第十七話 キャラバンじゃないならあれはどこに行くんだろ。あ、先触れが来たってことはウチに立ち寄るとか?
俺が店長になってから63日目のアイヲンモール異世界店。
クロエの妹さんを送り出してから二週間、二回のドラゴンセールは盛況で終わった。
ただ、猫人族と港町のテナントはまだオープンしてない。
なにしろ——
「おー! お似合いだニャ! すごく男前にニャった!」
「これニャら意中の女性も体をニャすりつけてくれるでしょう」
「それ猫人族の習性じゃないですかね」
「ええっ!? 好きニャ相手にくっつくのはみんニャ一緒じゃニャいの!?」
「そうなのですか。まだまだ勉強が足りませんね」
「近い距離感で褒めまくる接客もあるので、それはそれでいいと思いますが……」
——テナントとはいえ、「アイヲンモール」に入っている以上は一定レベルの接客が求められるからだ。
「じゃあ人族の習慣を学べばあとは問題ニャい?」
「いえ、方向性を変えた方がいいと思います」
「まあ、なぜでしょう?」
「いまアイヲンモール異世界店にいらっしゃるお客さまは、主に冒険者や商人です」
「たしかに、見かけるのは旅慣れた人ばっかりだニャ!」
「それがどうつながるのでしょうか?」
「お二人の扱う服飾品には微弱とはいえ〈速度上昇〉や〈精神力上昇〉なんかの効果があるわけですから、デザインではなく機能性をウリにした方が売れると思いますよ」
「おー! ニャるほど!」
「魔法陣の効果を一番のウリにして、さらに『軽く』『お洒落』を付加価値にすれば、冒険者や街の外に出る商人には引きになるんじゃないかと」
接客だけじゃない、売上をあげるためのアドバイスもする。
嫌がる人もいるだろうけど、猫人族の二人は前向きだ。
「おう、店長さん! ウチらはどうなんだ? まァ港町で商売やったことあるヤツばっかり連れてきたかンな、問題ねえと思うけどよ!」
「らっしゃい! 珍味に珍品、舶来品、めずらしいモンが入ってるよ! 見てってくれそこの兄ちゃん!」
俺たちの話が気になったのか、向かいの店から竜人族のクアーノさんが声をかけてきた。
店員の、ガタイがよくて人相の悪いおっさんが陽気な声で客引きシミュレーションしてくれる。
港と威勢のよさは切り離せないんだろうか。
うん、なんか、こう、めずらしい禁制品を売りつけられそうだ。そんなの売らせないけども。
「これはこれでいいんじゃないでしょうか。威勢よくて港町っぽいと思います」
「おお、そうか! さすが店長さん、話がわかるねえ!」
「欲を言えばもうちょい人当たりのよさそうな人の方がいい気もしますけど……冒険者や商人さんがお客さまだし大丈夫だなきっと。うん。大丈夫大丈夫」
「ん? どうした店長さん?」
「いえ、なんでもないです」
人を見た目で判断しちゃいけない。
にこやかな港町の男は受け入れられるはずだ。冒険者さんはもっと厳つい見た目の人も多いし。
看板や店内装飾も整ったし、これなら近いうちにオープンできるだろうなー、ひとまずプレオープンでテスト営業してみて、なんて考えてたところで。
「ナ、ナオヤッ! 大変だ!」
「どうしたクロエ? またモンスターでも出たか?」
「それどころじゃないんだ! とにかく早くきてくれ!」
「モンスターどころじゃない……? 嫌な予感しかしないんですけどぉ……」
テナントスペースに駆け込んできたクロエに手を引かれて外に急ぐ。
心配したのか招集がかかったのか、途中、全身甲冑スケルトンも合流してくる。
正面入り口を出たところでは、アンナさんとファンシーヌさんが困った顔で街道を見つめていた。
「ナオヤさん。来てくださいましたか」
「どうしたんですか? 街道で何かありましたか?」
「いえ、道はいつも通りなのですが……」
アンナさんがチラッと街道の先を見る。
港町じゃなくて、最寄りの街の方面だ。
ひと組の冒険者が歩いてるぐらいで特に異常はない。
異常はな…………あれ?
