第九話 今回はあんまり自信ないんだけどな。商品を見せて説明して、感想や意見を聞かせてもらおうと思って
俺が店長になってから36日目のアイヲンモール異世界店。
今日の営業を終えて、俺は従業員を店内のエスカレーター前吹き抜け広場に集めていた。
ダンジョンを体験して販売しようと考えた商品を発表するために。
「なあナオヤ、何を売るんだ? どんなものなんだ!?」
店舗や従業員用アパートに住んでるみんなはともかく、クロエもいる。
早く知りたいと思ったのか、クロエは街に帰らず居残って聞くことにしたようだ。期待に目を輝かせている。
「んー、今回はあんまり自信ないんだけどな。商品を見せて説明して、感想や意見を聞かせてもらおうと思って」
「……美味しい?」
「たしかにお惣菜や食品が続いたけど、今回は食べられないぞバルベラ」
「……ざんねん」
バルベラがしゅんと肩を落とす。尻尾が力なく垂れ下がって、尻尾の先の火も小さくなった。
楽しそうにぶんぶん尻尾を振ってるコレットとは対照的だ。
「コレットもファンシーヌさんも、行商人さんも遠慮しないで意見を言ってくださいね。たぶん今回は、みなさんの意見が大事になりますから」
「はいっ! がんばろーね、お母さん!」
「ええ、わずかなりとご恩に報えるようがんばりましょうね、コレット」
「食べ物ではないとなれば私の知識と経験が役に立つかも知れません。店長さんの期待に応えられるといいのですが……」
コレットとファンシーヌさんが気合いを入れて、行商人さんはちょっと不安そうだ。奥さんはサポートしますよ、とばかりに行商人さんの肩に手を乗せて、娘さんは腰にしがみついてる。
クロエ、アンナさん、バルベラ、コレット、ファンシーヌ、行商人さん一家。
8人を前に、俺は準備してきたカゴ台車に向き直った。
あ、隊長もエプロン付きスケルトンもゴーストのみなさんもいたんですね。お疲れさまでーす。
新商品が気になってたのかな?
「次に売り出す商品は、これです!」
カゴ台車から商品を取り出して並べていく。
そう、今回ウリにしようと思ってる商品は一つじゃない。
なんなら、「お惣菜」や「肉」「魚介」「薬」みたいに、一つのジャンルでもない。
まず最初に並べたのは、ピクニック用品だ。
……本格的なキャンプ用品は、テナントの専門店じゃない「アイヲンスタイル」では取り扱いが少ないもので。
ないことはないけどね、「あ」から「ん」まですべてが揃うアイヲンモールだから!
「おおっ! これはなんだ!? どうやって使うのだ!?」
「今回は品数が多いからな、アンナさんに協力してもらって商品説明を書いた紙をつけておいた。読んでみて、わからなかったら聞いてくれ」
「ほうほう、なるほど! むっ、ここを押すと足が動くのだな! 持ち運びできるテーブルか!」
「おー、ピクニック用の折り畳みテーブルは反応いいな。どうだクロエ、売れそうか?」
「うむ、これは便利……ナオヤ、これ低くないか? どうやって使うのだ?」
「え? そりゃ地べたかシートに座って、料理や飲み物なんかをこの上に置くんだけど」
「ふむ……では貴族や騎士ではなく兵士や冒険者向け、だがそれならばこの折り畳みテーブルなしでも……」
「お手軽な折り畳みテーブルの、座卓レベルの高さだと難しいか。やっぱ本格的なキャンプ用品を発注しようかなあ。はあ、テナントに出店してくれないだろうか。日本から」
さっそくクロエが手に取ったのは、ピクニック用の折り畳みテーブルだった。
けどイスに座った高さになるタイプじゃなくて、言ったら「ちゃぶ台」だ。
貴族や騎士は野外でもイスに座りたがるし、兵士や冒険者はちゃぶ台がなくても気にしないと。
難しい。
「わあっ! すごいよおかーさん! これ、イスになるんだって!」
「こうして開けば……まあ。不思議な座り心地ですね」
「コレットとファンシーヌさんは折り畳みのイスの方か。どうです、売れそうですか?」
「木製の類似商品はあります。けれど、こちらの方が軽くて座り心地もいい。価格次第ですが、冒険者さんや街中で外仕事をする方々に売れると思いますよ」
「おおー、畳めるイスは高評価と。……これもキャンプ用品の方がいいヤツあるけど」
コレットとファンシーヌさんが見ているのは折り畳みできるイスだ。
骨組みがパイプで、座面は布、背もたれのない簡易タイプで、その分軽いしかさばらないし安い。
折り畳みテーブルはイマイチな反応だったけど、こっちはアリらしい。
テーブルとイスとセットにすれば売れるだろうか。
抱き合わせ商法じゃなくてね? 適正価格で有意義なセットとしてね?
