第一話 さあて、ひさしぶりの街だ! テナントに興味あるのはどんな人かなあ!
俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから41日目。
朝のうちに『ドラゴンセール』の片付けを終えて、開店後のバタバタを越えた俺は、最寄りの街に続く街道にいた。
「乗せていただいて申し訳ありません。本来はお客さま用の無料送迎馬車ですのに……」
「気にしないでください、ファンシーヌさん」
「うむ、この時間から街に戻るお客さまはいらっしゃらないからな!」
「その通りだけども。断言されるとそれはそれで悲しいというか」
今日は歩きじゃない。
行商人さんが操作する無料送迎馬車に乗って、ファンシーヌさんとクロエと一緒に街に向かっていた。
「もしファンシーヌがいなければ! ナオヤは『ほらほかに誰もいないんだし、なあ?』などと私を襲ったに違いないッ! くっ、殺せ!」
「誰が御者してると思ってるんだ。行商人さんがいるだろ。そもそも襲わないから」
「うふふ、騎士さまったら。けれど……体が弱く迷惑をおかけしているのに、働きはじめてすぐお休みをいただくなんて……」
「むしろなかなか休ませてあげられずすみません。街に住んでたんですからね、そりゃ街に用事ぐらいありますよね」
いくら体調が安定してきたとはいえ、ファンシーヌさんが往復二時間近く歩くのはつらいだろう。
今日に限らず、従業員は無料送迎馬車を使っていいことにしよう。
休みを……ちゃんと取らせられればだけど……。
「多少揺れてますけど、体調はどうですか? キツそうなら言ってくださいね」
「ありがとうございます、ナオヤさん。どうか私のことは気になさらずに……」
「遠慮はいらないぞファンシーヌ! 調子が悪ければ私が〈治癒〉しよう! 聖騎士の! この私が!」
「いつもありがとうございます、騎士さま。けれど本当に平気なのです。薬師さまから、今日一日を元気に過ごせるお薬もいただいてますし……」
「それ大丈夫なヤツですかね、なんか響きが怖いんですけどアンナさんなに渡してんだ」
ここにはいないアンデッドの薬師にクレームをつける。
病弱なファンシーヌさんが一日元気に動けるようになる薬って大丈夫なんだろうか。大丈夫だって信じてる。
ところでその薬、アイヲン社員のみなさんに売れそうですね。日本に輸出できないでしょうか、いえ冗談です。冗談ですとも。
「くふふっ、それにしても楽しみだなナオヤ! 『てなんと』に入るのはどんな人だろうか!」
「落ち着けクロエ。興味を持ってくれただけで、まだ決まったわけじゃないんだぞ」
そう、俺が街に向かってるのは、市場調査でも視察でもない。ダンジョンにも行かない。
昨日、商人ギルドのギルド長から呼び出されてのことだ。
商人ギルドの掲示板にずっと貼り出していた、テナント募集の話を聞きたい人がいるって。
「だがあの商人ギルドのゲスが何を言い出すかわからないからな! 気をつけるんだぞナオヤ!」
「いやギルド長は、いつも変なこと言ってるわけじゃないからな? 規則に厳しいのと、人への評価が辛いだけで」
「ナ、ナオヤはあの男の肩を持つのか!? はっ、まさか! あのゲスと手を組んで! 『さあて、売り物の味見をしないとなあ』などと私を襲って売り飛ばそうと! くっ、エルフは辱めに屈さぬと知るがいい!」
「はいはいわかったわかった。……料理には屈してたけどな」
いつもよりクロエのテンションが高い。
アイヲンモール異世界店初のテナントが入るかもしれないからだろうか。
なにしろ、アイヲン「モール」って名乗ってるのにテナントなしで「モール」になってなかったもんなあ。
従業員用アパートができるまでは、テナントスペースが俺の住居だったわけで。
「だいたいクロエはこの国の騎士なんだろ? ちゃんとしてたら問題ないし、相手も変なこと言ってこないだろ」
「むっ、たしかに! おおっ、だからナオヤは私に同行を頼んだのだな! 聖騎士の! この私を頼って!」
「まあ、ぶっちゃけ期待してる部分はある。国の騎士さまが同席してる商談で、騙そうとするヤツはいないだろ。国家権力ばんざい」
「お、おお……ナオヤが……本当に、この私を頼って…………」
「ああ。頼りにしてるぞ騎士さま」
「うう、ぐすっ、ま、任せておけ、うう……」
「騎士さま、よろしければこの布をお使いください。洗っていますからきれいですよ」
「ありがとうファンシーヌ……」
素直に伝えると、クロエはぐすぐす泣き出した。
すかさずハンカチを差し出すファンシーヌさんマジお母さん。
「ナオヤさん、私も商人ギルドに同行してよいでしょうか?」
「え? ええ、それはかまいませんけど……」
「では、同席させていただきますね」
「ありがとうございます。……そういえば、ファンシーヌさんってギルド長と知り合いなんですよね? 気まずくなるタイプの知り合いじゃないですよね?」
「ふふ、問題ありませんよ。私に何ができるわけでもありませんし」
「はあ」
微笑むファンシーヌさんにちょっと不安になる。
ただの知り合いとか昔お世話になったとか腐れ縁とかそういうのだったらいいけど……元カレとかだったら気まずすぎる……。
「大丈夫。大丈夫だって信じよう。そうだ、きっとうまくいく。うまくいってテナントが入ってアイヲンモール異世界店がちゃんとモールになって月間売上一億円の目標も達成できる。そんで俺は元の世界に帰れる。そうだ、きっとうまくいく」
自分に言い聞かせる。
不安を打ち消して、バラ色の未来を想像する。
クロエはまだぐすぐす泣いてて、ファンシーヌさんは微笑むだけで。
よくわからない空気の中、馬車がスピードを落としはじめた。
「店長さん、そろそろ到着で……どうしました?」
「いえなんでもないです! さあて、ひさしぶりの街だ! テナントに興味あるのはどんな人かなあ!」
不審がる行商人さんをごまかすように大声を出す。
俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから41日目。
最寄りの街には、何事もなく到着した。
不安はいろいろあるけど……とにかく、会ってみなきゃはじまらない。
テナントに興味あるのがまともな人でありますように! せめて一般的な人間でありますように! アイヲンモール異世界店はもうほとんどモンスターハウスだからね! 人間の従業員が少なすぎるからね!





