第十一話 私がカロルにお惣菜をオススメするのだ! イートインスペースで食べていくといい!
俺が店長になってから48日目のアイヲンモール異世界店。
俺はいま、エルフさんを案内していた。
エルフにして国の騎士でもあるクロエ、ではなく。
「さあさあ見ていってくれ! この小さな袋の中身を取り出して……パッと広げると、イスになるのだ!」
「おおっ、すげえ仕組みだな。荷物になるんでいらねえけど」
「むむっ! ではこれはどうだ! この薄い布は、なんと! 水を弾くのだ! 雨具として、敷き布としてもオススメだぞ!」
「マジかよ。けどお高いんだろ?」
「ふぅははは、安心するがいい! 革や布よりもお安いんだぞ!」
「……な、なんだかお姉ちゃんが生き生きしてます」
「クロエは実演販売向きですね。明るさと勢いでバンバン売ってくれてます。特に変わった商品に強いですね」
「へえ……」
「里ではこういう感じではなかったんですか、カロルさん?」
「そう、ですね。静かでした。いつも何か考え込んでいるようで……」
「この値段でこの品質は素晴らしい。荷台をおおえる大きさの物はありませんか?」
「荷車か馬車用か? それならこっちがオススメだぞ!」
「クロエが静か!? ……自信がなかったのかもしれませんね」
クロエは実演販売で、お客さまにピクニック用品を売り込んでる。
あいかわらず折りたたみイスの売れ行きはいまいちだけど、ピクニックシートやブルーシートは〈小規模転移ゲート〉で入荷した端から売れていく。
いまも、冒険者や商人さんがこぞって買ってる。
「クロエは、エルフなら得意なはずの弓も、精霊魔法も使えないんだと言ってました。里にいた頃は、まわりのエルフと比べて悩んでたのかもしれませんね」
「お姉ちゃん……」
「ちなみに、カロルさんは弓と精霊魔法は」
「好きですし、得意です。同年代では、一番か二番だと思います」
「クロエの妹さんが見た目も能力もエルフすぎるエルフな件。いやクロエも見た目はエルフだけど」
「お姉ちゃん……」
カロルさんはじっとクロエを見ている。
そのクロエはお客さまに囲まれて商品を売りまくってる。天才実演販売士か。あ、もう売り切った。
「クロエには助けられてますよ。計算もできますから、レジも任せてます」
「れじ?」
「えーっと、『機械を使ったお会計』も任せてます。いまでは使いこなしてくれてますよ」
実演販売で購入するお客さまのお会計をするのもクロエだ。
けっこう並んでたけど、会話することで列が和やかに解消されていく。
ほんと、発想が残念なだけであとは優秀なんだよなあ。
売り切ったクロエはささっと販売スペースを片付けてこっちにやってきた。
実演販売しながらチラチラ見てたもんなあ。やっぱり気になるんだろう。
「どうするクロエ、ちょっと早いけど休憩入るか? なんなら妹さんと一緒にお昼を」
「いや、やめておこう! かわりに私がカロルにお惣菜をオススメするのだ! イートインスペースで食べていくといい!」
「いーといんすぺーす?」
「食事できる場所です。あそこの特設ブース……屋台で売ってるものを買って、空いてる席に座って食べられるようにしてるんですよ」
「なるほど……」
「さあ行くぞカロル! 何が食べたい? 肉か? アイヲンの肉料理は美味しいのだぞ! なんとドラゴン肉さえも売っているのだ!」
「『ドラゴンセール』の時だけだけどな。カロルさん、お昼代は俺が持ちます。好きなものを食べていってください」
「どらごん…………?」
張り切るクロエに先導されてイートインスペースに向かう。
カロルさんは「ドラゴン」と聞いて足を止めた。
「あの、大丈夫ですか? まさかエルフって菜食で肉を食べないとか」
「いえ、そんなことはないのですが……どらごん? あのドラゴンですか? 本物の?」
「そう、アイヲンでは本当のドラゴン肉を売っているのだ! なにしろここにはドラゴンであるバル——もがっ!」
「どうどう、落ち着けクロエ。それは聞かれたらマズいんじゃないか? ん? ご両親はエルフの里を知ってたし大丈夫なのか?」
「な、なにをするナオヤ! はっ! ナオヤはまさか私の口をふさいで! 『妹さんには聞かせたくないよなあ?』などと言いながら私を責め、責め……くっ、殺せ!」
「するか! 妹さんの前でなに言ってんだ!」
「ふふっ。楽しそうですね、お姉ちゃん」
「楽しそうか? 実は妹さんもズレてらっしゃるのか?」
両手に花、のはずなのにそんな気がしない。
すぐイートインスペースに着いて助かった気がする。
なんだろ、二人とも見た目はキレイなエルフなのに。
「さあカロル、どの肉料理を食べたいのだ!?」
「肉料理に限定するなエルフ。カロルさん、ここには港町直送の海の幸を使った料理もありますよ。好きなものを選んでくださいね」
「わ! じゃあ海のお魚にしようかなあ」
「せっかくなら何品か食べたらどうですか? 小盛りサイズも売ってますので」
「そうします!」
カロルさんは目を輝かせてお惣菜を選ぼうとしてる。
ビーフシチューにハンバーグ、カツ、魚の塩焼きにブイヤベース。
クロエと、お惣菜コーナーを担当してるアンナさんに説明されてはふんふん頷く。
目移りしちゃって選べないらしい。
食べるのが好きなところはクロエと似てるっぽい。
けっきょくカロルさんはクロエ一押しのハンバーグと、海の魚が食べたいってことで塩焼きを選んだ。
仕事に戻るクロエと別れて、二人で席につく。
料理は、気をきかせたアンナさんが出来立てを作ってくれるらしい。
「どんな味なんでしょうか、楽しみです。ところでナオヤさん」
「はい、なんでしょう?」
「お料理を販売されてた方、人族じゃありませんよね?」
「えっ」
「魔力の質が違います。見た目は人族ですから、当てはまりそうなのは——」
「気にしないでくださいほら! アイヲンはいろんな種族の人が働いてますから! だから猫人族のお二人もここで店を出したいって言ってくれたわけですしね!」
「は、はあ」
「……おまたせ」
「あっほら料理が届きましたよ! 冷めないうちに食べましょう! 運んでくれてありがとうバルベラ!」
アンナさんの正体に気づきかけたカロルさんをごまかす。
ありがとうバルベラ。ナイスタイミング。
ちょうどいい高さにあったバルベラの頭を撫でる。
バルベラが目を細める。尻尾が動く。
カロルさんが首をかしげる。
「その角は……? 見覚えのある形で……それに、尻尾?」
「いやあ美味しそうだなあ! ハンバーグも魚の塩焼きも! 熱いうちにいただきましょうね!」
俺が店長になってから48日目のアイヲンモール異世界店。
クロエの妹さんはマトモっぽいけど、マトモっぽいだけに不安もある。
クロエがちゃんと働いてるかってところは大丈夫だと思うんだけれども。
バルベラと、アンナさんかあ。
ドラゴンとアンデッドがクロエの同僚だってところはOKなんだろうか。OKだといいなあ。
あ、料理は美味しくて大満足だったみたいです。やったあ。