「これは、明かりの魔道具でしょうか。ですが、魔力を使っている感じではない。といって火でもない」
「ああ、それは電池で明かりがついてるんです。カンテラと懐中電灯ですね」
行商人さんは小型のLEDカンテラと懐中電灯のスイッチをカチカチして点けたり消したりしてる。
聞けば、明かりの魔道具で同じようなものがあるらしい。
となると、電池はアイヲンモール異世界店でしか買えない分、不利だろうか。
「……バサバサする。楽しい」
「バルベラ、それはオモチャじゃないぞ。レジャーシートって言うんだ」
「……しーと?」
「野外用の敷布だな。けど、布と違って水を弾くし汚れも落としやすいんだ」
バルベラはレジャーシートとブルーシートの山を広げてゴロゴロ転がってた。
ひやっとした感触と音が気持ちいいらしい。
アンナさんに代筆してもらった商品説明が役に立ってない。
「水を弾く布だとッ!? 私にも見せてくれナオヤ!」
「ああ、どうせだから試してみようか」
ダダッと駆けてきたクロエを片手で押さえつつ、用意してたペットボトルを傾けて水をこぼす。
レジャーシート、ブルーシート。
どっちも水を弾いて、シートの上に小さな水たまりができている。
あ、やめてバルベラ尻尾の火を近づけないで。せっかくの水が蒸発しそう。
「おおッ! ナオヤ、これで作った雨具はないのか!?」
「この薄さで水を通さないのですね。これは……」
「わあ! すごいねお母さん!」
「あれ、この世界に雨具はないんですか? 雨が降ったらどうするんだろ」
「たいていは濡れるがままです。ですが、私のような行商人は防水加工をされた布を馬車や荷台の幌にしていますね。なかなかお高いのですが……」
「きちんとオイルを塗った皮を雨具とする冒険者もいます。ふふ、けれど、どれもこれほど安くは手に入りませんよ」
「あ、けどどっちも完全防水ってわけじゃないんですけど」
「まだ水が染みていないのだ、充分だろう! 雨の行軍は騎士団や兵士の天敵なのだぞ! 雨は防げないわ、腰を下ろせば濡れるわで大変なのだ!」
「なるほど、防水の布や皮? はあるけどお値段や携行性に難があると。……売れそうだなこれ」
レジャーシートとブルーシートへの食いつきがいい。
これも、キャンプ用品店やホームセンターならもっと大きかったり厚手のものがあったりするんだけど……。
クロエはブルーシートを手にして「軽い、軽いぞ!」と楽しそうだ。
コレットはバルベラに引っ張り込まれてゴロゴロ転がりだした。
アンナさん、隊長のマントをブルーシートに替えるのはどうかと思います。
行商人さんは値付けにうなりだした。
防水性、携行性。
街の外に出る人たちには、このあたりが重要なんだろう。もちろん価格も。
「んー、これなら、ダンジョン体験して思いついた目玉商品も、ちゃんと目玉になるかもな」
俺が店長になってから36日目のアイヲンモール異世界店。
明日から店頭に並べる商品に、ちょっと自信出てきた気がする。