「なんでしょう、道の先に土煙? 街の方からだしモンスターじゃないんだよな?」
「ああ。先ほど商人ギルドから先触れも来たのだ、モンスターではないぞ!」
「なるほど、それで俺が呼ばれたと。それであれは」
アイヲンモール異世界店から最寄りの街につながる道の先。
土煙は徐々に近づいてくる。
モンスターじゃないって言っても危険がある世界なんだ、緊張しながら目を凝らしていると。
土煙の先頭が見えた。
「馬車? いくら土の道だからってそれだけで土煙は……ん?」
土煙を巻き起こしているのは馬車だった。
四頭立ての、行商なんかでは見ないような立派な大型馬車だ。
けど、一台だけじゃない。
大型馬車が数台。
ほかにも二頭立ての街でよく見かけるタイプの馬車、馬に曳かせた荷車に、囲むように護衛の一団。
馬車は10台以上いるだろうか。
「行商隊ですか? 王都から港町に向かうとか」
「いいえ、ナオヤさん。あれはキャラバンではありません」
アンナさんの声が硬い。
ファンシーヌさんは返事もなく、かたわらで耳をピクピクさせるコレットの頭を撫でている。
隊長をはじめとする全身甲冑スケルトン部隊は、俺たちを守るように周囲に並ぶ。
気配を感じて見上げると、屋上からはバルベラが道を見下ろしていた。よかった、人間形態だ。
「行商隊じゃないならあれはどこに行くんだろ。あ、先触れが来たってことはウチに立ち寄るとか?」
「いいえ、ナオヤさん。彼らの目的地はここです」
「は?」
「う、うむ。なんというか、いろいろ重なったそうでな」
「なんだその反応。クロエの関係者か?」
「わ、私のせいではないぞ! だからそんな冷たい目で見るな、まるで『責任を取ってもらわないとなあ。体で』とでも言っているかのようではないか! くっ、殺せ!」
「『私のせいじゃない』ってわりに責任は取らされるのか。つまりクロエも関係してると」
「申し訳ありません、ナオヤさま……問題がありましたら私がこの命をもって贖います…………」
「やめてください!? トラブルがあったとしても死ななくていいですからね!? 異世界の発想が怖い!」
なんかこう、クロエとファンシーヌさんの雰囲気がいつもと違う。固い。コレットも静かだ。
三人が原因かな、だったらなんだろ、なんて考えてるうちに、先頭の馬車がアイヲンモール異世界店の敷地に入ってきた。
すぐに馬車まわしまで進む。
「あれ? 先頭の馬車は見覚えがあるような。あれはたしか」
記憶を漁っていたところで、ひときわ豪華な四頭立ての馬車の扉がガチャっと開く。
「おやおや、これはこれは。出迎えいただけるなんて、いい心がけですねえ」
ニマニマ笑いながら下りてきたのは、でっぷり太った商人ギルド長だった。
ああはい、馬車に見覚えあるはずですね。
けどギルド長がなんの用事だろ、それもこんな商隊を率いて。
街まで歩いて一時間弱、普通の馬車で30分かそこらなんだから、用があるなら都度でやればいいのに。
「ギルド長、それでこれは」
「クロエッ! クロエはやればできる子だって信じていたぞ!」
「ごめんなさいね、クロエ。カロルに聞いてこの人ったら飛び出してきちゃって」
「父さま、母さま……」
「あーなるほど、クロエのところの。じゃあうしろはエルフの関係者か?」
「ファンシーヌ! すまなかった! 私が意地を張らずに二人を認めていればこんなことには!」
「父さん。私はいま、しあわせですよ。ほら、コレット」
「はじめまして、お祖父さま」
「お、おじっ!? ではこの子が私の孫なのか!? 天使ではなく!?」
「そっかあ。ファンシーヌさんのところも一緒だったかあ。それで人数が増えたと」
「くふっ。それだけではありませんよ、ナオヤさん。けれどここで話すことではありませんねえ、場所を変えてはじめましょうか。商談を」
「は、はあ」
涙を流して抱擁する二つの家族の横で、ギルド長はにんまりと笑っていた。
俺が店長になってから63日目のアイヲンモール異世界店。
あいかわらず、従業員の家族は大騒ぎを運んでくるようです。





