第十三話 私に、こんなにたくさんの部下が。部下に指示を出して、くふっ、これではまるで小隊長を任されたようではないか!
俺が店長になってから40日目のアイヲンモール異世界店。
営業前のまだ暗い早朝、俺は吹き抜けの広場にいた。
スーパー部分からテナントスペースをつなぐ、エスカレーター前の空間だ。
「な、なんというか……壮観だな……」
「うむっ! まるで騎士団のようだ!」
「ふふ、ありがとうございます、ナオヤさん、クロエさん」
三階分の吹き抜けの上、天窓からはまだ光が入ってこない。
けど、蛍光灯の明かりで広場は明るい。
明るいだけに、広場がよく見える。
30体の全身甲冑スケルトンが整列する、広場が。
「…………戦争でもしに行くのかな?」
「……たたかう?」
「あっうん、なんでもない。なんでもないから意欲見せないで寝てていいぞバルベラ」
30体の全身甲冑スケルトン。
先頭に立つのはマントをまとってひときわ豪華な兜飾りの隊長だ。
居並ぶ部下を見て満足そうに頷き、マントを外す。
ソファで丸くなってウトウトしはじめたバルベラにかける。
優しいんですねさすが紳士。騎士。中身スケルトンだけど。
並んでるのは隊長と全身甲冑のスケルトン部隊だけじゃない。
スケルトン部隊は一列六人で五列あって、その横にはエプロン付きスケルトンが一列、さらにその横に着ぐるみゴーストたちが一列。
上にはゴーストたちがふよふよ浮いてる。
「こうして勢揃いしてると、アイヲンモール異世界店はアンデッドだらけのダンジョンだったんだなあって……」
しかも、『旧市街地下墳墓や『石化の森』より強いモンスターがはびこる高レベルダンジョン。
なにしろウチにはドラゴンもリッチもいる。
「よかった。コレットとファンシーヌさんと、行商人さん一家は普通の出勤時間にしておいてよかった」
いくらアンデッドの存在を知ってるっていっても、さすがにこれはどうかと思う。
ずらっと並ぶと威圧感すごい。
あとなんか明るいのにぼんやり黒い霧が出てるのはなんでしょうか。
「みんな揃いましたね。ではナオヤさん、お願いします」
「はい……」
クロエがノリノリで用意してくれた木箱に上がる。
まるで、学校の集会で生徒に見つめられる校長先生だ。
もしくは納会やらキックオフやらで壇上に立つ偉い人。
訓示っぽい。
人生初の壇上での訓示がアンデッド向けって……。
アンデッドたちが静かに俺に目を向ける。目はない。
「いや待て俺、これは訓示じゃない。うん。初勤務に臨むアイヲンファミリーに向けた朝礼だ。朝のミーティングだ」
クロエは首から上だけ動かして、キラキラした目で俺を見る。
杖にした木剣に両手を置いて、なんだかさまになってる。さすが聖騎士。
アンナさんはいつものごとくニコニコと俺の言葉を待つ。
バルベラはソファで丸くなって寝てる。
朝のミーティングと思ったら、ちょっと肩の力が抜けた。
難しいこととかそれっぽいことを言う必要はない。
アンナさんにお願いされたけど、これはまあ初勤務に臨むスケルトンへの指示なだけで。
店長としての、ただのミーティングだ。
「おはようござーまぁす」
アンデッドからの返事はない。
着ぐるみゴーストとエプロン付きスケルトンは会釈して、全身甲冑はガシャっと胸に拳を当てて返礼してくれたけど。
軍隊感すごい。ただの朝のミーティングぅ…………。
「今日は臨時バイトに入ってくれてありがとうございます。四回目の『ドラゴンセール』は大混雑が予想されますが、しっかりお客さまに喜んでいただきましょう!」
「む? ナオヤ、売上の目標はいいのか?」
「ああうん、目標はあるけど、みんなにはあくまでお客さまに喜んでもらうことを第一に考えてほしいんだ。そうすれば結果はついてくると思うし、それでダメだったら店長の俺の責任だから」
「なるほど……一点突破ということだな!」
「突破してどうすんだ。おっと。えー、それでは各チームの配置ですが」
危うくクロエのペースに飲まれるところだった。
本題に戻る。
