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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第十三章 テナントを集めてアイヲン「モール」異世界店、リニューアルオープンだ!』
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第十六話 三脚使ってタイマーで撮ろう。隊長も入るといい。……ほかの、目撃されても平気な格好してるみんなも


 俺が店長になってから49日目のアイヲンモール異世界店。

 まだ開店前の早朝、俺は店舗正面入り口前の馬車まわし(ロータリー)の前にいた。


「はい、じゃあ撮りますよー」


「うむっ! どうだナオヤ、凛々しく撮れているか?」


「お姉ちゃん、これは?」


「動かないでください、ファンシーヌさん。はい、これでバッチリです」


「わあ! お母さんかわいくなってる!」


「お化粧なんていつ以来でしょうか。ありがとうございます、薬師さま」


「……撮る?」


「ありがとうバルベラ。俺が入るのは最後でな。その時は全身甲冑(フルプレートメイル)隊長にでも撮ってもらおう」


 クロエと妹のカロルさんが並んだ姿を写真に撮る。

 中身は残念でも、クロエの見た目はいい。

 さすがエルフ。

 悔しいけど凛々しく撮れてる。


 何枚か写真を撮ってから、とことこ横にやってきたバルベラの頭を撫でた。


 俺たちが早朝に集まったのは、ドラゴンセール前の準備のため、じゃない。

 クロエとカロルさんのエルフ姉妹を撮るためだ。

 それと。


「じゃあ次はファンシーヌさんとコレットで」


「はいっ! 行くよ、おかーさん!」


「ふふっ、あれほど精緻な肖像画を描いていただけるなんて、楽しみねコレット」


 ファンシーヌさんとコレット親子も撮影する。

 ここに来た時はやつれていたファンシーヌさんは、アンナさんの薬やアイヲンの食事で少し肉付きがよくなった。

 アンナさんの化粧もあわさってだいぶ健康的に見える。


「撮りますよー。……尻尾がブレる。コレット、尻尾の振りを抑えて……無理か」


 犬耳獣人のコレットの尻尾がぶんぶん振れる。

 元気になった母親と写真が撮れることにご機嫌らしく、止まる様子はない。

 諦めて写真を撮る。

 うん、まあ楽しそうなことが伝わっていいと思う。


「よし。じゃあせっかくだし、みんなで集合写真撮るか!」


 ひと通り撮影を終えてそう声かけると、隊長が近づいてきてくれた。

 見られてもいいように、今日も全身甲冑(フルプレートメイル)を着込んでる。もちろんフルフェイスの兜だ。むしろそこが大事なんで。


「いいよ、三脚使ってタイマーで撮ろう。隊長も入るといい。……ほかの、目撃されても平気な格好してるみんなも」


 ガシャッと大きな音を立てて隊長が止まる。驚いてるっぽい。

 俺の頷きを見て、アンナさんが頷くのを見て、隊長はすらっと剣を抜いた。高く掲げる。

 と、すぐに全身甲冑(フルプレートメイル)のスケルトン部隊が現れた。

 声が出せないスケルトンなりの合図だったらしい。

 遅れて着ぐるみゴーストもやってくる。踊りながら。


「ありがとうございます、ナオヤさん。みんなうれしそうです」


「……今度あらためて、大丈夫な時間に大丈夫な場所で、問題ないメンバーで集合写真撮りましょう」


「わあ! 本当に、ありがとうございます」


「裏方としてもお世話になってますからね。それで喜んでもらえるなら。ただ……」


「ただ?」


「その、映らない子はどうしようもありませんからね? そこは勘弁してくださいね?」


「ふふ、わかりました」


 セットは終わった。

 タイマーのスイッチを入れて、並ぶみんなに駆け寄る。


「どこ行くんだナオヤ? そっちは端だぞ?」


「店長さんは真ん中ですよ!」


「おい待て引っ張るなわかったから、あ、ヤバ」


 なんとなく後列端に行こうとしたらクロエに襟をつかまれた。

 バランスを崩したところでシャッター音が鳴る。

 目をつぶった人がいないように、保険でかけておいた連写で。


「……まあいいか。これはどこに送るわけでもないしな」


 みんながきっちり写ってるより、この方がウチの店舗らしい気がするし。




「では、頼まれました」


「本当にありがとうございます、カロルさん」


「いえ、通り道ですから。お姉ちゃんがお世話になった人の役に立てるならなんてことないです」


「マトモだ……クロエの妹さんなのにマトモ、というかいい子だ……」


「ナオヤ!? わ、私だってマトモだぞ! いや、マトモ以上だ! なにしろ聖騎士なのだからなッ!」


「カロルさん、これ、写真です。手紙と一緒にクロエさんの実家に届けてあげてください。それとこっちはエルフの里あてです」


「ありがとうございます、ナオヤさん。父や母も安心するでしょう」


「本当はまとまった休みを取らせてクロエを同行させられればいいんですが」


「さ、さあナオヤそろそろ働かなくては! なにしろ明日はドラゴンセールなのだから! はあ忙しい忙しい!」


「汗すごいぞクロエ。あ、逃げた」


「はあもうお姉ちゃんは……ナオヤさん、姉をよろしくお願いします」


「もちろんです。ああ見えて頼りになるんですよ」


「ふふ、評価されてるんですね」


 カロルさんは安心したように微笑んだ。

 ファンシーヌさんが託した手紙と、撮影が終わって急いでプリントした写真を鞄にしまう。


「じゃあ私はこれで。また来ますね!」


「はい。またのご来店をお待ちしています」


 最後にさっと手を振って、クロエの妹のカロルさんは旅立っていった。

 アイヲンモール異世界店最寄りの街はスルーして、まず王都へ。

 そこでファンシーヌさんの実家の商会に手紙を届けて、エルフの里へ向かう予定だ。


 家出娘・クロエの妹さんの来訪でどうなることかと思ったけど、マトモでいい子で本当によかった。

 バルベラのご両親なんて、隠れて来てもらわないと大騒ぎになるからなあ。

 なんだろ、従業員のご家族が来ると毎回トラブルになってる気がする。


「…………アンナさんは、ご家族は亡くなられてますもんね?」


「ナオヤさん? どうしました?」


「すみません変なこと聞きました。なんでもないです」


「はあ。ならいいんですけど……お疲れなら特製栄養ドリンクを差し上げましょうか?」


「いえそれはいいです。前に飲んだ時は二日寝れなかったんで。反動もヤバかったんで」



 俺が店長になってから49日目のアイヲンモール異世界店。

 クロエの家族を送り出して、ファンシーヌさんの実家にも連絡して。

 ありがたいことに、テナント候補はまた増えた。

 目標の月間売上一億円も近づいてきた、かもしれない。

 期限は半年ってことはあと四ヶ月ちょっとかあ……間に合うかな。そんな弱気でどうする俺、間に合わせるんだ! なにしろ間に合わせないと還れなくなるかもしれないからな!





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― 新着の感想 ―
[良い点] 待ってました。 無事に帰ってきてくれてうれしい。 [気になる点] なんかすっごくまとめみたいな話でしたけど、まだ続きますよね? [一言] コロナに急激な気温の変化と体調を崩しやすいと思うの…
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