第十二話 接客は避けるにしても! 列整理とか商品補充をやってもらえるだけで助かります!
「人を浮かせるにはレジをまとめて……それじゃレジ待ち大行列になるか」
紙に人員配置を書き込んではガリガリ消す。
ボロボロになった紙がまた積み重なる。
俺が店長になってから38日目のアイヲンモール異世界店。
俺は一人、フードコートで明後日に迫ったドラゴンセールのスペースと人員配置に頭を悩ませていた。
お惣菜、ドラゴン肉、海鮮、調味料。アンナさんの薬に行商人さんたちの日用品、コレットとファンシーヌさんのガレット。プラス、今回からピクニック用品にスーパーライトダウン。
販売予定のアイテム数を考えたら、いまの人員じゃどう考えてもまわらない。
まわせればいいってもんでもない。
「ドラゴンセールの目的は、アイヲンモール異世界店の魅力を知ってもらうってことだ。ストレスを感じさせたら逆効果だし、商品を絞ったら意味がない。くっ、別店舗があれば応援を呼べるのに!」
この世界でアイヲンモールはウチだけだし、人材派遣会社もない。
ここが日本なら応援を呼ぶか、せめて店頭販売のスタッフを派遣してもらうんだけど。
臨時雇用しても、アイヲン流接客はできないだろう。
というか人によっては文字を読めなかったり足し算できなかったりするらしい。接客以前の問題だ。
「……商人ギルドに泣きついたら、その辺クリアしてる人を借りられないかな」
商人ギルド長にめっちゃ嫌味を言われそうだけど。
わかってる、これは現実逃避だ。
人が足りないのは店長である俺のミスだ。
「今回は諦めて、縮小するしかないかなあ」
「ふふ、お困りですか、ナオヤさん?」
「アンナさん? お昼休憩ですか?」
いつの間にか、アンナさんが来てたらしい。
広いフードコートをとことこと歩いてくる。
後ろには、鎧をまとったスケルトン部隊もいる。
エプロン付きじゃないスケルトンを昼の店内で見かけるのはめずらしい。
サーコートをはためかせた隊長のほか、5体のスケルトンもみんな全身をおおう金属鎧を着込んでる。
兜も、細いスリットしかないタイプで生身は見えない。そもそもスケルトンに生身はなかった。
「どうしたんですか、隊長どころか何体も全身甲冑で。というかそんなにたくさん全身甲冑あったんですね」
「ええ。普段は森の中で行動しますから、身軽なハーフプレートですが……部隊全員分ありますよ」
「ええ……? 重装備アンデッド部隊とか何と戦うつもりなんですかねえ。それにこの世界じゃ揃えるのにだいぶお金がかかるような。どうやって手に入れたんですか?」
「ふふ、ナイショです」
「嫌な予感しかしない。揃いの紋章が入ってる件とか考えたくない」
アイヲンモールができる前に、アンデッド討伐に来た騎士団でも殲滅したんだろうか。
アンナさんは微笑んだままで応えてくれない。
応えてもらってもそれはそれで困るかもしれないけども。
「…………聞かないことにします。それで、どうしたんですか? モンスターでも出ましたか?」
「いえ、ナオヤさんがお困りだと聞いて、みんな駆けつけてくれたんです」
「はあ」
首をかしげる。
アンナさんは知ってるかもしれないけど、スケルトンに人材不足の話をした覚えはない。
と思ってたら、隊長の胴体からすうっと黒いモヤが飛び出してきた。
ゴーストだ。
「あ、昨日のゴーストくんかな?」
黒いモヤ、もとい、ゴーストが頷いてくれた。気がする。
「駆けつけてくれたって、まさか」
「はい! みんな、明後日のドラゴンセールを手伝ってくれるそうです!」
「やったあ、助かるなあ! スケルトンでも全身甲冑ならバレないもんなあ!ってなりませんよ! 至近距離で接客したら隙間から見えるに決まってるじゃないですか!」
つっこむ。
気持ちはありがたいけど、バレたら大騒ぎになるリスクは冒せない。
実はアンデッドだらけって知られたら、伸びはじめた客数がドカッと落ちそうな気がする。