「まず、隊長と1チームはいままで通り周辺の警戒をお願いします。いつもより人が少なくなるけど……」
スケルトン隊長が頭の兜飾りを揺らして、任せておけ、と言わんばかりに胸に拳を当てる。
端の一列の全身甲冑スケルトンも同じ姿勢を取る。
いつもありがとうございます。頼りにしてます。もうアンデッドなしじゃ異世界店がまわらない気がする。
「着ぐるみゴーストたちはアンナさんの指示に従ってほしい。基本はお惣菜前の列整理や食材補充、イートインスペースのバッシングを頼むことになると思う。いままでと違う仕事だけど……大丈夫かな?」
ウサギやらイヌやらの着ぐるみに目を向ける。
と、着ぐるみたちがはしゃぎ出した。新しい仕事をお願いされてうれしいらしい。
アンナさんは「がんばりましょうね」とばかりに胸の前で手をきゅっとする。
「全身甲冑スケルトンの残り4チームは、列整理と店舗からの品出しを担当してほしい。…………クロエの指示で」
「うむ! よろしく頼む! くふっ、くふふっ。私に、こんなにたくさんの部下が。部下に指示を出して、くふっ、これではまるで小隊長を任されたようではないか! 私が、騎士団の小隊長、くふふふふ」
「不安すぎるぞ派遣騎士。クロエ、一時的な部下だからな? 騎士団じゃないし戦いに出るわけじゃないからな?」
「わかってるとも! だがこれだけの戦力があればたとえナオヤに無理やり襲われようとも! 返り討ちにしてくれる!」
「最初に考えることそれ? 襲わないしいまから仕事だからな?」
張り切るクロエに頭を抱える。
配下に入るスケルトン部隊がそっと視線をそらす。よろしくお願いしますぅ……。
ところでクロエは「騎士団長」じゃなくて「隊長」でテンション上がるのね。騎士団でよっぽどポンコツ扱いされてきたんだろうか。
「と、とにかく、営業時間のシフトはそんな感じで。セール特設会場の設営はここにいる全員でやるから、わからないことがあったら都度聞いてほしい」
言葉はないけど、アンデッドたちが頷いたり敬礼したりして返事をしてくれる。
ほんとありがたい。
ラバーマスクと全身甲冑でスケルトン部隊も外に出られるようになってくれて助かった。
俺とクロエとアンナさん、バルベラ、コレットとファンシーヌさん、それに行商人さんの一家。
従業員と臨時バイトのアンデッド総出で、四回目のドラゴンセールを乗り切る——
「——あれ? アンデッド総出? なんか、忘れてるような」
ぽつりと呟く。
べちゃっと湿っぽい音が聞こえた気がする。
台の上で視線を前に向ける。
べちゃべちゃと、音がした。
急いで近づいてくる、湿っぽい足音が。
吹き抜けの広場の先。
バックヤードにつながる通路から、肉がぐずぐずに崩れた人間が走ってきた。
ぺちゃぺちゃと湿った足音をたてて。
ゾンビだ。
目が合う。
と、ぺこぺこ頭を下げてくる。
遅れてすみません! みたいに。
「いや総出ったってゾンビは働かせられませんから! 衛生的に!」
「安心してくださいナオヤさん。赤死病はもう治ってますよ」
「そういう問題じゃなくてですねえ! エプロンと長靴と帽子と手袋をつけても、バックヤードでも厳しいですよ!」
お断りする。
と、ゾンビさんはしょぼんとして肩を落とした。
罪悪感すごい。
あ、物理的にも肩が落ちそうになってるのを見て罪悪感が薄れました。
お客さまに見られなくてもさすがに肉の崩れたアンデッドはちょっと……。肉片とか謎の汁とか……ついちゃうんで…………。
俺が店長になってから40日目のアイヲンモール異世界店。
とにかく、四回目のドラゴンセールに向けて、従業員総出でがんばります!
アンデッドは総出じゃないってことでよろしくお願いします。
遅くなりました……
次話は4/3(金)18時更新予定です!
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※なおこの物語はフィクションであり、実在するいかなる企業・いかなるショッピングモールとも一切関係がありません!





