つ目の団体さまの前に座ると、代表らしき人は何か企んでる顔でニンマリ笑った。

 代表らしき人というか商人ギルド長だ。


「それで、今日はどんな用でしょうか?」


「おやおや、時節の挨拶もなく本題ですか。まあいいでしょう」


「はあ……」


「なに、たいしたことではありません。テナント希望者を連れてきたのですよ」


「えっ?」


「この方々です」


 ギルド長が言うと、隣のテーブルに座ってた人たちが立ち上がってワラワラ近づいてきた。

 全員、背が低い。

 けど立派なヒゲがある。


「これを」「まず見てくれ」「いい仕事だ」「だが元には勝てん」「どう作ったのか」「魔鉄とも違う」「聖銀か?」「色が違う」


「あの、落ち着いてください? 前にアイヲンに来たドワーフさんですよね?」


「ええ。彼らはここで販売された商品に感銘を受けたそうです。いい刺激になったようですねえ。今後は、作った品を販売しながら腕を磨きたいと」


「はあ。あ、じゃあギルド長とは別なんですね。合計4団体もいたのか」


 わちゃわちゃ喋るドワーフたちが持ってきたのは、猫車——手押し一輪車——折りたたみ式スコップだった。

 たしかに、前に販売した時はドワーフも買ってってたっけ。同じ人なのかな? 口ヒゲと顎ヒゲに隠れた顔は見分けづらい。


「うわ、よくできてますね。……工作機械もないはずなのにどうやって作ったんだこれ」


「勉強になった」「発想に刺激を受けた」「まだあるだろう?」「課題を」「腕を磨く」「ついでに販売する」


「ふふ、落ち着いてくださいみなさん。テナントに入っていただければその機会はたくさんありますよ。きっと、みなさんが思うよりもっと」


「アンナさん?」


「ドワーフがこんなに喋るなんて、興奮している証拠です。見たことのないものを見て、作ったことのないものに挑戦する。それがうれしかったんですよ」


「それで『課題を』なのか。アイヲンにはもっといろいろあるはずだと」


「そういうことだと思います」


 アンナさんの言葉にキラキラ目を輝かせた小柄なヒゲづらおっさんたちが頷く。頷いてぐいぐい迫ってくる。


「じゃ、じゃあ条件なんかはあらためて説明しますんで、いったん落ち着いてください。そのあとはまた興味ありそうな物を用意しますからね?」


「おおっ!」「感謝する」「興味ありそうな物」「武器か?」「防具か?」「向こうに鍋があった」「機構付きの」「なに!?」「待て」「話は任せた、代表」「任せた」「行くぞ!」「おお!」


 ドワーフさんたちは一人を置いてわーっと去っていった。

 フードコートの一角にひしめく。


「あーそっか、そこは『オープンキッチン風』店舗だからガラス越しに中が見えるのか。営業してなくてよかったかもな」


 ガラスにべったり張り付いて、「あれはなんだ」と話し合っては推測してる。

 あの勢いだと、営業してたらズカズカ中まで入っていったかもしれない。施錠しといてよかった。


 一人残されたのは話し合いのためらしい。

 イスに座ってがっくりうなだれてる。


「詳しいことはあとにしましょうか。ただテナント料と、何を売りたいのかだけ話をさせてください」


「感謝する!」


 代表と呼ばれていたドワーフのおっさんのテンションが一気に上がる。

 ごっつい手でガシッと握手される。

 隣のギルド長はニヤニヤしてる。


 ともかく、大事なポイントだけは説明して聞き出した。

 さっきも話してたように、ドワーフは俺が元いた世界の製品が気になったらしい。

 買ってみて、試行錯誤して作ってみて面白かったのだとか。あと精度を求められて腕が上がったと。

 それで「ほかにももっとあるだろう」と俺を監視——もとい、近くにいることにしたと。


 販売するのはこっちで再現した猫車や折りたたみ式スコップ、あとは鍋や包丁、工具なんかのいわゆる「金物」を売るつもりだそうだ。

 武器や防具は修理だけらしい。作るには設備が足りないとかで。

 そうですね、さすがにアイヲンモールに炉は作れません。消防法、はこっちにないんだった。


「地下か、従業員用アパートの近くに建てるのもありだな。敷地の中ならうるさく言われないらしいから——あ、音がうるさいか」


 ざっと話を終えて、ドワーフはさっそく仲間のところに走っていった。

 キッチンってドワーフの気を引きそうなものあったかな。

 魔石コンロはこっちのだし……あ。食事作るときに使った包丁や圧力鍋しまってなかった。それか!


「紹介ありがとうございました。おたがい良い話になりそうです」


「それはなによりです。血縁も地縁もなくドワーフが店を出したがるなど、めずらしい話ですからねえ」


「はあ。申し訳ないんですけど俺はここで失礼しますね。一気に3つもテナントとの話を進めないとなもので」


「おやぁ? 私との話はいいのですかぁ?」


「ギルド長と、話? 何かありましたっけ。あ、テナントに書類の提出が必要とかそういう」


「私の商会も、テナントに入ろうかと思いましてねえ」


「ああなるほど、そういう話でしたか………………は? あれ? 聞き間違いかな?」


「私の商会も、テナントに入ろうかと思いましてねえ」


「え。ギルド長って商人ギルド長なわけで、業界組織のトップが現役で経営者って……ま、まあ日本でもありえるか。『ギルド長』のイメージが強いだけで商会やっててもおかしくないのか」


「落ち着いてくださいナオヤさん。深呼吸、深呼吸です。落ち着く薬を持ってきましょうか?」


「こっちの世界は元気が出る薬も落ち着く薬もあるんだなあ。いいです。落ち着く薬の詳細も必要ないです。聞かない方がいい気がするんで」


 いつもと変わらないアンナさんの態度で、ちょっと落ち着けた気がした。



 俺が店長になってから63日目のアイヲンモール異世界店。

 アイヲンモールを目的地にした行商隊(キャラバン)行商隊(キャラバン)じゃなくて、テナント希望者の群れだったようです。

 それも、3つの団体さまかと思いきや4つの。

 ……4つ目は面倒そうな気がするなあ。条件合わないって向こうから断ってくれないかなあ。




ちょっと遅くなりました。

次話は10/23(金)18時更新予定です!


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