……冒険者たちが増えるかもしれないけど。ドラゴンもいるし。
拒否されても、隊長もスケルトン部隊も落ち込んだ様子はない。
「ふふ、大丈夫ですよナオヤさん。よく見てください」
「ええ……?」
何が大丈夫なのかわからないけど近づいてみる。
隊長とゴーストが示したので、部隊の一体の手を取ってみた。
全身甲冑の隙間からは、粗い麻でできたような厚手の服しか見えない。
「あ、骨剥き出しじゃなくて服を着てるんですね。鎧下っって言うんですっけ」
「はい。これならニンゲンじゃないとバレません! 私が『幻惑』の魔法をかけてもいいんですけど、人数が多いですから」
「はあ。でも問題は服で隠せないところで……ああ、手袋もしてると」
なんかスケルトンが自慢げだ。
ゴーストは俺のすぐ横でそわそわしてる。
全身甲冑でぱっと見はスケルトンだとわからなくて、継ぎ目から見える内部も服を着てごまかしてる。それはいい。
けど、一番問題になりそうなところはそれじゃない。
顔を上げる。
じっと見つめる。
「いくら細いスリット? 覗き窓? しかないって言っても、近くで見たら顔が見え……顔が見え……? あれ?」
「ふふ。みんな、兜を取ってあげてください」
アンナさんの指示に従って、スケルトン部隊がガチャガチャ動き出した。
兜が脱げる。
顔じゃなくてスケルトンの頭蓋骨が剥き出しに…………ならなかった。
「顔が、ある?」
隊長と5体のスケルトンは、顔がついていた。
髪はない。
どこか見覚えのある顔をした人が多い。
へえ、隊長ってこんな顔してるんだ、思ったより若い、と思ったところで。
気づいた。
ぺたぺた触ってみる。
「ってこれラバーマスクじゃないですか! 仮装に使うパーティグッズの!」
「はい。ですから、間近で見ても気付かれないかと」
「それはそうかもしれませんけども! どこで見つけたんですかこれ!」
驚く俺の目の前を、ふわふわゴーストが漂う。
「んんー、どこかテナントのが紛れ込んだか? それともオモチャコーナーか?」
「その、バックヤードでこの子が見つけたんです。箱にしまわれてたんですが、窮地を救えるかもしれないって」
「それでも勝手に開けないように、ってそっか、開けなくても中見られるのね。ゴーストは床も壁も通り抜けてるもんね」
「はい。独断で申し訳ないのですが、私が買い取りますから……」
申し訳なさそうなアンナさんを横目に、スケルトン部隊が兜を装着する。
間近で見れば、目の隙間からうっすら顔が見える。
海外俳優さんとか、有名な某ミステリー映画の仮面の登場人物とか、見覚えのある顔立ちが。
けど、知らなければ作り物だとわからない。
「…………イケる。イケますよアンナさん!」
「ほんとですか!? やったね、みんな!」
ガッツポーズする。
アンナさんも小躍りして配下のスケルトン部隊を振り返る。
隊長もガシャっと鎧を鳴らして誇らしげで、ゴーストはぐるんぐるんまわってご機嫌だ。
「接客は避けるにしても! 列整理とか商品補充をやってもらえるだけで助かります!」
アンナさんと握手する。手が冷たい。
ガチャガチャ音を立てる全身甲冑スケルトンの肩を叩く。
やる気満々なのか、全身甲冑の中、ラバーマスクの奥で目が光る。
………空っぽの眼窩に、暗い赤の火が燃える。
「文字通りやる気に燃えてますね!ってああああああ! 目! 目が光ってるじゃないですか! これアンデッドってバレませんかねえええええええ!」
明るいフードコートに、俺の叫びが響き渡った。
俺が店長になってから38日目のアイヲンモール異世界店。
アンナさんとゴーストとスケルトンの機転で、人員不足はなんとかなりそうです。
目が光ってるけど。
隠してるとはいえ、スケルトンを人前に出すことになるけど。
…………大丈夫、大丈夫だ。
昼間の太陽の下なら多少目が光ったところで目立たない。大丈夫だ。
大丈夫だって信じてる!





